表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
視える宮廷女官 霊能力と薬の知識で後宮の事件を解決します!  作者: 島崎紗都子
第5章 危機一髪皇帝暗殺を阻止せよ
40/51

4 陛下が幽体離脱!

「私は死んだのではないのか?」

 赦鶯は寝台で眠る自分の姿を見下ろす。

「まだ死んでないから。だけど、早く自分の身体に戻らないと、どうなるか分からない」

 赦鶯はくつくつと肩を震わせて笑う。


「本当におまえは肝の据わった女だ。皇帝に向かってあんたとは、私を恐れないのだな」

「今のあんたは幽霊みたいなもんだから」

 赦鶯が側に寄ってくる。


「おまえが側にいてくれると、こちらの気力もみなぎってくるようだ。元気がわいてくる」

 赦鶯の指先が蓮花の頬に触れた。その指先が口元へと落ち、ゆっくりと唇の輪郭をなぞる。

 身をかがめた赦鶯が蓮花のあごに指先をかけ、口づけをしようと顔を寄せる。しかし、思う相手の唇に自分の唇を重ねることはできない。


 実体がないのだから仕方がない。

 本体は今は寝台で眠っているのだから。


「もどかしいものだ」

「バカなことやっていないで、さっさと身体に戻りなさい」

「今度は皇帝に向かって命令口調か。皇后でさえ、そのような物言いはしないぞ」

「まあ、あたしは後宮を出て行く身だからね」

「おまえは行こうと思えばどこへでも行ける。自由でいいな」

「なに? いきなりそんなこと言って」

「このまま楽になるのも悪くないと正直思うのだ。煩わしいことから解放され、自由になるのはどうだろうかと」


「バカ言わないで。皇帝の座をみすみす誰かに渡すの? あんたを殺そうとした奴に」

「そうか。やはり私は何者かに殺されたのか」

「まだ完全に死んでいないけどね。どうしても死んで楽になりたいって言うんならとめないよ。でも、きっと心残りであの世にも行けず、ずっとこの世をさまようことになるだろうけど」

「そうしたら、おまえの手で私を成仏させてくれるか?」

「成仏じゃなくて、除霊ね」

「それは手厳しい」

 赦鶯ははは、と笑った。


「とにかく早く自分の身体に戻って。さっきも言ったけど、あまり本体から魂が離れると本当に戻れなくなっちゃうの」

「蓮花、このまま宮廷に残って私の妃にならないか? そうしたら自分の身体に戻ろう。どうだ?」

「何度も言うけど、それはお断り」

「厚遇するぞ」

「けっこう」

「はっきり言うのだな」

「そういう性分なので」

 赦鶯はふっと笑った。


「だが、どうやって自分の身体に戻ればいいのか分からないのだ」

「ほんともう……しかたがないわね」

 蓮花はため息をつき、懐から数珠を取り出し、手を合わせ、目を閉じる。すると、蓮花の身体から魂が抜けた。

 幽体となった蓮花は赦鶯の元に歩み寄り、手を差し出す。


「ほら、あたしの手をとって」

 赦鶯の手が蓮花の手に重なり握り返す。

「このまま、自分の身体に重なるようにイメージしてみて。そうすれば戻れるはず」

「分かった。やってみよう」

 赦鶯はあらためて蓮花を見る。


「蓮花、ありがとう。この恩は忘れない。礼は必ずする」

「礼とか恩とか、そんなことどうでもいいから、早く戻りなさい」

 赦鶯の幽体が本体に重なるのを見届け、蓮花も自分の身体に戻った。

 目を開けると、赦鶯のまぶたが小刻みに震えている。そして、ゆっくりと目を開いた。


 よかった。

 目を覚ました。もう大丈夫ね。


「来てください! 陛下が目覚めました!」

 蓮花の声に、外で控えていた者たちが部屋に流れ込むようにやって来た。

「おお! 陛下が目を覚まされた!」

 自分を呼ぶ声に、赦鶯の目がさまよう。まだ意識がはっきりしないようだ。


「私は……生き返ったのか」

「ああ、陛下。よかったです。本当に……」

 皇后が、涙を流しながら赦鶯の側にひざまずいた。赦鶯の手をとり、その手を自分の頬に押しあてる。

「皇后……心配をかけたようだな」

 次に、赦鶯の目が誰かを探すように動いた。


「蓮花はどこだ?」

 赦鶯の言葉に、皇后は蓮花の姿を見つけ、こちらにくるよう手招きをする。

 赦鶯は側に寄ってきた蓮花を見上げ笑った。

「蓮花、感謝する」

「あたしは別に何も。陛下が強運の持ち主だっただけ」

 不意に赦鶯の目が蓮花が握っている数珠にとまった。


「その数珠?」

「ああ、これ。これは……」

「緑幽霊幻影水晶だな今思い出した。昔、それと同じ数珠を持つ者を見た気がする」

「え? この数珠は母の形見なの。母のことを知っているの?」

 蓮花は身を乗り出した。隣では皇后が気が気ではない顔をしている。目覚めたばかりの陛下の身体を心配しているのだ。


「確か……」

 誰が持っていたのかと、記憶を辿りながら赦鶯が言葉を紡いだその時。

「大変です! 将軍が大変なことに!」

 部屋の中に、一人の兵が飛び込んできた。

 一颯の部下の者だ。

「一颯がどうしたのだ?」

 皇后の手を借りながら半身を起こした陛下は、かすれた声で兵士に問う。


「今回の件は自分のせいだと言って死でもって責任をとると。我々がとめても、聞く耳持たずという状況で! どうか将軍をとめてください! このままでは将軍が!」

「まったく、あいつ何を考えてるのよ!」

 と、吐き捨て蓮花は足を踏みならすと、くるりと赦鶯に背を向けた。


「それで、一颯将軍はどこにいるの?」

 蓮花は駆けつけてきた一颯の部下に尋ねる。

「自宅です」

「蓮花、これを使え!」

 赦鶯が何かをこちらに向かって投げつけてきた。

 目の前に飛んできたそれを受け取る。

 赦鶯陛下の玉佩であった。これがあれば宮廷を出ることも、それ以外のどんなことでも融通が利く。


「一颯を頼んだ」

「分かってる。任せて!」

 皇帝にため口をきく蓮花に、周りの者はぎょっとした顔をする。

「一颯の屋敷に行くよ!」

 兵士とともに馬に乗り、蓮花は宮殿の門を出て一颯の屋敷へと向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ