7話
グランヴェニス王国。
それは人智を超えた魔法技術により発展した大国だ。
軍事面においても生活面においても魔法を欠かすことは出来ず、優れた魔法の才能を持つものは身分問わずに重用されるのがこの国の特徴である。
そんな国を束ねる王――ヴェリヌス2世は別名を魔導王とも呼ばれ、全盛期は強大な魔法による戦闘能力で戦争で活躍し、また、今日までその優れた智慧によって魔導技術の発展に寄与した偉大なるお方。
そして今日、王たる威厳を前に、あるいは尊敬する偉大な人物を前に、私はひどく緊張していた。
自分に非はないつもりだけれども、それでも何か己に落ち度があったのではないかと改めて思わされるくらいだ。
「面をあげよ。魔導技師シェリル」
「……はい」
「此度の件、耳にした。ヴァールハイト公爵家との婚約関係を断たれてしまったようだな」
「……はい。陛下の後押しをいただいておきながらこのような結果となってしまったこと、誠に申し訳ございません」
「うん? 何故謝る。むしろ謝らねばならぬのはわしの方だ」
「えっ……?」
そう言うと、陛下は突如として席を立ち、私の前まで歩いてきたかと思えば、なんといきなり頭を下げ出したのだ!
「この件はど我がバカ娘が己の保身のために引き起こした愚行が原因だ。すまないことをした」
「お、おやめください陛下! 王たるお方が私などに頭をお下げになるなど、そんな!」
「違う。これは父として、そして魔導を極める同胞として、我が娘の行いに謝罪したかったのだ。どうか素直に受け取ってくれ」
「……ありがとうございます」
果たしてその言葉が正解なのか分からなかったけれど、こう言われてしまってもう「おやめください」と拒絶することなんてできない。
そして私に頭を下げてしまった陛下は、再び対面となる席に着くと一息ついて、私に経緯を説明してくださった。
曰く、ナディア王女はこれから他国に強制的に嫁がせる予定だったが、それを察知した彼女は焦ってユーリスと婚約関係を結び、この国に留まろうとしたこと。
魔導研究所の顧問と言う名前だけの役職を盾に、私からなら婚約者を奪えると思ったこと。
単純に好みだったから狙っていたこと。
などと言った、このような経緯に至る呆れた理由を並べられた。
王女も王女だが、それに釣られるユーリスもユーリスだ。
なんと言うか、呆れ果ててもう怒りすら湧かなくなってきた。
「……もしお主が望むのであれば、ナディアをすぐに切り離し、復縁の手引きをするが」
陛下にはそう言われたけど、もう私の恋はとっくに冷めてしまっていた。
信頼を作るのは難しいけど、壊すのってこんなに簡単なんだなって学びを得てしまった。
もう私は、二度とユーリスを真正面から愛せる自信がない。
「申し訳ございません。陛下。私はもう、ユーリスとは共に生きていけそうにありません」
「……そうか。分かった。わしもそれが正しい選択だと思う。今回の件であの男はお主に相応しくないとハッキリしたからな」
本当に実の父のような事をおっしゃる陛下に、私は困惑しながらも嬉しさを覚える。
「ではここからが本題だ。これはあくまで提案に過ぎぬのだが」
「は、はい!」
「我が息子――即ち我が国の王子と、見合いをしてみる気はないか?」
「え……えええええっ!?」
それは全く予想もしてなかったお言葉。
思いもよらぬ提案に、場所を弁えず大きな声を出してしまったのは仕方のない事だろう。
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