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童話

メレンゲ・パイのお姫さま

作者: 六福亭

 あるとても天気がいい日に、奥さんはパイを焼くことにしました。


 材料は、たくさんの卵、お砂糖、小麦粉、バターなどなど。まずは、卵の白身と砂糖を泡立てて、ふわふわのメレンゲを作ります。

 メレンゲの次は、パイの生地を作りました。卵の黄身を塗ったパイ生地の上にメレンゲをのせて、熱々のかまどに入れました。焼き上がるまでには、長いこと待たなくてはいけません。その間に奥さんは、毛糸の編み物の続きにとりかかりました。今作っているのは、旦那さんの靴下です。はだしだと床が冷たいと、旦那さんがいつもこぼしていましたからね。

 奥さんは編み物がとても上手でした。息子たちが家にいた頃は、セーターやマフラーをよく編んであげていました。息子たちは結婚して家を出て行ったので、もう奥さんがセーターを編むことはないのです。時々奥さんは、それをとても寂しく思うのでした。

 

 さあ、パイが焼き上がりましたよ。さくさくとしたメレンゲに可愛らしいこげ目がついた、まあるいパイです。鼻を近づけると、良い匂いがします。奥さんは、窓を開けて、畑仕事をしていた旦那さんを呼びました。

「メレンゲ・パイができましたよ」

 旦那さんは喜んで戻ってきました。奥さんの作るお菓子はいつもとびっきりおいしいのです。


 ですが、パイを一目見た旦那さんは、あっとおどろきました。

「ずいぶん大きなパイだなあ」

 奥さんも、おどろきました。だって、茶色いメレンゲが、さっき見たときよりうんと膨らんでいたんですから。そのうえ、2人が見ているうちに、もっともっと大きくなっていくのです。

「危ない!」

 思わず奥さんが叫んだのと同時に、メレンゲが、ぱちんとはじけました。


 そしてなんと、破れたメレンゲの中には、小さな小さな女の子が立っていたのです。


 女の子はとても可愛らしく、きょとんと奥さんを見上げていました。奥さんは口もきけないほどおどろいていましたが、女の子がくしゃみをすると、あわててパイの上から下ろし、新しい服を着せてあげました。


 その女の子は、奥さんと旦那さんの新しい娘になりました。メレンゲ・パイから生まれたので、「メレンゲちゃん」と呼ばれています。


 メレンゲちゃんはみんなの人気者でした。とても愛らしく、言葉をおぼえるのも早かったのです。歩けるようになると、メレンゲちゃんは奥さんの後をどこまでもよちよちとついて歩きました。奥さんの料理や編み物を真似して、家の仕事を手伝ってくれるようになりました。

 中でもメレンゲちゃんが一番得意なのは、お菓子作りです。

「メレンゲちゃん、一緒にアップル・パイを作ろうね」

「はい、お母さん」

「今日は、ロックケーキを作りましょうね」

「うん、お母さん」

 メレンゲちゃんの家の食卓には、毎週のようにパイやケーキがどっさりと並びます。旦那さんは、お菓子をご近所の人たちにもおすそ分けしました。


 メレンゲちゃんが10歳になった時、魔女のおばあさんが誕生日祝いにやってきました。

「お誕生日おめでとう、メレンゲちゃん」

 おばあさんは、メレンゲちゃんに銀のボウルをくれました。

「これは魔法のボウルだよ。もともとお前に授けられたものだ。メレンゲちゃんがもう分別もつく年頃になったら渡すよう、天使様に言いつけられたのさ」

「魔法って、どんな魔法?」

「その時がくれば、必ず分かるよ」

 そう言って、おばあさんは、メレンゲちゃんと奥さんが作った大きなクリームのケーキを食べて、帰っていきました。

 

 魔法のボウルの使いみちも分からない時に、メレンゲちゃんとその両親は王様のお城に行くことになりました。

 訳はこうです。狩りにでかけた王さまが、たまたまメレンゲちゃんの家の前を通りかかり、煙突から流れるお菓子の良い匂いに足を止めたのです。その時焼いていたのは、メレンゲ・パイでした。王さまはパイを1切れ食べて、たいへん気に入りました。

「わしのお城には、こんなにおいしいパイを作れる者がおらんのだ」

 そして、奥さんとメレンゲちゃんがいつもおいしいお菓子をたくさん作っていることを聞くと、その日のうちに一家をお城に連れて行き、お菓子作りとして働くことを命じました。


 王さまのお城では、毎日たくさんの人がお菓子を食べるのです。王さまにお妃さま、王子さまとお姫さま、たくさんの大臣や召使い、お城にやってくる外国のお客さま。奥さんとメレンゲちゃんは、毎日お菓子作りで大忙しでした。旦那さんは、2人が困らないために、市場を駆け回って材料を買ってくる役目でした。


 ある時、奥さんが働きすぎのあまり、疲れて寝込んでしまいました。メレンゲちゃんは2人分働きましたが、晩さん会のためのパイがどうしても間に合いません。困ってしまったメレンゲちゃんは、かまどの前で泣きだしてしまいました。

 その時、いつかのおばあさんが窓からのぞいて、メレンゲちゃんに言いました。

「メレンゲちゃん、あのボウルを使ってごらん」

 メレンゲちゃんは贈り物のボウルを取り出しました。すると、ボウルの中から卵の白身と砂糖がどんどんわき出してくるではありませんか。

 メレンゲちゃんがちょっと泡立てただけで、メレンゲができあがりました。そして、小麦粉を入れると、ひとりでにこねられて生地ができました。

「よかった。これで、みんなのためのパイができるわ」

 ほっとしたメレンゲちゃんでしたが、その様子を見守っていたおばあさんが言いました。

「メレンゲちゃんや。お父さんお母さんを連れて、ここからお逃げ。お前の本当の居場所は、ここではないのだからね」

「でも、どこに行けばいいの?」

 おばあさんはゆっくりと言いました。

「お菓子の国だよ。お前はそこのお姫さまなのさ。さあ、荷物をまとめて。ボウルを忘れないでね。みんな、お前たちをずっと待っているからね」



 つづく

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― 新着の感想 ―
[良い点] うわ、続きが気になりますね! お待ちしております。
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