10 自分の未来は自分で切り開く
それから、一仕事を終えた蓮花は、皇后が昼寝をしている間にふらりと散歩がてら花園に行き、池の側に座り込んだ。
凜妃からもらった菓子を頬張る。
「村にいた時じゃ、こんなおいしい菓子なんて食べられないもんね」
凜妃は自分にだけと言ったが、持ち帰って同僚の明玉と一緒に食べようと思った。
「おいしいものは分け合ってこそ、おいしさが倍増するから」
もう一つ菓子を口にいれようとした蓮花の頭に影が差した。
慌てて振り返ると、先日の男、いや皇帝陛下が、こちらを覗き込むようにして立っていた。
「挨拶はいい。楽にしろ」
「はい……」
「おまえは本当におもしろい娘だな。今度は誰と喋っていたのだ?」
「いえ、独り言です」
今日は本当に独り言だ。
「とぼけなくてもよい。一颯から聞いた。おまえは霊が視えるそうだな」
なんだ、知っていたんだ。
だったら、誤魔化す必要はないか。
「そうです。視えます」
「霊と会話ができるのか?」
「霊だけど、元は人だもの。あたしには普通に視えて会話ができるんです」
もっとも、霊たちのすべてと会話ができるというわけではないが。
「未来も見えると聞いたが、それも本当か?」
赦鶯の言葉に蓮花は口を噤む。
この人も未来を知りたがるのか。
困った顔をする蓮花に、赦鶯は手をかかげた。
「そんな顔をするな。私の未来を教えろと言うつもりはない。たとえ、最悪な未来が私の前に立ちはだかろうと、私は絶対に運命を変えてみせる。自分の未来はこの手で切り開く」
「安心しました」
「安心?」
「陛下の言う通りです。未来は自分の力で良い方向に変えられる。その気持ちこそ大切だから」
赦鶯は目を丸くした。慌てて蓮花は口元を押さえる。
うっかり、生意気なことを言ってしまった。それもため口。
「一颯がおまえを気に入るのが分かった気がする」
「あまり好かれているとは思えませんが。お菓子はくれるけど。いわば、利害が一致した的な?」
こうして後宮に押し込まれたのも、姉である皇后のためにあたしの能力が必要だったから。ただそれだけのこと。
「ところで、あの簪はどうした? 持っているのか?」
「あ、今も持っています。あたしのには不相応だからと断ったんだけど……だから、陛下を見かけたら返そうと思ってました。なんだったら陛下ご自身の手で凜妃さまに返してあげてください。そうしてくれると助かるんですけど」
「凜妃がくれたというなら貰っておけ。それが必ず役に立つ日がくるだろう。他の者には絶対に譲るな。だが……」
「だが?」
「決して、おまえは身につけるな」
はあ、意味が分からない。
理由を尋ねようと口を開き駆けた蓮花だが、遠くから聞こえてきた悲鳴に言葉を飲む。
「何事だ?」
離れていたところで控えていた御前付き太監が確かめてきますと言い、側にいた者に何が起きたのか確認しろと指示を出す。
「皇后が倒れられました!」
「皇后さまが? どうして!」
「永明宮へ行く」
赦鶯は身をひるがえし、皇后の宮まで駆けつけた。
その後を蓮花も続く。




