11 一番の寵妃?
永明宮に植えられた、庭の花に蓮花は水をあげていた。
皇后の出産まで、いよいよあと少しと迫ってきた。
そんな中、皇后の手前、周りは落ち着いた様子を見せながらも、水面下では慌ただしい準備が進められていた。
「妃になったというのに、花に水やりとは相変わらずだな」
背後からの声に蓮花は振り返る。少し離れたところに一颯が立っていた。
「なんか用?」
「素っ気ないな」
「見ての通り、忙しいんだけど」
「そんな雑用など侍女にやらせればいいものを。おまえは陛下の一番の寵妃なのだろう」
「やめてよ。あたしが妃になった経緯、あんただって知ってるでしょう。とにかく、あたしはあたし、何になろうとも変わらないから」
「安心した」
「なにが?」
「いや、なんでもない……不思議なものだな。おまえには普通の人にはみえないものが視えて聞こえる」
「まあ、何も感じない人にしたら、胡散臭いでしょうね」
「胡散臭いとは言ってない。だが、おまえが皇后の側についてくれて本当に感謝している。と同時に、今さらになっておまえをここに連れてきたことを後悔もしている」
「今さらだよね。そう、それよりも賊は見つかったの?」
蓮花は水やりの手を止めた。
「いや、それが……」
歯切れの悪い一颯の言葉に、蓮花は眉根を寄せる。
「皇后もお子が産まれるし、あたしもそろそろここを出たいんだけど」
「ああ、分かっている……少々手こずっている。すまない」
「手こずる? 僕に任せておけって大口叩いたのは誰?」
「本当にすまない」
そう言って、一颯は蓮花の手に菓子の包みを手渡した。
「あのねえ、前から思ってたけど、お菓子で誤魔化そうとしてない? まあ、ありがたく貰っておくけど。ねえ、一つ聞いていい?」
「なんだ?」
「陛下と皇太后さまって仲がよくないの? なんか会話がぎこちない感じがしたから」
一颯は苦笑いを浮かべる。
「おまえも感じたか。ああ、陛下と皇太后は血が繋がっていない」
「やっぱり、そうなんだ」
血が繋がっていないと聞いて驚くことではない。
他の妃が産んだ子を育てるなどよくあることだ。
血が繋がらなくても、自分が育てた子が皇帝になれば、その母は皇太后になる。
そういうことなら、陛下と皇太后がどこか互いに距離を置いた関係なのも納得がいく。
そこへ、明玉が一颯の姿を見かけ声をかけてきた。
「あ、一颯将軍、いらしていたのですね。ぜひ皇后さまに会っていってください」
「もちろん、そのつもりだ」
明玉に導かれ、一颯は皇后の元へと向かう。
一颯の後ろ姿を見た蓮花は、なぜか胸騒ぎのような嫌な予感を覚えた。
それからすぐに、皇后は皇子を無事出産した。




