修学旅行の温泉――、何も起こらぬハズもなく……
温泉と聞いて皆さんは何を思い浮かべるだろうか?
恐らく大人であれば、健康面や美容、幸福感なんじゃないかと思う。
しかし、元気の有り余っている学生――特に男子が思い浮かべるのは別のことだ。
……そう、覗きである。厳密には女子の裸体だ。
基本的に男子学生という生き物は年中エロイことばかり考えているものだが、昨今はネットなどを駆使すれば見る欲求だけは満たすことができる。
そのため、昔ほど飢えている男子は減ったと言えるが、それでも本能が浮き彫りになる瞬間はある。
それは、身近な女子に対する性欲だ。
同じ学校、同じクラス――、恐らくそういった身近な女子に対し邪な妄想をしたことがないという男子はほぼいないと思われる。
女子にとっては大変迷惑な話だが、この身近という条件だけで妄想の対象になってしまうのだ。
容姿に自信のない女子であれば、私なんかがそんな対象になるワケはないと考えるかもしれない。
しかし、身近な存在であるというだけで、その全てを凌駕し得る『設定』になってしまう可能性があるのだ。
それだけ、もしかしたら手が届くかもしれないという状況は男子にとっては重要な要素と言える。
――そして、その妄想に手が届く瞬間こそが、修学旅行の温泉なのだ。
恐らく誰しもが愚かだと断じるだろう。
そもそも覗きは犯罪だし、バレればそれなりのリスクを負うことになる。
進んでやる奴は間違いなく愚か者だ。
しかし、愚かなことに変わりはないが、この瞬間だけは理にかなっている部分もある。
特にポイントとなるのが、学校行事でおきた事件は基本的に内々で処理されるため、警察沙汰にはならないことだ。
勿論例外はあるだろうが、少なくとも学生同士の覗き程度で警察が動くことはまずない。
ガキの悪ノリとして処理されることがほとんどだ。
女子側も男子って本当サイテーくらいの反応で済ませてくれるかもしれない――、そんな打算もあるだろう。
そもそも歴史上こういった覗きが成功したという例は少ないし、男子側も大した期待はしてないことがほとんどだ。
だからこそ、普段無害そうな男子まで空気に当てられノリで参加してしまうこともある。
……俺も、そんな無害な男子の一人――
を、演じていた。
「板垣ぃ! 貴様、裏切るのか!」
「裏切り? 違うな、俺はそもそもお前らの仲間などではない」
敵の作戦を知る一番の方法は、敵の懐に入り込むことである。
「悪いが、ここは通さん!」
夢枕さんの裸体は、俺が守護る!