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なろラジ大賞5

5年目、ささやかな木婚式を貴方と

作者: 舟渡あさひ

 目の前に二つ、カップをコトリと置かれた。

 小さく丸い木製のカップ。中には湯気を立てる熱いコーヒー。

 いつも仕事に疲れていて何でもかんでも私任せのくせに、急に「俺が淹れるから」と言って聞かないと思ったら、買った覚えのないカップとともにそれは出てきた。


「今日で5年だろう」


 この男はいつもそうだ。不器用で言葉足らず。結婚して子供が生まれてもちっとも変わらない。

 そのくせ、考えることは私と似通っているから厄介極まりない。小さな不満など、それだけで全部許せてしまうから。

 きっと、私がこの人を選んだ理由もそれなのだろう。


「私からは、これを」


 差し出すのは木製の夫婦箸。名前入り。

 紙婚式から花婚式まですっ飛ばしたくせに、5年たって急に記念品を送り出したりする。全く気まぐれなものだ。


 貴方も、私も。


 旦那は急いで席を立ったかと思うと、冷蔵庫から何かを取り出してきた。

 包装を破るように剥がし、中から取り出したのは一口大の小さなケーキのセット。

 誕生日プレゼントを開けるのを我慢できない子どものように、急いで箸を開封して食べようとする。

 こういう時は足並みを揃えるものではないのかと、私が不満を顔に出していると、はっと気がついたように箸を止め、私が手を付けようとするのを待つ旦那。

 一緒に食べよう、くらい言ったらどうなのか。

 本当に、この人は口下手で困る。

 いつもいつも、私が合わせてあげなければいけないのだから。

 私は自分の箸を開け、ケーキを一つ摘まむ。すると旦那も一つ、ケーキを食べる。


「あと何年だろうなあ」


 旦那はポツリと、そんな事をこぼした。

 あと何年。子供が寝静まったあと、静かに二人でコーヒーを飲みながら、過ごせる時間。

 親ではなく、夫婦でいられる時間。

 あと何年だろうか。子供がもう少し大きくなったら、こんな時間は無くなるだろうか。

 そんな意味だろう。全く、気の短いことだ。


「何年でも」


 そう。何年でも。作ろうと思えば作れる時間。

 何年先でも。子供が一人立ちすれば、またやってくる時間。

 わざわざしみじみ惜しむようなものでも無い。これからいくらでもやってくる。

 この人の側に居られるのなんて私くらいのものだから。


 寿命が尽きるまで、何十年でも。

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