ep. 7 壮麗なる虚飾大社①
毎日16時30分投稿
「これは……」
シロが私の首元で低く唸った。
目の前にそびえ立つのは、巨大な木造の鳥居。しかし、その向こう側は乳白色の濃霧にすっぽりと覆い尽くされており、一寸先すら視認できない。夜の闇と相まって、まるでそこだけ世界が切り取られ、ぽっかりと口を開けた深淵のようだった。
「鳥居をゲートにして、異界に繋がっているな。蛇神はこの向こうだ。ここをくぐったら、蛇神を殺すか、死ぬかだ。覚悟はいいか?」
「覚悟なら、できてる。行こう」
私は息を整え、心を落ち着かせて鳥居の向こうの濃霧へと足を踏み入れた。
一瞬、鼓膜に圧がかかり、ひんやりとした空気が全身を撫でる。霧が晴れた先――私の目に飛び込んできたのは、息を呑むような光景だった。
見渡す限りの水上――そこに淡く発光する無数の睡蓮が咲き誇り、清水の舞台を彷彿とさせる、朱色に彩られた壮厳な社が水面に浮かぶようにして広がっていた。足元は磨き上げられた木製の廊下、部屋は青々とした畳が敷き詰められ、白い障子で仕切られている。血と泥にまみれた外の村とはあまりにかけ離れた、神聖で、そしてひどく虚飾めいた空間だった。
私が廊下を歩き、十字路に差し掛かったそのときだった。前方に旧日本軍の軍服めいた衣装に身を包んだ蛇頭人――蛇頭兵が一体、こちらに向かってくる。別の道を行こうと右を向くと、そちらからも蛇頭兵。後ろ、左も同様だった。
――囲まれたか。
一瞬、誰も動かず睨み合いの時間。その静寂を破り、正面の兵が腰の拳銃を抜いた。とほぼ同時に他の兵も銃を抜き、私に向けようとした。開戦の火蓋が切られた。
私は左から来る兵の動作が他より少しだけ遅れていたのを見逃さなかった。地面を蹴り飛ばし、転がるようにしてそいつの足元へダイブ。両足を掴んで地面に倒し、首に腕を回して締め上げ、銃を持った手をもう片方の手で押さえる。
今までの戦闘で感じていたが、蛇頭人たちはフレンドリーファイアに細心の注意を払っているようだ。ならば、こいつを盾にしている限り、ほかの三体は軽々しく撃てないだろう。
強引にそいつから拳銃を奪い、こちらに向かってくる三体に向けて乱射。倒れたことを確認してから、盾にしていたこいつの脳天に接射して仕留める。
立ち上がり、倒した兵から予備マガジンを物色していると、障子が勢いよく開き、朱色の鎧に身を包んだ蛇頭人――紅鎧蛇武者と、蛇守兵たちがぞろぞろと姿を現した。先陣を切って、紅鎧蛇武者の一体が刀を上段に振りかぶり、私に向かって斬りかかってくる。
私はあえて前に踏み込み、武者の懐に転がり込む。スカートからヌンチャクを引き抜き、足と首に絡めとって背負い投げの要領で畳に叩きつけた。武者が手放した刀をすかさず空中で奪い取り、鎧の隙間――首元の急所に深々と突き刺す。
休む間もなく、前方から別の武者が刀を水平に構えて突きを放ってきた。私は奪った刀の鎬でそれを受け流し、すれ違いざまに奴の首を真横に薙ぎ払う。血飛沫が白い障子を赤く汚した。
直後、乾いた破裂音が響いた。拳銃を構えた蛇守兵が二体接近し、私に向けて発砲してきたのだ。私は弾丸を避けるようにして横に転がり、隣の部屋へと逃げ込み、太い大黒柱の陰に背中を預けた。
木の弾ける音と削りカスが頬を掠める。私は銃撃が途切れた一瞬の隙を突き、柱から身を乗り出して応射した。タタタンッ、と三発。一体の胸と頭をぶち抜き、即座に身を隠してもう一体からの反撃をやり過ごす。奴の銃の撃鉄がカチッと空を切る音が聞こえた。リロードの隙だ。私は再び飛び出し、残りの二発でそいつの眉間を正確に撃ち抜いた。
急いで倒れた兵のもとへスライディングし、空になった自分のマガジンを抜いて捨てる。兵のベルトから予備マガジンを引っこ抜き、自らの銃に叩き込んでスライドを引く。
ドカドカと足音を立てて、さらに蛇守兵が押し寄せてきた。無数の銃口が私を捉え、火を噴く。
私は畳を蹴り、柱や神棚などの遮蔽物を転々としながら、確実に急所を狙える距離まで肉薄した。遮蔽物から上半身だけを乗り出し、一番近い兵に二発撃ち込んで絶命させる。そのまま崩れ落ちるそいつの体を盾にし、背後にいた一体に四発の銃弾を浴びせた。
背後に殺気。振り返るより早く、新たな兵が私に銃を突きつけていた。
私は撃たれる寸前、肘でそいつの腕を跳ね上げ、関節を極めながら強引に体を入れ替える。背後から羽交い締めにし、肉の盾にしながら、空いた手で素早くマガジンを交換した。
前方から突っ込んでくる兵の胴体に二発叩き込み、用済みになった羽交い締めの兵の側頭部に銃口を押し当て、一発で脳天を吹き飛ばす。
倒れた兵からマガジンを漁っていると、隣の部屋の障子が派手に吹き飛んだ。身の丈ほどもある大太刀を振り回し、紅鎧蛇武者が突入してくる。
横薙ぎの凶刃を咄嗟のローリングで回避し、膝立ちの姿勢から三発撃ち込む。だが、硬い紅鎧に弾かれ、火花が散るだけで致命傷にならない。
「ならッ!」
私は武者が大太刀を振り下ろす懐へ自ら飛び込み、奴の胴体に組み付いた。そのまま全身の体重を使い、押し倒すようにして自分ごと畳に倒れ込む。ドスンと重い音が響く中、私は武者にしがみついたまま、兜と鎧の隙間――無防備な首筋に銃口をねじ込み、二発撃ち込んで息の根を止めた。
もうすでにかなりの敵を殺したが、しかし息をつく暇がない。部屋の入り口から、さらに複数の蛇守兵が突入してくる。
私は仰向けのまま反撃の弾丸を放ち、一体の膝を砕きながら立ち上がり、素早く柱の陰に滑り込んでリロード。
兵の一体が、柱を挟んで私と反対側に取り付いた気配がした。私はわざと足元に視線を落とす。柱の横からはみ出た奴の足の甲めがけて一発撃ち抜いた。
ギィヤアッ……と悲鳴を上げて怯んだ隙に飛び出し、銃を持つ腕を掴み、一本背負いで畳に叩きつける。
倒れた兵が引き金を引けないよう、その右手をごきりと踏みつけながら、サーベルを抜いて斬りかかってきた別の兵の胸に三発撃ち込む。最後に、足元で呻く兵の頭に一発撃ち込んでトドメを刺し、血に濡れたマガジンを回収した。
私は弾倉を確認しながら、さらに社の奥へと進む。
蛇神の防衛線は厚い。奥の襖が次々と開き、新手の兵や紅鎧武者がぞろぞろと湧き出してきた。
私は巨大な神像の背後に飛び込み、降り注ぐ弾雨をやり過ごす。銃声がまばらになった瞬間に飛び出し、撃ち返しては次の遮蔽物へと移動する。その移動の合間にも一体の頭を吹き飛ばし、リロードを済ませる。
角を曲がって突っ込んできた兵を待ち構え、至近距離から二発撃ち込んで確殺。だが、そのすぐ後ろにいた兵と鉢合わせた。奴の銃口が私の顔面を捉えている。
私は左手で奴の銃を持つ腕を外側へ弾きながらホールドし、足を掛けて一緒に地面に倒れ込んだ。寝そべった状態のまま、銃を構えて後続の兵に連射して蜂の巣にし、ホールドしてもがいている兵の顎下から最後の一発を撃ち抜いた。
死体からマガジンを抜き取り、装填しながら立ち上がる。前方に銃を構えた兵が迫る。
私も即座にそちらに銃を向ける。早打ち勝負だ。引き金を引く――が、手応えが軽い。弾詰まりだ。連続使用と酷使で機構が悲鳴を上げたか。
「クソッ!」
偶然敵もジャムった。敵は慌ててサーベルを抜こうとする。私は咄嗟に、鉄の塊と化した銃を兵の顔面めがけて全力で投げつけた。ゴッ、と鈍い音がして兵が怯む。その一瞬の隙に懐へ潜り込み、襟首を掴んで一本背負いで床板に叩きつけた。
だが、そのさらに奥から、新たな銃持ち兵の部隊が現れ、一斉掃射を仕掛けてきた。視界の端で木片が弾け飛ぶ。私は間一髪のところで隣の部屋へダイブし、銃弾の嵐から逃れる。
転がり込んだ先の部屋は、酷く異様な空気に包まれていた。
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