豪華!人生一周の船旅
「はぁ。」
今日も叱られてしまった…ミスをした自分が悪いことは分かってる!分かってるけど!あぁー!
……はぁ。何か最近ラッキーって思うことがないし、不意に現れる幸運っていう、なんか、えぇ!よっしゃぁ!みたいなやつ起こらないかなぁ…
落ち込んでる気持ちを抑え、から元気で自分を誤魔化しながら帰り道を歩いていると、ある広告が目に入った。
『豪華!!人生一周の船旅! 〜あなたの"思い出"を思い出しませんか?〜』
人生一周?思い出を思い出す??
意味が分からない。どういうことだろう?
私の人生が見られるってことなのかな。でも、どうやって?事前に思い出を話して、後にビデオとかで再現とか?うーん、気になる…よし!今度の休みに行ってみるか!営業時間はお昼から夕方くらいまでだから、どっかでランチしてから行こうかな!これを楽しみにまた明日から頑張るか〜。
楽しみができて、先程より少しだけ軽くなった足取りでまた帰り道を歩きだした。
「ここが…」
休日になり、私はあの人生一周のお店へ来ていた。
意外と普通のお店…なんかカフェみたい。でも、初めて入るお店は緊張するなぁ。うん!入りますか!緊張と楽しみで胸を高鳴らせながら扉を押した。
カランカランと扉の鈴がなる。
お店入ってはじめにあったのは受付だった。
「いらっしゃいませ。」
そう声をかけてくれた人は、イケメンな落ち着きのあるお兄さんだった。
「あっ、ど、どうも。」
ひゃー!イケメンすぎる!久しぶりに見た!こんなカッコいい人!私ビビって、変な返事しちゃった。恥ず!
「こんにちは。今日は1名様でよろしいですか?」
「はい!」
「では、こちらの3つプランから一つお選びください。」
「えっと。」
人生の幸せハッピー場面プラン、リアル!まさに人生そのもの!不幸も幸せも映しちゃうぞ!プラン、逆にあり?人生の不幸アンハッピー場面プラン…
へぇー、幸せの映像だけじゃないんだ。不幸の映像とかもあるんだ…そんなの誰が選ぶんだ?
「悩んでいらっしゃいますね。」
「はい。幸せのやつにしようと思ってたんですけど、リアルの方も気になってしまって。」
「あぁ、そうですね。リアルの方はどちらかというと年齢が高めの人に人気ですね。今までの人生を振り返りたいなど、人生経験の豊富な方にとても満足してもらえます。」
「はぁ、なるほど。この不幸プランも人気あるんですか?」
「他の2つより人気は劣りますが、一定の需要はありますよ。不幸な思い出を見て、あの時よりはマシだと、逆に元気になられる方はいます。」
「そうなんですね。うーん。やっぱり、私は幸せのプランにします!」
「かしこまりました。それでは準備してきますので少々お待ちください。」
「はい。お願いします。」
お兄さんは奥へと引っ込んでいった。受付に残った私は久しぶりにすごくワクワクしていた。
そして、本当に少し待っただけでお兄さんは帰ってきた。
「お待たせいたしました。さぁ、こちらへどうぞ。」
「あ、ありがとうございます。」
お兄さんに連れられてお店の奥にいくと、そこには川があった。
川?!えっえっ?どうなってんの?お店の大きさ的にあってないような気がするんですけど!?
「はい。そしたら、こちらの舟に乗ってください。小さいですが、乗り心地は最高ですよ。」
「へ?あ、はい。」
お兄さんが手を差し出し、舟へと乗っけてくれた。
嬉しい…じゃなくて!この川のことを聞きたいんですが!そう思って、お兄さんのかっこいい顔を見上げるが「あっ、大丈夫ですよ。舟は僕が漕ぎますので。お客様はゆっくり周りの思い出を見ていてください。」と見当違いのことを言われ、しかも、周りをみてたら思い出が見えるという、訳わかんないことをまた追加された。
「安全のために身を乗り出したり、暴れたりしないようによろしくお願いいたします。また、思い出はご本人にしか見えないようになっています。それでは"思い出"を思い出す船旅へ出発します。」
「えっ、ちょっ。」
お兄さーん!何にも説明になってないんですけど!
私の想いは届かず、何にも心の準備ができていないままスーと舟が動き始めた。
ゆったりとした時間が流れ、私は思考を放棄していた。
もう理論とかいいや、こんなゆっくりした時間久しぶり。川のせせらぎ癒されるわ〜。
そうやって、船旅を楽しんでいると、なんだか音がしてきた。周りを見渡すと、景色の一部にプロジェクターみたいに映像が浮いて見えた。それは、私の小さいときの記憶だった。
「見て見て〜。あわあわ〜。」
「本当だ!すごいね!あわあわだぁ〜。」
「えへへ。」
うわ!私が小さい頃ハマってた遊びだ!ただただ石鹸水を混ぜて泡だらけになるやつだ!懐かしい〜。色水とかも作ったわ〜。
自分の記憶を楽しんでいると、また違う映像がでてきた。
「きゃー!イルカ!」
「そうだな、イルカだな。お前は物知りだな!」
これは水族館での思い出!おじいちゃんとおばあちゃんとよく行ったな。我が家は動物園より水族館派だったなぁ。最近の水族館ってどんな感じなんだろうな。
その後も次々と思い出が映し出された。部活の思い出だったり、受験勉強で友達と夜遅くまで学校や塾にいて、そこでの休憩時間のおしゃべりだったり、学校へ合格だったり…大きい幸せだけでなく、日常の小さいな幸せまでもが景色に投影された。
私こんなに幸せな人生を歩んでたんだ…なんだかフワフワした気分になっちゃうな。にやけ顔が止まらない。
思い出の時間はどんどん進み、ついには先程受付で見たお兄さんの笑顔が映し出された。
うわ!やば!お兄さんの笑顔を幸せの思い出として入れちゃうなんて…あー、なんかめっちゃ恥ずかしい。
しかし、そう思ったのも束の間、そこでプツンと映像が途切れてしまった。そして、映像も真っ暗になった。
おっと?どういうことだ、これ?人生一周だよね。ここで映像が途切れるということは…あれ?私、死ぬっぽい?ここで人生終了っぽい?未来がないから真っ暗的な…
えっ?でも原因が…もしかしてお兄さん犯人な感じ??ど、ど、どうしよ!え!どうしよう!逃げる?でも、ここはお兄さんのフィールド、私に勝ち目はない!
ドッドッドッと来た時とは違う意味で心臓が暴れている。
「もうすぐで到着します。お疲れ様でした。」
「あ、はい。」
お疲れ様でしたって、人生をって意味ですか?
バクバクした心臓と嫌な冷や汗をお兄さんにバレないようにしながら、私はゆっくりと舟を降りた。
自分の幸せを自覚したのに、どうしてこんな思いをしないといけないわけ!嫌だよ〜。生きたいよ〜。お兄さんに臓器とか奪われたくないよ〜。
私の中では、もうお兄さんはヤバい人認定されている。
「それでは、受付の方に戻りましょうか。」
「うっ、はい。」
スタスタと前を歩くお兄さんの後ろを震える足を無理矢理動かし必死についていく。
もう終わりだ〜。この後会計で終了だよ。お支払いはあなたの命でって言われるんだよ。ぐすっ。
私の心は絶望と悲しみでいっぱいである。うっすら目に涙が溜まってる気がする。
「それでは、今回のお代は…」
計算している…今逃走のチャンスなのでは。お兄さんは受付の中にいて、私は受付の外。私の方がお店の扉に近いし、お兄さんは受付台という障害物がある。これは希望の光ではないのでしょうか!
「あの?お客様大丈夫ですか?」
しまった!うだうだ考えてるうちにボーナスタイム終わった…
「だ、大丈夫です。あっ、意外と安い…」
ちょうどの金額を財布から出す。
なんでこんな安いんだよ!私、結構健康的でいい臓器もってると思うんですけど!いや、取られたくはないけど!あっ、もしかして、他で儲けてるから?そういうことなの?
「それではちょうどいただきます。ありがとうございました。」
「へ?」
「あっ、領収書とか必要でした?」
「い、いえいえ。大丈夫です。あ、ありがとうございました!」
焦りすぎて扉の押し引きを間違えてガチャガチャしてしまったが、無事にお店を出ることができた。
い、生きて外に出れたーー!よかった!!たった今、この瞬間幸せ映像更新されたよ!
生への喜びを感じながら一目散にお店から距離を取り、後ろに誰もいないことを確認してから、自分の家へと向かう道へ歩き出した。
ガチャンと扉が閉まる。
店に残された店主は首を傾げる。いつもなんでお客様は帰る時あんなに焦って帰るんだろう?と。
時間に焦っているわけでも無いよな。所要時間は伝えているし、今までの人生もちゃんと見れているはずだしな…川のせいで変な未来とか見えていたりとか?いや、でも、思い出を見てるわけだから未来とか無いし…うーん。
店主は自分が殺人犯やら臓器ディーラーと思われているなんぞつゆ知らず1人頭を悩ませるのであった。