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足りてますか?エナジー

『足りていますか?エナジー?』



 駅構内の壁に貼られていたごくごく普通の広告に目が留まってしまうほどには私は疲れている。『疲れている』と一言では言い表したくないくらい、「スーパーミラクル、ハイパーグレード疲れている」のだが、



「そういう言葉で表現できるという事は実は元気なんじゃないの」



って年上の知り合いに言われてからはその形容詞っぽいものを使いたくなくなっている。なぜ、大袈裟に言うと本当っぽくないのだろう。いや、大袈裟には言ってないのだが、凄さを表現しても、それがテンションが憤りや怒りでマックスになっていて、アドレナリンを出てないともたないくらいの疲労具合なのに、疲労困憊だと言葉が出てこないという常識があるのか、それが大袈裟に聞こえるらしい。




「エナジーなんて、そんな安っぽいドリンクで回復するなら幾らでも飲むわよ…」



と愚痴を言う。誰に言っているのかというと、疲れている人間をドリンク一本で動かしてやろうと思っている業界に言いたい。伝わらないけど。だいたい、「エナジー」なんて「エネルギー」と同じでしょうに、耳慣れない響きを使う事で効果的に見せようとするその精神は見倣いたいけど、エナジーにしてもエネルギーにしても、そういう問題じゃないのよと説教したい。



「って、説教するくらいのエネルギーがあるでしょ?」




とかあの人に言われそうだから、もう考えない事にしようと思って出口に向かって歩き出す。すると、何の因果か、外に出てしばらく行ったところで白っぽいフリースを着ている数名の人が道行く人に何かを配っているのを見たと思ったら、それは先ほどのドリンクの試供品だった。




「新しいドリンクです。どうぞ~!!」



「新発売です。お試しください!!」




 やけに笑顔で元気が良さそうなのがちょっと癪に障る。ドリンクがあの広告のドリンクだと気付いて、表情に苦々しいものが浮かんでいたのを見られてしまったのか



「疲労回復に効果抜群ですよ!!」



とちょいイケメンのお兄さんににっこりと勧められてしまった。断る理由はあるけれど、この眩しい笑顔に少し気を許して一応いただく。喉を通った液体の味はごくごく普通のもので、何というか見掛け倒しという印象がぬぐいきれない。実際、飲み終わってからも特に体調に変化があるわけではなく、それは当たり前なのだが、その事がこの瞬間だけはやけにムカついた。



「普通のドリンクですね!!」




皮肉を込めて、笑顔でわざと元気に言う。だがお兄さんは先ほどのままのスマイルを崩さない。



「そうなんですよ。味は普通なんです!!」



「それに、多分あんまり効果ないでしょ?」



お兄さんに恨みはないが、思ったことをそのまま口にする。



「はい。そうなんですよ。僕もさっき疲れたので飲んだんですけど、全然効かないのでまいっちゃいました!!」



 これも笑顔のまま言うお兄さん。若干首を捻りたくなる返しだったが、否定はしないので悪い気はしない。



「お兄さんも良くやるよね。仕事とはいえ、大変でしょう?」



何となく同情的になってしまったのに言ってから気付いた。



「でも僕、笑顔だけが取り柄だって言われてますから、ここで頑張らないと!!」



 不覚にもそう言ったお兄さんが一瞬とても眩しく見えてしまった。確かに前向きなのはいいけれど、よく考えてみるとそれはちょっとどうなのか…と思う。



「でも頑張ると疲れるよ?スーパーミラクル、ハイパーグレード疲れるよ?」



ちょっと馴れ馴れしくなってしまったが、お兄さんは少し不思議そうな顔をしたあと何を思ったのか「あっはっはー!!」と大きな声で笑い始める。



「なんですか、それ?お姉さん、なんか凄いです!!」



尚も爆笑するちょいイケメン。からかわれているような気がしてちょっとムッとしてしまう。



「何が凄いのよ!わたしは本当に疲れてるのよ!!でも疲れてないって思われるし!!」



愚痴を言う相手ではないのだが、愚痴を言ってしまっている。するとお兄さんは突然真面目な顔になって



「いえ、凄いです。疲れているのに、そんな時でもユーモアを忘れないって凄い事です」



と言った。わたしはそれを聞いて、ドキッとしてしまった。ちなみに彼に見つめられているのもドキッとしている。わたしは自分でそんな事を考えた事もなかった。でも確かに、わたしがこういう表現をするのは疲れに呑み込まれまいとする気持ちからだったのかも知れない。




「…笑顔だけが取り柄なんて嘘じゃん」



わたしはボソッと呟いた。



「え?何か言いました?」



 また先ほどのような笑顔に戻っているお兄さん。ちょっとモヤモヤしたのでついでに言う事にした。




「ううん。ただそのドリンク買ってもいいかなって思っただけ」



「え、本当ですか!!ありがとうございます!!」



「その代わり…」



でも癪だからタダでとは言わない。



「その代わり?」



「わたしのこと、応援してよ。その方が元気でるから(小声)…」



「分りました…お姉さん、ファイトです!!!」



「ふふ…ありがとう」




 その後、何でもない栄養ドリンクを律儀にコンビニで買ったわたし。あの日以降、お兄さんは見ていないけれど、駅の構内でごくごく普通の広告を見るたび、そしてあの別に美味しくもないドリンクを飲むたび不思議とエナジーが湧きあがってくるのは何でなのだろうか?とわたしはわからないふりをしている

過去作ですので、少し懐かしい感じです。

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