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9話

「うぅぅぅ……納得いかないわ!!」


 グランヴェニス王国王都。

 魔導王の名のもとにあらゆる魔導の英知が集結された輝かしい都市――からやや離れた町の片隅。

 別荘用の小さな屋敷の中の一室で、王女ナディアは嘆きの声を上げる。


 先日のヴァールハイト公爵子息のユーリスとの婚約宣言で何故か激怒した父王の命令で、彼女は今ここで軟禁生活を強いられていた。

 普通に生活する分には不自由こそないが、外出は厳しく制限されており、ようやく捕まえた婚約者の下に行くことすらできない。

 当然、自由に遊びに行くこともできないため、彼女は非常にストレスが溜まっていた。

 ナディアはやや乱暴に顔拭きタオルを床にたたきつけると、体をそのままベッドに投げ出し、枕を強く抱きしめて彼――ユーリスの事を思い出す。


(……はじめはいつものような遊びのつもりだった。でも、)


 ナディアは父王からどのような評価を受けようとも、グランヴェニス王家の血を引く正当な王女の一人。

 当然彼女に己の息子との婚約を望む貴族は山ほどいた。

 だけれど、親同士が勝手に決めた婚約に従って結婚するなんて面白くない。

 だから遊んだ。本当に恋をしているかのように少しずつ距離を詰めていき、親密になったところで別れを切り出す。

 その時の相手の絶望顔と自身が優位であることに対する再確認で快感を得ていたのだ。


 最初はそれでもよかった。

 なにせ彼女は王女なのだから。選ぶ権利がある側の人間なのだから。

 しかしそんなことを何度も繰り返していては、見合いの話も激減するのが道理。

 ナディア王女とは婚約を結ぶべきでない、と周囲の人間が考えるのも当然だ。

 それでもまだ引っかかる男はいるので、ナディアはそれほど深く考えていなかった。


 それは偶然だった。

 彼女は聞いてしまったのだ。

 父王が厄介払いとして自身を他国に嫁がせようと計画を立てていることを。

 自分がまもなくこの国にはいられなくなってしまうということを。


 これには流石のナディアも焦った。

 そこで彼女は考えたのだ。

 今度こそ本当に婚約関係を結び、この国に留まれる理由を作ってしまおうと。


 だが問題はその相手だ。

 半端な相手では説得力に欠け、強引にでも父は自分を他国へ嫁がせようとするだろう。

 だからこそ相応の地位を持ち、その上で自身の味方をしてくれる存在が好ましい。


 そこで見つけたのが公爵家であり父王との仲も良好なヴァールハイト家だ。

 かの家には男子が三人ほどいる。

 そのうちの誰か一人くらいは空いているだろうと。


 実際、ヴァールハイト公爵家にはユーリスの弟にあたるフリーの男子がいた。

 しかしやや年が若く、しかもナディアの好みには合わなかった。

 二番目は見合い話が持ち上がっていたがまだ婚約関係を持たない身。

 自身と関係を結ぶのにはそう悪くない相手だったが、彼もナディアの好みではなかった。

 そして目を付けたのが長男――ユーリスだった。

 

 美しい容姿とまっすぐな瞳を持ち、周囲からの評判も上々。

 年齢的にも少し下だが気にならないレベル。

 純粋そうで“騙しやすそう”な、正に彼女好みの相手だった。


 しかしそのユーリスには婚約者(邪魔者)がいた。

 ブランヴェル伯爵家のシェリルとかいう小娘だ。

 少し魔導と勉学に覚えがあるらしく、周囲からもそれなりに高い評価を受けている少女だという。


(だからなに? 結局何よりも優先されるのは地位よ。王女たる私と伯爵令嬢の彼女ではどちらが優先されるなんて明白じゃない)


 正直、ナディアはシェリルのことなど眼中になかった。

 とは言えユーリスを言いくるめるにはある程度彼女について調べ上げる必要があると、人づてに情報を集めさせた。


(……ふーん、結構凄いのね、あの子)


 上がってきたのは予想以上に高い評価を受ける彼女の評判だった。

 父王もその才能も高く評価しており、やがてこの国には欠かせない存在となるとまで言わしめるシェリルの話を聞いたナディアは、他国とのどうでもいい婚約を結ばされそうになってる自身と比べて“面白くない”と感じた。

 

 その思いが彼女に火をつけた。

 なんとしても彼女から婚約者を奪ってやろうと本気になった。

 そんなに優秀ならどうせコイツ(ユーリス)と結ばれなくても他に嫁ぎ先くらいあるでしょと言い訳をしながら。


 その後、ナディアはとある夜会にて、ユーリスに近づき、コンタクトを取った。

 最初はあくまでただの話し相手を求めているとアピールしながら、さり気なく会話へと誘い込み、何度かそれを繰り返すことで自然に会話ができる立ち位置を獲得する。


 そしてある程度仲が深まったところで切り出すのだ。

 自分はどうしようもなく不当な扱いを受けていて、助けを欲していること。

 こんな悩みは数少ないボーイフレンドであるアナタにしか話せないという事。

 もし手を貸してくれたのならば、その時は――


 と、慣れた誘惑をしながら、彼を誘い込む。

 私は彼を必要としており、彼にとっても自分が必要な存在であるとじっくりと刷り込んでいく。

 幸い、私の容姿は男を手玉を取るのにとても適していた。

 

 最初は自分は婚約者がいる身であり、裏切るわけにはいかないと頑として受け入れなかったユーリスも、少しずつ話の規模を大きくし、最期は直接個室で大事な話(・・・・)があると囁けば、結局は簡単に堕ちてしまったではないか。


 これで準備は整った。

 あとは公の場で自身とユーリスが新たに婚約関係を結ぶことを周知させ、事実にしてしまう。

 そしてあの父王も流石にどこぞの馬の骨とも知らないあんな小娘よりも、自身の娘の意向を尊重してくれるに違いないと確信し、事に及んだのだ。

 ユーリスの父も、きっと息子がそういうのならと味方をしてくれるだろうと、甘い考えを抱きながら――


 しかし結果は、


「なによ! 父王(アイツ)は娘の私よりあんな小娘の方が大事だっていうの!? 私は王女よ! 王族なのよ!? 伯爵令嬢より扱いが悪いなんて、そんなことあっていいわけないじゃない!!」


 大激怒した父にこっぴどく叱られ、しばらく大人しくしていろとこんなところに幽閉されて散々な結果に終わってしまった。

 このままではどんな目にあわされるのか分かったものではない。

 何とかしなくては。一発逆転の手を打たなければ。


「このままじゃ終わらないわよ……」


 そう強く拳を握りしめ、ナディアは思考の海に飛び込むのであった。



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