ep.6 毒芹
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「それで……次はどうすればいい?」
と、私。
「北に行ったところに蛇神を祀る神社がある。そこに向かおう。――敵だ。多い。ここを包囲してるぞ」
上階からガチャンと、窓ガラスが割れる音がした。と同時に足音が多数。私たちを確実に仕留める気だろう。
「強行突破だな」
来た道を戻り、私は慎重に階段から顔を出して一階の様子をうかがう。と、近くから足音。数はおそらく三。もうじきここを通りかかるだろう。 拳銃をいつでも撃てるように構え、時が来るのをじっと待つ。
――来た!
見上げるとすぐ蛇頭人の姿。こちらには気付いていない。私は一気に跳躍し、そいつめがけて飛び掛かった。地面に倒れこみつつ背後に回り、首を絞めてホールドする。他の二体が慌ててドスを構えるが、時すでに遅し。蛇頭人を盾にしながら速射で仕留める。二体が倒れたのを確認してから押さえつけていた蛇頭人の頭に銃口を突き付け、接射。
至近の敵はひとまず片付いたが、まだ油断ならない。今の銃声で敵に位置がバレた。すぐにでも敵が押し寄せてくる。
奥から蛇頭人が一体、散弾銃を構えてこちらに向けている。
――まずい!
私は転がるようにして近くの本棚の陰に身を隠した。その直後、轟音と共に本棚の端が欠けた。止まっては駄目だ。本棚では身は隠せても防壁にはならない。
本棚を抜けたと同時にまた散弾銃を持った別の蛇頭人と接敵。そいつが銃を構えるよりも早く銃身を掴んで固定。と同時に拳銃の引き金を引いたが、何も起こらなかった。先ほどの戦闘で残弾がもう無いのだ。とっさに私は銃床で蛇頭人の頭を殴打。ひるんだすきに散弾銃を奪い取り、構えてゼロ距離射撃。
「これは……ウィンチェスターM12か。いいものを拾ったな」
倒した蛇頭人から散弾ベルトをはぎ取って腰に巻き付け、後ろを追ってきた蛇頭人の軍団に銃を向ける。さすがはポンプアクション式、連射が容易だ。散弾の雨が奴らを次々と肉塊へと変貌させていく。
一通り倒したところで太い柱に隠れてリロード。再び身を乗り出し、蛇頭人の軍団を強行突破した。
「ここまで来れば大丈夫だろう……」
と、シロが言う。
「それで、神社はどっちなの?」
「こっちだ」
もうとっくに日が落ち、まん丸い月が堂々と暗黒の空に鎮座している。シロの案内でたどり着いた神社に続く森の中の石階段は、生い茂った木々に遮られて月明かりが届かない。両脇に等間隔で配置された灯籠の明かりだけがゆらゆらと、闇を頼りなく照らしている。
「ここも敵だらけだ。気をつけろよ」
「ええ」
階段に足を踏み入れた瞬間、蛇頭人が複数、茂みの中から飛び出してきた。前方から三体。ショットガンの速射で叩き落す。直後、背後から蛇頭人がしがみ付いてきた。腕を回し、私の首にナイフを突き立てようとしている。
私はその腕をしっかり押さえて防ぎながら、肘で思い切り蛇頭人の顔面を殴打。一瞬怯んだ隙にナイフを奪い取り、蛇頭人の喉に突き立てる。
さて次は……と、何やら今までのとは雰囲気の異なる蛇頭人がこちらに突進を仕掛けてきた。私は即座にショットガンを構えて撃ったが、鎧でも纏っているのかまるで効き目がない。
――しまった!
突進を避けようとしたが、一瞬遅かった。そいつの全体重の乗ったタックルをもろに受けてしまった。車に轢かれたような、押しつぶされるような圧力とともに後ろに吹き飛ばされ、階段を五段ほど転げ落ちる。
「あいつ、鱗が岩のように固い――ッ」
ショットガンを拾って立ち上がろうとしたと同時に、奴が私の目の前に立ちはだかる。首を片手でがっしりと握り、軽々と私の体を持ち上げた。もう片方の手で足首を掴み、視界が九十度回る。口裂け女のような巨大な口を開けて咆哮。
――こいつ、私を食らう気か!?
咄嗟に私は運よく拘束されていない両腕を動かし、ショットガンの銃口をそいつの喉の奥深くまで突き刺し、引き金を引いた。と同時に、そいつの後頭部がはじけ飛ぶ。悲鳴を上げる間もなく、そいつは沈黙した。
「沙羅、大丈夫か?」
「ええ。それより、まだまだ序の口みたいよ」
階段の上を見やると、灯籠のぼんやりとした明りに照らされて、何体もの蛇頭人の影が見える。奴らはよほど私に、ここを通過してほしくないと見える。
――そんなに私が怖いか、蛇神?
リーダー格らしき蛇頭人がキシャァという鳴き声とともに錫杖を振るって私を指す。と同時にほかのやつらが一斉に押しかけてきた。
私もそれに合わせて走り出す。先頭を散弾一発で屠り、横から私めがけて振るわれた竹刀をショットガンの銃身で受ける。そのまま竹刀の第二節あたりを掴んで固定し、脛を蹴り上げて態勢を崩し、ノーガードの頭頂部にゼロ距離射撃。
続けざまに他の蛇頭人を狙って引き金を引くが、発射されず。弾切れだ。即座に私は持ち替え、銃床で蛇頭人の鼻先を殴打。そのままフルスイングで横顔をぶん殴り、大きく開いた口に銃を挿し込む。地面に押し倒し、さらに奥深くへ食い込ませるべく二、三度地面に叩きつけたところで動かなくなった。
――次はッ!?
次の敵を探した、そのときだった。突如として背中に激痛が走った。何か硬いもので殴られたようだ。思わず前によろけながら振り返ると、そこにはヌンチャクを携えた蛇頭人。
反射的にその場に落ちていた竹刀を拾ってそいつに向ける。が、あっさりとヌンチャクで絡めとられ、一瞬で私の手から離れていってしまった。と同時にヌンチャクの棍が眼前に迫る。
左の頬から顔全体、そして頭に衝撃が響く。一瞬遅れてすべてが粉砕されるような鈍い痛み。文字通り視界に星が見えた。気づくと私は地面に横たわっていた。口内が裂けたのだろう、血の味がする。
見上げると、奴が再びヌンチャクを私めがけて振り下ろそうとしていた。私は即座に地面をころがって回避。身を起こし、ドスを抜いて奴の足元に飛び込み、太ももに力いっぱい突き刺した。蛇頭人が奇声を上げてヌンチャクを振るったため、私はドスを引き抜いて後退。
蛇頭人は怒り心頭らしい。頭に血管が浮き出て見え、血走った目で私をキッと睨みつけている。踏み込み、一瞬で距離を詰めてきた。迫る棍をドスで弾く。が、重い。弾くことこそ成功したが、腕が持っていかれて正面ががら空きになった。そこへ容赦なく膝蹴りを入れてくる。
「くっ……」
腹をけられて前かがみになったところへ今度はヌンチャクが胸部を殴打。再度正面がノーガードになってしまったそのときだった。私を殴って一周回った棍が今度は秘部に直撃した。
もはや声が出なかった。下腹部から内臓全体を鷲掴みにされたような、今までに感じたことのない重い鈍痛。肺から空気がこみ上げる吐き気とともに強制的に押し出され、両足から完全に力が抜けた。神経という神経がショートし、視界がチカチカと点滅する。全身から嫌な汗が噴き出て服を湿らしていく。私はその場にガクンと膝をついてしまった。
私がその不快な痛みと格闘している最中にも、蛇頭人はお構いなしに攻撃を続けた。動けない私の背後に回り、ヌンチャクの鎖部分を首に回し、クロスして締めあげる。
「ガハッ……」
さっき全部の空気が抜けだしたせいでろくに息が持たない。徐々に視界が暗くなっていく。このままでは駄目だ。
私はいま私に残っているありたっけの力を腕に集中させ、ドスを強く握りしめ、蛇頭人の足に突き立てた。空間をつんざくような甲高い悲鳴が耳を貫く。と同時に首を縛る力が消えた。即座に私は前方に脱出し、両手を地面について大きく息を吸う。
――まだだ、まだ敵は死んでいない。
私はどうにか立ち上がると、刺された箇所を押さえてうずくまっている蛇頭人のもとへ寄り、開脚させ、ありったけの力でこいつの息子を踏みつけてやった。声にならない声を上げ、気絶。のど元にドスを刺してとどめを刺した。
「クソ、まだいるのかよ……」
行く先を見ると、蛇頭人の第二陣だ。まだまだ戦いは終わりそうにないようだ。
私は息を整えると、敵のヌンチャクを拾って構えた。正面から突撃してくる蛇頭人の槍を鎖で絡めとって投げ倒し、後ろからくる奴の得物を振り向きざまに叩き落とす。間髪入れずに下段からアソコヘ棍を叩き込み、その流れのまま横から来た蛇頭人の顔面にめり込ませた。
そんな調子で敵は最後の一体になった。相手はすでに武器をどこかに落としており、素手。私はジャンプして飛び掛かって地面に倒れこみ、二本の棍でそいつの頭を何度も殴打した。が、敵も粘る。覆いかぶさっていた私のみぞおちに鈍い痛み。蹴り飛ばされてしまい、私は地面に横たわった。
もうずいぶん前から息が切れている。すぐに立ち上がることができない。灯籠にしがみつき、やっとの思いで立ち上がったとき、すでに蛇頭人は目前まで迫っていた。
私は奴の顔面目掛けてヌンチャクを振るう――と見せかけて下段からの攻撃。奴は見事に引っ掛かり、両腕で顔面をガード。その隙にアソコヘ渾身の一撃。アソコを押さえて丸まった隙にフルスイングの棍を顔面に叩き込んだ。
だが、その遠心力に耐えられず、私も地面に手をついてしまった。顔から髪から、汗の粒が雨のように滴り落ちる。短く浅い呼吸に連動して肩が上下する。
「もう限界だ、沙羅。休んだほうがいい……」
「分かってる……少し休んでから進もう……」
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