6話
翌日。
私は朝から専用の工房に引きこもっていた。
昨日はあの信じがたい出来事があってなかなか寝付けなかったけれど、あのまま家に引きこもり続けているくらいならとこうしてここに足を運んだのだ。
お父様たちも少し心配そうな顔をしてくれていたけれど、私が大丈夫、と一言言うと、
「……そうか。気を付けて行ってこい」
と送り出してくれた。
でも今日はいつものように一日中ここにいるわけにはいかない。
何故なら昨日の件について国王陛下が直接私を指名して呼び出しをされたからだ。
なんでこんなことで陛下が、などとは思わない。
陛下もかつては魔導研究者の一人だったからか、あのお方は私の研究に対して深い理解と興味を示してくださっている。
だから今回のこともきっと無関係ではないと思ってくださってるのかもしれない。
「シェリル様。そろそろ準備をなされた方がよろしいかと」
「うん。分かってる。ありがとうリリカ」
声をかけてくれたのは私が子供の頃からずっと支えてくれているメイドのリリカ。
年齢は私の7個上で、私にとっては姉も同然の大切な存在だ。
「…‥シェリル様。一使用人の身としては差し出がましいようですが、その、あまりご無理はなさらないでくださいね」
「……うん。分かってるよ。でも、仮にも婚約者だった人とのいざこざだから、私が逃げるわけにはいかないよ」
「シェリル様は私の大恩人で、やがてこの国には欠かせない存在となるお方。どうかご自身のことをお気遣いくださるよう……」
「……うん、ありがとう」
リリカは元々、使用人ではなかった。
正確には我がブランヴェル家に仕えていた使用人の娘だったんだけど、彼女には残念なことに魔法の才能が全くなかったんだ。
本当は娘をブランヴェル家に仕えさせたかったその人はひどく落胆して、かと言って放っておくわけにもいかないと、リリカには魔法が関係しない単純作業のみが与えられていた。
リリカも自分には才能がないと自覚しており、昔は滅多に喋らないくらい暗い性格になってしまっていたんだ。
だから……
「ほら、これ! 使ってみて! ここのボタンを押すだけでいいの。それだけでお湯が沸くから!」
「こ、こう、ですか……?」
私は彼女に被検体になってもらうことにした。
身近にいる魔法が全く使えない貴重な存在。
私が目標としている、誰もが魔導具を気軽に使える世界を目指すために必要な人材だと。
私がその時彼女に手渡したのは、ボタンひとつで「加熱」の魔法が起動して、中に入れた水をお湯に変化させる魔導具だ。
まだまだ魔力の消費効率が悪いので実用性はイマイチだけど、近くにある分には私が補充した魔力で賄える。
お湯を沸かすなんて行為は、直接火にかけるか魔法を使うかの二択しか無かったので、こんな手軽にお湯が沸くことに彼女はひどく驚いていた。
その時の顔は今でも忘れない。
「す、すごい……!!」
「ね。こういうのがあれば普通のお仕事もきっと簡単にできると思うんだ。だからさ……」
元々、私は彼女のことがずっと気になっていた。
やや歳の離れた妹が生まれるまでは、家の中に同世代の女の子が彼女しかいなかったから、どうにかして仲良くなりたいと思っていた。
だから作った。
私にはそれを作れる才能があった。
そして私の頭の中にはまだまだたくさんの便利な発明品の完成図が思い浮かんでいた。
こんなのでは終わらない。
もっともっと便利な魔導具を作って、みんなが楽できる世界に。
リリカみたいな子が不当な扱いをされない世界に。
そのためなら私はこの程度のことで折れたりはしない。
この工房にいると、改めてそう強く決心できた。
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