1 倒れた皇后 そして――
急いで永明宮に駆けつけると、皇后はぐったりした様子で寝台の背にもたれていた。その顔はひどく青ざめている。
大丈夫と言っていたがやはり、体調が悪かったのだ。
その側では、侍医が皇后の脈をとっていた。
皇后が倒れたと聞き、凜妃や他の妃嬪たちも駆けつけてきた。
「静麗大丈夫か!」
皇后の名を呼び、赦鶯陛下は寝台の縁に腰をかけ、皇后の頬に手を添える。
「陛下、駆けつけてくださったのですね。ご心配をおかけして申し訳ございません」
「何を言っている。いったいどうしたのだ。顔色が悪いではないか」
皇后の、古参の侍女暁蕾の話だと、気分転換にさっそく凜妃から贈られた墨を磨り書道を始めようとしたところへ、突然倒れたのだという。
蓮花はそろりと机に歩み寄り、皇后が書きかけていた書に視線を落とす。たおやかで流れるような美しい文字であった。
磨りかけの棒墨を見つけ、蓮花はそれに手を伸ばし、手巾にくるんで袂に押し込む。
赦鶯は側に控える侍医に厳しい声を落とす。
「いったい皇后はどうしたというのだ!」
陛下に怒鳴られながらも皇后の脈をとっていた侍医は、はっとした顔になり、皇后から離れ恭しくその場にひれ伏す。
辺りがざわついた。
「お祝いを申し上げます陛下、皇后娘娘」
「お祝い?」
陛下は眉をひそめた。
「ご懐妊でございます!」
一瞬の沈黙が落ちた。
その場にいた者全員、息を飲む。
侍医の言葉に赦鶯は目を丸くする。陛下だけではない。みんなが驚いた顔をしていた。
「それはまことか?」
「玉が転がるような脈、滑脈がはっきりと現れています。間違いありません。身ごもって三ヶ月目です」
皇后も驚いているのか、目を見開き口元に手をあてた。
その目に涙が浮かびあがる。
「よくやった皇后!」
「お祝いを申し上げます、陛下、皇后娘娘」
この場にいる妃嬪たちも全員ひざまずき、陛下と皇后にお祝いの言葉を述べた。
皇后がご懐妊。
お腹に赤子がいる。
蓮花も不思議そうな顔で皇后のお腹の辺りを見つめていた。
これまで体調が悪かったのは、懐妊していたからだったのだ。
たいしたことはないからと侍医に診てもらわなかったが、実は妊娠していたとは。
「ああ、皇后さま嬉しいわ。本当に、本当に心からお祝いを申し上げます」
皇后の手をとり、凜妃が涙を流しながら喜んでいる。他の妃嬪の反応は様々であった。
凜妃のように喜ぶ者もいれば、複雑な顔をする者もいる。
この場に景貴妃の姿はない。
だが、皇后懐妊の知らせはすぐに彼女の元へ届くだろう。
「今度こそ、陛下のために皇子を産んでみせます」
「私は皇子でも公主でもどちらでもかまわないよ。どちらも私の大切な子であるのだから」
陛下の言葉に、皇后はぽろぽろと涙をこぼした。




