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視える宮廷女官 霊能力と薬の知識で後宮の事件を解決します!  作者: 島崎紗都子
第6章 黒幕を追い詰めるも蓮花絶体絶命
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エピローグ

 季節は一巡りし、また春がやってきた。桜の花びらが風に舞い散る。

 長いようで短い後宮生活であった。

 とにかく、いろいろあった。

 死にそうになったこともあったが、今となって思えば、良い思い出……。


「良い思い出? そんなわけないでしょ! 殺されそうになって良い思い出とかあり得ないし、ほんと、あの時はもうだめかと思ったんだから」

「まさか、おまえが後宮のごたごたに、これほど深く巻き込まれるとは思わなかったんだ」

「あんた、本気でそれ言ってる」

 蓮花は目を細め、一颯を見据える。


 とまあ、そんなこんなで、ようやく宮廷にも落ち着きを取り戻しつつあった。

 長い間、冷宮で暮らしていた翆蘭も解放された。

 剥奪された位を取り戻し太貴妃となったが、冷宮での過酷な生活で病にかかり、ろくに侍医に診て貰えることもできず、それがたたり後宮へ戻ってすぐに息を引き取った。


 亡くなるまでわずかな間ではあったが、息子である赦鶯と穏やかに過ごし、天へと旅立つその瞬間も、赦鶯に見守られ、静かにまるで眠るように亡くなったのが、せめてもの救いだった。


 死した翆蘭は追贈され、妃陵に改葬された。

 長い間生母の不遇さを心の中で嘆いていた赦鶯も、これで少しは報われたであろう。


 反対に、称号を剥奪され庶人に落ち、冷宮送りとなったのは凜妃だ。

 凜妃は罪を認め、すべて自分でやったことだと白状した。氷太妃はいっさい無関係だとも。

 罪人となった凜妃は、死ぬまで幽閉の身となるであろう。

 その氷太妃も精神の病ということで、再び自身の宮殿に引きこもってしまった。


 間違いなく両親を殺すよう命じていたのは氷太妃だ。だが、気が触れ、口がきけなくなった氷太妃から真実を引き出すのは難しくなった。

 蓮花にとって、本当の復讐の相手は、氷太妃だったのかもしれない。

 彼女に罪を償わせることができないのは心残りではあるが。


「それにしても、まさか凜妃の悪事を暴くためだったなんてね。完璧に騙されたし、あんたも一見朴訥としているように見えて、なかなかやるわね」

「そう言うな。敵を欺くにはなんとやらというだろう」

 しれっとした口調で言う一颯に、蓮花は呆れたように肩をすくめる。


「あんたの口からそれを聞くと、余計腹が立つかも。ほんと信用ならないわよね」

「そういうおまえこそ、僕は笙鈴さまを保護するために陛下に命じられ白蓮の村まで行ったのに、おまえに疑われた。傷ついたぞ」

「それは、悪いと思ってるわよ……だけど、はっきり説明しないあんたも……」

 そこへ、まあまあと赦鶯陛下が二人の間に割って入ってきた。


「とはいえ、おまえのおかげで後宮の膿を出せた。感謝する。おまえに褒美をやらなければならないな」

 赦鶯から褒美と聞き、蓮花は瞳を輝かせた。


 大変な思いをしたのだから、たくさんの銀子を期待してもいいはず。それを元手に、家に戻って商売を始めるのもいい。

 薬草を育てて売る仕事を本格的に始めてみようか。

 これからの時代、女だって強く逞しく生きていかなければならない。


「そうだな、おまえを貴妃に昇格させよう」

「けっこうです」

 即答だ。


 貴妃といえば、あの景貴妃と同じ立場となる。実質上、皇后に次ぐ位だ。

 何を考えているのだろうか。


「それだけは勘弁して、ようやく後宮を出られて喜んでるんだから」

 皇帝の妃となってしまえば、二度と後宮から出ることもできず、後宮という鳥かごの中で一生暮らしていかなければならない。


 後宮を出る時、それは死ぬ時。

 そこで一つ疑問が。


 赦鶯の妃、答応となった蓮花が、一颯の自害を止めるため宮廷の外に出られたのはなぜか。

 結局、蓮花は正式に答応となったわけではなかった。

 赦鶯が答応にすると言っただけで、実際、冊封の儀式すら行っていない。つまり、正式な妃となっていなかった。


 皇帝の手がついたと周りは言っているが、そんな艶っぽい関係はまったくない。

 蓮花はまだ、皇后の侍女のままであったというわけである。

「本当におかしな娘だ。妃にしてやると言って、嫌がるのはおまえくらいだ」

「そういうの全然興味ないから。ついでにあんたのことも」


 相変わらず、周りに人がいない時は陛下のことをあんた呼ばわりだが、赦鶯はまったく気にする素振りは見せない。

 むしろ、砕けた態度で接する蓮花を気に入り、しつこく後宮に引き止めようとしていた。


 ようやく得た自由だ。

 後宮なんて誰が戻るか。


 今回のことで思っていた以上の報酬をもらえた。ここは奮起して銀子を元手に、村で薬屋を開こうと決めた。そして、地道に働きながら、いい人に巡り会えたらいいな、なんて思ってる。


「あたしは好きな人と、ささやかだけど、幸せな家庭を築くのが夢だから」

 皇帝の妃になんてなったら、ささやかな幸せなんて望めない。

 そうそう、華雪にも報償の一部を与え、郷里に帰るようすすめたけれど、結局、後宮に残り皇后に仕えることになった。もし、蓮花が後宮に戻ることになったら、また仕えたいと言った。


 いやいや、二度とこんなところに戻るつもりはないから!


「そうだ。村に戻る前に僕の屋敷に寄ってみてはどうだ? 母も会いたがっている」

「そうね。香麗さまにはきちんとご挨拶したいし。いいの?」

「いいも何も、おまえは凌家の人間なのだから遠慮する必要はない。そうだ、しばらく泊まっていくといい。いや、むしろ凌家で暮らしながら、都で薬屋を開くのはどうだ?」


 あ、それいいかも! と蓮花はぽんと手を叩いた。


「凌家の後ろ盾があれば、あれこれ便利そうだし、信頼もあるし、都には大勢の人がいるから繁盛しそう。なーんて、あたしには都の空気は合わないから」

「なんなら、僕の妻にならないか? おまえの店を手伝おう。毎日うまいものを食べさせてやる。おまえの好きな菓子もだ」


 どさくさにまぎれての一颯の求婚であったが、残念なことに蓮花の耳には入らなかった。しかし、赦鶯は聞き逃さなかった。

 ムッとした表情で、一颯を睨みつける。

 二人の男の間に見えない火花が散っていた。が、蓮花はそのことに気づかない。


「さて、もう行くよ」

「屋敷まで送ろう」

 荷物を背負い歩き出した蓮花の後を、一颯も続いた。

「蓮花」

 呼び止める赦鶯の声に、蓮花は振り返った。


「私はおまえをあきらめない。必ずおまえを妃に迎え、貴妃の地位を用意しよう」

「ん、なに? よく聞こえなかったんだけど、なんか言った」

「いや、なんでも」

「そう、じゃあね。もう二度と会うことはないけど、あんたも元気でね。それと皇后さまを大切にするのよ!」


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