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視える宮廷女官 霊能力と薬の知識で後宮の事件を解決します!  作者: 島崎紗都子
第6章 黒幕を追い詰めるも蓮花絶体絶命
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2 巧みな罠

「あの時、凜妃さまはわざと簪を落とし、私に拾わせるよう仕向けた。仕向けたというよりも、あたしの性格なら間違いなく探してくれると思った。そして、景貴妃に私が盗んだと思わせ、あわよくば、他人の手であたしを始末させようと目論んだ」

 蓮花は一息つく。


「話はそれるけど、あたしが霊能者であることは皇后さまと信頼するお付きの侍女しか知らなかったはず。なのに、しっかり景貴妃にばれていた。たぶん、皇后さまが気を許して仲の良い凜妃さまに話してしまったのね。もっとも、あたしも自分の能力を隠しきれずにいたのもあったけれど。そして、凜妃さまはあたしの噂を自分の侍女を使ってわざと流させた。景貴妃の元侍女だった華雪からそのことは聞いた」


『凜妃の侍女たちが話していたのを小耳に挟んだのですが、あの蓮花という娘には特別な力があるそうです』


「ってね。皇后さまの元に、未来を予知する霊能者がいる。興味を抱いた景貴妃は、霊能者を身近におけば便利だと思ったのか、あたしを手に入れようと考えた。そこで、陛下に観劇に呼ばれたのを好機と思い、凜妃さまはわざと簪を落とし、自分たちがしばらく陛下の元から身動きがとれない状況を利用した。簪を探すため、一人っきりになったあたしは景貴妃の侍女たちに捕らえられ、夏延宮に連れて行かれた。案の定、景貴妃は自分に仕えろと言ってきたけれど、あたしは断った。あたしの性格上、そう言うのは凜妃さまも計算済み。さらに、陛下が凜妃さまに下賜した簪を、あたしが持っていることを知った景貴妃は、盗人と言ってあたしを処罰しようとした。あたしを庇ってくれる皇后もいない状況を作りだし、まんまと景貴妃の手によって始末できると思ったけれど、そこへ、陛下が現れ、あたしは運良く助かった。なかなかあたしが死なないから、業を煮やして毒入りの菓子を仕込んだってことね。あたしにだけ特別にあげると言って」

 蓮花はにっと笑った。


「そうこうするうちに、凜妃さまにとって予期せぬことが起きた。それは、皇后さまが懐妊したこと。皇后に子ができては不都合だと思った凜妃さまは、皇后の子を流そうとした。そう、三年前に身ごもった皇后さまの、最初の子が流れたのも凜妃さまのせい。凜妃さまの贈った化粧品のせいで、皇后さまの子は流れてしまった。今回も同じものを贈ったけれど、皇后さまはそれを使うことはなかった、焦れた思いをしたでしょうね」

 麝香の入った香袋を華雪が持っていたのは記憶に新しい。

 麝香は妊婦にとって禁忌となるものだ。


「私が皇后さまの子を害する物を贈ったというの?」

「麝香の他にも妊婦にとって禁忌のものはたくさんある。たとえば紅花。血流を良くし、流れの悪くなった状態を改善する紅花は、婦人病に効果があると同時に、昔から堕胎で使われるもの。妊婦は絶対に口にしてはいけない。皮膚から吸収してしまうから肌につけるのもだめ。紅花を使った口紅や麝香を使ったクリーム、香料、装飾品は、一切使ってはいけないの。凜妃さまは口紅と頬紅を皇后さまに贈った。以前にも。そう、皇后さまが最初の子を身ごもった時も。だけど、あたしが化粧品に紅花が使われているのを知り、皇后さまに使用するのをやめさせた。皇后さまが化粧品を使用しないことに痺れを切らした凜妃さまは、さらに気づかれないよう、麝香の入った()()()()を皇后さまに贈った」

「麝香の入ったお香は贈ってないわ」

「お香はね」

 蓮花はにっと笑い、懐から手巾に包まれたそれを取り出した。

 くるんでいた手巾を解くと、中から現れたもの、それは――。


「棒墨よ」

 凜妃の眉がわずかに動いたのを、蓮花は見逃さなかった。

「皇后さまが書道をたしなむことを利用し、この墨を贈った。墨の香りは独特よね。恵医師に調べて貰ったわ。彼は香りにも詳しいの。そうよね、恵医師?」

 はい、と恵医師は再び頭を下げ、説明をする。


「墨の原料の一つである膠のにおいを消すために用いられた香料に、天然香料の甘松末、白檀、龍脳、梅花……そして、麝香が含まれております。墨の香りは使う人の気持ちを落ち着かせるという副次的な作用もありますが、ご存知の通り、麝香は妊婦には禁忌です」

「そういうこと。凜妃さまは皇后の子を流させるために、麝香の含まれたこの墨を贈った。皇后さまが懐妊したとわかったあの日、凜妃さまが贈った墨を磨って書道をなさっていた。あの時、磨った墨から漂う麝香の香りに気づき、あたしはすぐに墨を手巾に包んで袖に隠した。それを恵医師に渡して調べてもらい、さらに、麝香の含まれていない墨と交換してもらった。幸い皇后さまは香りが違うことに気づかなかったけれど」

 蓮花は緩く首を振った。


「あたしはてっきり、凜妃さまはご自身で贈った墨に麝香が含まれていることを気づかなかったんだと思い慌てて隠した」

「優しいのね。私をかばってくれたということね」

「凜妃さまが罰せられたら大変だと思ったし、皇后さまと凜妃さま、お二人の間に溝ができてはいけないと、今となっては余計な気を回してしまったと後悔している」

 凜妃の口元にこの日初めての皮肉な笑みが刻まれた。


「凜妃さまは皇后さまを慕っているわけではなかった。皇后に忠誠をつくしているようにみせかけ、叔母である氷妃の命令によって、皇后に子ができないよう見張っていた。もし、子ができても堕ろすように指示されていた。すべては凜妃さまが皇后となり、舒一族に栄華をもたらすために氷妃に命じられ動いてきた。結局、皇后さまの子は流れることなく、無事出産を迎えた。嫡子である皇子の誕生によって、皇后としての地位は揺るぎないものとなった。当初の目的である皇后をその座から引きずり下ろし、自身が新たな皇后になるという計画が遠のいた。だが、皇后にならなければ、一族の栄華は取り戻せない……」

 凜妃はそっと手を持ち上げ、蓮花の言葉を遮る。


「蓮花も知っているでしょう? 私が陛下に好かれてはいないことを。それなのに皇后の座を狙うなんてあり得ないわ」

「そう、だから凜妃さまは氷妃と同じ計画をたてた。氷妃には一人息子がいた。凜妃さまはその息子をそそのかし皇帝の座を奪い取ろうと計画を持ちかけた。その息子が皇帝となった時には、自分を皇后として迎えると約束して。そうよね、一颯!」

 そこへ、近くの茂みががさりと音をたて、そこから一颯が現れた。すかさず、凜妃は一颯の元へと走り寄る。


「一颯将軍、あなたが氷妃の実の息子。本来ならば一颯が一番皇帝の座に近い人物だった。だけど、皇帝陛下暗殺に関与した疑いがある氷妃の息子として宮廷から離れ、凌家の養子として育てられることになった。さぞ悔しいでしょうね。皇帝の座に一番近かったあんたが、忌々しい事件のせいで、結果、一番遠くへと追いやられてしまった」

「そうか、俺が氷妃の息子だと知ったから、まるで手のひらを返したように、態度が素っ気なくなったのか」

 蓮花はふん、と鼻を鳴らした。


「あんたもとんだ食わせ物よね。どうりで、あたしの両親を殺した奴をなかなか見つけようとはしなかった。それもそのはず、あんたもこの件に加担していたから。つまり、凜妃の手の者だったから。そういえばあんたと最初に出会った時」

『人を探しているのだが、笙鈴という名の女を知らないか? 白蓮の町にいるらしいと噂で聞いたのだが、それらしき女を見つけられなかった』

「と、言ったわよね。あんたはあたしの母を殺すためにあんな辺鄙な村までやって来た。陛下を暗殺したのも、実はあんただったとか?」

「だとしたらどうする?」

「本気で赦鶯陛下を殺し自分が皇帝になるつもり? その腹黒女を皇后として迎えるの?」

 一颯が現れたことで凜妃も気持ちが大きくなったようだ。

 凜妃の態度が豹変する。


「ふふ、そうよ、私はずっと皇后の地位を欲していた。舒一族のためにも私は皇后にならなければならなかった。最初は頑張って赦鶯陛下に好かれようと努力したわ。だけど、私は赦鶯陛下に愛されることはなかった。夜伽をしても数える程度、これでは陛下の子さえ身ごもることはできない。だったら、どうすればいい? そうよ、別の者に皇帝になってもらえればいい。そう思ったのよ」

 そこで、氷妃の息子である一颯に話を持ちかけ、皇帝暗殺を計画した。一颯の生母は氷妃だ。断る理由はない。むしろ、皇帝陛下を恨んでさえいるだろうと思い。


 いよいよ本性を現したわね、凜妃。


「あなたはこの機会に、景貴妃の実家の勢力を削ぎ、景貴妃本人も排除しようと考えた。つまり、景貴妃の兄、楽斗将軍に皇帝暗殺の罪をなすりつけようとした。あの秋の狩りの日、陛下を殺害し、手に入れた楽斗将軍の玉佩をその場に置くため、自分の太監をあの場に遣わせた。そこへあたしが駆けつけた。焦った太監はあたしも殺そうとした。あたしは慌ててその場に郡生していた植物を掴み、太監に投げつけた」

「私に仕える太監が陛下と蓮花を殺そうとしたというの? そんな証拠なんてないでしょう。それにどうして太監だと決めつけるの?」

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