7 蓮花の朝帰り
そういうわけで、この日から蓮花は陛下の宮殿に呼ばれることにより、妃嬪たちの気をやきもきさせただろう。
実際は彼女たちが思うようなことなど何もないのに。
さて、作業を始めようと蓮花は数珠を手に、霊たちに語りかける。
まずは、上にあがることを望む者を集め、一気に上にあげてしまう。
それだけで半分近くは減る。そして、蓮花は浄霊をするために祈りを始めた。
いきなり暇を持て余している赦鶯は、興味深そうに蓮花の作業を眺めていた。
「なに? じろじろ見られると気が散るんだけど」
「いや、おまえは本当に変わっていると思ってな」
「褒め言葉として受けとっておく。まあ任せて、あたしが陛下を助けてあげるから」
赦鶯は驚いたように目を見開いた。
「助けてあげるか。そう言われるのも悪くはないものだな。そして、こんな夜もたまにはいいものだ」
寝台に横になった赦鶯は、蓮花が唱える経を聞いているうちに、しだいに、うとうとと深い眠りに落ちていった。
翌朝。
蓮花が赦鶯陛下の伽をしたということは、瞬く間に後宮中の者に知れ渡った。
それを聞き、特に機嫌を悪くした人物がいた。
もちろん景貴妃だ。
「昨夜、私の所へ来るお約束だったのに、なのに、あんな田舎娘にお声がかかったなんて!」
景貴妃は怒号をあげ、茶器を床に投げつけた。
美しい顔貌がまるで鬼の形相だ。
昨夜は訪れる陛下のために、陛下の好物を作り、身支度を整え待っていた。
なのにいつまでたっても陛下はやって来ない。
待ちくたびれてうとうとしかけた頃に、御前付きの太監が現れ、今日の訪れはない、だからもう休むようにと言われたのだ。
なぜかと太監を問い詰めると、陛下の元に蓮花が呼ばれたという。
「いったい、田舎娘がどうやって陛下の気を引いたというの!」
侍女の美月が形相を変え、景貴妃の部屋にやって来た。
彼女の口からさらに、景貴妃を絶望させる言葉が吐き出された。
「景貴妃さま、大変でございます!」
「今度はなに?」
美月は景貴妃の耳元でこそりと言う。
「なんですって! 蓮花が輿に乗って陛下の寝殿を出たですって!」
「後宮中がそのことでざわついております」
「本当にあの田舎娘が陛下の夜伽をつとめたというわけ?」
美月はさらに続けた。
「はい、輿に乗っていた蓮花を見た者が、疲れ切った顔をしていたと言っていました」
ああ……と嘆きの声をもらし、景貴妃は手をひたいに持っていく。
「景貴妃さま、大丈夫ですか」
景貴妃はよろよろとその場に崩れ、倒れかけた景貴妃を美月は支えた。




