ep. 5 忘却の呪い、凝縮する過去①
毎日16時30分投稿
村の中心にある公民館は、これまた時代に取り残されたかのようなたたずまいだ。入り口の木製看板はペンキが剥がれ落ち、「公民館」の文字が辛うじて読み取れる。建物全体がうっすらと埃をかぶっており、窓ガラスはテープで補修した箇所が何カ所もある。
敷地内には、村の蛇神様への信仰を示す祭壇が築かれていた。積み上げられた石や、蛇の形に彫られた木造が、ほとんど沈み掛けた太陽の光を怪しく反射している。祭壇を囲むように柱が八本立てられ、それを注連縄でぐるっと囲っている。よく見ると、縄には乾いた血痕のようなものが何カ所もあるのがわかる。あの注連縄で何をしてきたのか――きっとろくでもないことだろう。
「ここにも奴らが……」
と、シロが警告して言う。
私は塀の影に隠れて覗いてみた。鎌や鋤などの農具で武装した蛇頭人が複数体。しかも、公民館の敷地内はあの祭壇以外遮蔽物がない。見つからずに入るのは至難の業だ。
「仕方ないわね。倒していこう」
私は腰に差した特殊警棒を伸ばすと、蛇頭人の一体が自分に最も接近する瞬間をうかがった。飛び出しざまに、確実に一体持っていく。
ザッ……ザッ……という足音が段々と大きくなる。斧を持った蛇頭人が、ゆっくりと、しかし確実に、私のいる方へと向かってくる。
――今だ!
両足にめいっぱい力を込め、放出。鹿に飛びかかる虎のように地面を蹴って飛び出し、斧持ち蛇頭人に肉薄した。腕を掴んで回し、強引に斧を剥ぎ取る。蛇頭人は不意打ちに反応できていない。
みぞおちを警棒でド突いてダウンさせ、無防備になったうなじに奪った斧を突き立てる。一体キル。斧を抜くと、血を噴水のように噴き出してその場に倒れた。
「気付かれた。来るぞ」
「分かってる」
作戦通り、不意打ちで一体を処理できた。が、今ので他の蛇頭人が私に気が付いた。シャーという咆哮を上げ、一斉に私目掛けて向かってくる。
正面から包丁を持った蛇頭人を先頭に、その後ろから斧持ち、鋤持ちが計二体。また右から木製バット持ちが一体、左からのこぎり持ちとトンカチ持ちが一体ずつの計二体。
まずは正面の包丁持ちからだ。頭を狙って斧をシュート――しかし、外れて左太ももに命中。狙いは外れたが、包丁持ちの体勢が崩れた。包丁を落とし、悲鳴を上げて膝をついている。私はそこへダッシュで近付き、太ももに刺さった斧を抜いて頭頂部に突き立てた。
地面に落ちた包丁を拾って右から来るバット持ちに投げつけ、正面の斧持ちに対処。私目掛けて斧が振り上げられている。私は身を低くしてそいつの懐に潜り込んで腕を掴み、そのまま前に転がるようにして投げ飛ばした。斧を落とし、ドサッと包丁持ちの上に受け身も取らず落下する。
斧を拾ってトドメを刺したいところだが、その前に鋤持ちの対処だ。のこぎり持ちとトンカチ持ちも近い。
槍のようにして突き出された鋤を警棒で弾き、近付いて柄を掴む。そのまま押し込んで鋤持ちのみぞおちを突き、鋤を奪取。持ち替えてよろけている鋤持ちに突き刺し、とどめを刺そうとした、そのときだった。
左から、トンカチが私の頭を狙って振り下ろされていた。私は咄嗟に鋤の柄でガード。弾きつつジャンプして後退したところに、背後からバットの空を切る音。振り向きざまに鋤の柄で防ぐ。バットのぶつかる鈍く重い衝撃が柄を伝って両手に響く。が、それで崩されては駄目だ。
両足に力を込めて踏ん張り、バットを弾く。一瞬だけ、バット持ちの胴ががら空きになったのを、私は見逃さない。鋤を構え直し、間髪入れずに首を目掛けて一突き。引き抜き、前方に倒れたところでダメ押しのもう一突きを入れる。
これで残るは、のこぎり持ちとトンカチ持ち、斧持ちと鋤持ちの四体だ。
私は足元に落ちていた包丁を拾い、斧持ち目掛けて投げた。包丁は斧持ちの左肩に命中。突き刺さり、斧持ちは左肩を押さえて悶絶している。
その隙に鋤持ちに接近。鋤は私の手にあるため、いまヤツは得物を持っていない。鋤を構えて突撃。全体重を掛けて先端部をそいつに押し込んでいく。ヤツも抵抗したが、公民館の壁にぶつかり、後退する先がない。最後に目一杯力を込めて突き刺し、後ろから来る奴らに対応。
のこぎりが私の首をロックオンしている。私はそれを警棒でガードしつつ、足を振り上げて金的。のこぎり持ちが息子を両手で押さえて悶絶すると同時に、今度はトンカチが眼前に迫る。
トンカチを振り下ろす手を押さえてガード。そのまま警棒で殴打しようとしたが、もう片方の腕が私の首に伸びた。滑らかに五本の指が私の首を覆い、力強く締まる。
そのときだった。横目で、斧持ちが肩に刺さった包丁を抜いて投げようとしているのが見えた。私は咄嗟にぐいっと、トンカチ持ちの身体がそちらに向くように立ち回る。と同時にヤツが包丁を投擲。見事、トンカチ持ちの右肩に命中した。
トンカチ持ちが悲鳴を上げてのけぞる。その隙に私はトンカチを奪い、トンカチ持ちと、復帰しかけだったのこぎり持ちの頭を素早く連打の後斧持ちに向けて投擲。トンカチはクルクルと回転しながら飛び、吸い込まれるように斧持ちの頭にヒットした。
「これで全滅?」
「いや、まだ来るぞ」
見ると、竹槍やドスを手に持った新手の蛇頭人が三体、塀を乗り越えて侵入してきた。
「キリがない。建物内に逃げ込め」
幸い、公民館の玄関が近い。私はダッシュで斧を拾い、公民館のドアを開け、中に逃げ込んだ。
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