エピローグ
「結局、バーリーは誰の手下だったんだろうな」
かつて〈ワイバーン〉乗組員たちの御用達だった酒場のテーブル席で、元乗組員の一人は、もはや口癖のようになっていることをまた口にした。
「あいつが言ってたとおり、あれからすぐに全員、『帝国』方面から異動になったもんな。よっぽどの大物なのかね」
「まあ、辞めちまったのも何人かいるけどな」
同じく〈ワイバーン〉に乗っていた同僚が、苦笑いを浮かべてグラスをあおる。
それにつられたように、もう一人の同僚も苦笑した。
「俺も辞められるもんなら辞めてえよ。ほんとに大佐以外んとこって、息苦しくてつまんねえ。……あ、つまんねえって言ったら大佐に怒られるな。遊びで人殺ししてるんじゃねえって」
「でも、そう言ってた大佐がいちばん楽しんでたような気もするけどな」
「まあ、何にせよ、『帝国』から離れられてよかった。大佐の〝幽霊〟に殺されなくて済む」
「ああ、あの話か。大佐の〝幽霊〟がランプトンを殺しにきたっていう。ランプトン以外の人間は全員逃がすっていうのがいかにも大佐らしいよな。せっかく俺らが〝戦死〟させてやったのに、全部パーにしちまった」
「でも、〝殿下〟に雇ってもらえたみたいでよかったな」
「見る目のある人はちゃんと雇うよ。自分の思いどおりにならないからって、わざわざ戦闘中に殺そうとする奴が大馬鹿なんだよ」
「モアか。いやあ、『連邦』相手にしてたときから、ほんとに大馬鹿だったな!」
「金とコネだけで出世したんだろ」
「あいつが来るまでは、何とかうまくやれてたのにな」
「あいつが大佐と俺らの人生、台無しにしやがった」
「……大佐、いま幸せかなあ……」
「幸せなんじゃねえ? あこがれの〝殿下〟の下で働けて」
「さすがに口説けないか」
「相手は元皇太子で〝死の艦隊〟の司令官だからなあ。それに、大佐はファンとして〝殿下〟が好きなんじゃねえ? あれでいてあの人、身の程わきまえてるから」
〝わかっている〟元部下たちは、それもそうだなと笑いあい、愛すべき元上司の幸福を願って乾杯をした。
―【01】了―