表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無冠の皇帝  作者: 有喜多亜里
【01】連合から来た男
23/169

22 中央突破しました

 アーウィンはインカムを好まない。よって、戦闘中に配下の人間が彼と直接話すことはまず不可能である。どうしても彼と話したければ、〈フラガラック〉のブリッジクルーを間に介さなければならない。

 しかし、ブリッジクルーはこれを好まない。アーウィンに話しかけにくいというのもあるが、そもそも彼は戦闘中に配下と会話することを嫌っているのである。二年前から延々と同じことを繰り返しているのだ、今さら何を自分と話す必要があるのかと思っているのかもしれない。

 ゆえに、戦闘中にアーウィンと連絡をとりたがる者はほとんどいなくなっていた。一月ほど前までは。


『殿下ー、ドレイクですぅ。ウェーバー大佐とマクスウェル大佐が邪魔でーす。どうにかしてくださーい』


 艦内放送のようなその声が響き渡ったとき、五人のブリッジクルーは騒然となった。が、アーウィンもその側近のヴォルフも、なぜかまったく驚かなかった。


「……変態め。もっとまともな頼み方をしろ」

「あの男的には、まともに頼んでいるつもりなんじゃないか?」

「まあいい。言っていることは正論だ。……キャル、ウェーバーとマクスウェルの隊を強制撤収しろ」

「承知しました」


 以上、終了。


「ドレイク大佐……俺たちを通さずに話すこともできたのか……」


 ブリッジクルーの一人で、金髪碧眼のヘイスティングス中尉が呆然と呟いた。


「私のせいかもしれません……」


 隣のブラッドリー少尉が硬い表情で囁く。


「先月……ドレイク大佐が初めて出撃したとき、無人艦を移動させてほしいと殿下に伝えてくれと通信を入れてきたんです。大佐本人からの通信ではなかったんですが、仕方がないので勇気を振りしぼって殿下にお伝えしたら、今みたいにあっさり了承されて……それなら最初から私たちを通さないで直接話してもらったほうがよかったと思って、その通信士に、ドレイク大佐でしたら直接殿下とお話しくださいと八つ当たりしてしまったんです……」

「八つ当たりはまずいと思うが、直接話してくれというのは好判断だ。殿下はドレイク大佐をむちゃくちゃ気に入っているからな。戦闘終了後に必ず映像通信を入れるくらい。今まで殿下が〝大佐〟にそんなことをしたことはなかったぞ」

「確かにむちゃくちゃ気に入ってますよね。あの〈ワイバーン〉こみで。うちの無人艦が撃ち落とされてるのに、夢中で見続けてましたもの。その艦長がうちに亡命してきたから、外装だけでも〈ワイバーン〉そっくりな軍艦(ふね)に乗せたくなってしまったんでしょうね。冷静に考えてみたら、とんでもないことだと思うんですけど」

「いや、とんでもないを通りこして、ありえないことだと思うが」

「まさか……あのとき告白されたから……」

「触れるな、その件には触れるな。殿下はドレイク大佐をむちゃくちゃ気に入っている。それでもういいじゃないか」

「そ、そうですね。この問題にはこれ以上深く立ち入らないほうがいいですね」


 ちなみに、彼らのこの危険な私語は、アーウィンがモニタ鑑賞に没入していたため、運よく聞き逃されて事なきを得た。


 * * *


 ドレイクの〝お願い〟を聞いて、ギブスンとシェルドン以外の隊員は脱力したが、すぐに緊張感を取り戻した。


「そんな、子供が先生に言いつけてるみたいな……」


 イルホンは呆れたが、ドレイクはけろりとしている。


「イルホンくんが直接言えって言ったんじゃん。……残存戦力、何隻だ?」


 スミスとティプトリーが同時に答えた。


「一五〇〇隻です!」

「あと五〇〇……」

「大佐! ウェーバー大佐隊とマクスウェル大佐隊が……!」


 モニタに目をやったイルホンが叫ぶと、ドレイクはにたりと笑った。


「やっぱ、ここでは先生に言いつけちゃうのがいちばん早いよね」


 モニタの中に表示されたウェーバーとマクスウェルの隊は、まるで本隊に吸い寄せられているかのような速さで撤収している。


「……それ、強制撤収ですよ」


 再びインカムを装着したキメイスが、耳を押さえながら言った。


「強制撤収?」

「〈フラガ〉はうちの有人艦も遠隔操作できるんです。ウェーバー大佐んとこの通信士があわててます」

「……知らなかった。うちもミスるとそうされるのね」


 ドレイクは独りごちると、スクリーンに向き直った。旗艦を失った艦隊はほとんどもう崩れかけていたが、撤退のため左翼を中心に再編しようとしている。


「残存戦力!」

「一二〇〇隻!」

「んじゃあ、せっかく邪魔者がいなくなったことだし、中央と左翼の間、突っ切っていくぞ」

「えっ」


 ドレイク以外の全員が声を上げた。


「中央じゃないけど中央突破だ。スミス、あそこが今いちばん薄いだろ?」

「は、はい、確かに」

「マシム、突っ走れ」

「イエッサー」


 一瞬の躊躇もなく、マシムは〈ワイバーン〉を超高速で敵陣へと走らせた。


(確かにいかれてるよ……)


 ギブスンとシェルドンにあれだけ砲撃させておいて、なぜさらに中央突破?

 もう疲労困憊状態なのではないかとイルホンがシェルドンを見ると、彼は依然として集中力を保ったままだった。それどころか、かすかに笑っていたのだ。あのシミュレーションを実戦でできるのが嬉しくてたまらないように。


(こっちもいかれてる)


 いかれた者たちを乗せた軍艦は、敵艦艇を撃ち落としながら、敵味方入り乱れた艦艇の残骸の間を疾走していく。イルホンは何とかこらえようとしたが、とうとう声を立てて笑ってしまった。


「どうした、イルホンくん」


 これにはドレイクも驚いたようだ。イルホンも笑いたくはなかったが、もはや自分ではどうしようもなかった。仕方なく、笑いながら説明する。


「だって、俺たちいかれてますよ! この前の殿下よりいかれてますよ! ここで中央突破なんかする必要あります? なのにどうしてこんなに楽しいんですか?」

「まずい、イルホンくんが壊れたぞ」


 苦笑いしてドレイクが言うと、隊員たちはイルホンから伝染したように次々と笑い出す。さすがに操縦士と砲撃手たちは声は出さなかったが、顔は笑っていた。


「イルホンの言うとおり! 何で中央突破なんだよ!」


 フォルカスが腹を抱えてひいひい笑う。


「あと二〇〇隻なのに、何でわざわざ敵ん中突っこむんだよ! 何で誰も反対しないんだよ! 馬鹿だ馬鹿だ、俺たちゃ馬鹿だ!」

「あと二〇〇隻だったからだよ! 残存戦力!」

「せ、一〇〇〇隻切りました! 九五〇隻!」

「やべえ、今度は殿下から逃げないと!」

「殿下! もうちょっと待ってて! お馬鹿さんな俺たちを許して!」

「突破、突破、突破ーッ!」


 珍しくスミスが絶叫した、そのとき急に視界が開けた。

 敵艦隊を抜けたのだ。

 だが、マシムはさらに速度を上げて、〈ワイバーン〉を走らせつづけた。


「……来るな」


 ドレイクが口の中で呟く。と、バックモニタに、あの光の糸の束が映し出された。

 美しいが恐ろしい。逃れようとする艦艇を追尾して貫く糸。


「ギブスン、シェルドン。第二段階クリアだ。もうコントローラーから手を離してもいいぞ。よくやった」


 ドレイクはそう言ったが、二人ともコントローラーを握ったままだった。


「どうした?」


 自分のそばにいるシェルドンにドレイクが声をかけると、彼は苦笑して答えた。


「駄目です……手が固まっちゃって……動きません……」


 見れば、シェルドンの右手は小刻みに震えている。


「ギブスンは?」

「まだ敵がいるかもしれないから離せません。……ということにしといてください」

「意地っ張りだな」


 呆れたようにドレイクは笑ったが、二人に無理に離せとは言わなかった。


「フォルカス、今回のエネルギー残量はどうだ?」

「さすが三倍増し。道草食わなきゃ充分帰れますよ」

「なんでこっちは五倍増しにしなかったのかねえ。まあ、とりあえず本隊に戻るぞ。マシム、お疲れだったらスミスに代わってもらえ」

「……操縦桿から手が剥がせないのでいいです」

「妙なブーム発生しちまったな。なら、そのまま操縦つづけてろ。無事に基地に帰れたら褒めてやる」

「イエッサー」

「……今回はないよね」


 誰にともなく、ぽつりとドレイクが言った。

 彼が何を言いたいのか、イルホンとキメイスはそれだけで察した。


「それは何とも……でも、入れてくるならそろそろ……」


 苦笑いしながらキメイスが言いかけた。と、通信の通知音がした。

 見たくないものを見るかのように、紫色の目をコンソールに戻す。

 ドレイクとイルホンは、無言でキメイスの視線の先を追った。


「おまえが! おまえが言うから!」


 ドレイクがキメイスの襟元をつかんで揺さぶる。しかし、キメイスはまったく動じず怒鳴り返した。


「関係ないでしょ! それを言うなら、大佐があんなお願いの仕方するから!」

「どっちでもいいですから、早く出ないと! ティプトリー、シェルドン、〝サブシート〟に退避!」


 ティプトリーはもちろん、さすがにシェルドンもあわてて艦長席を離れ、イルホンと共に〝サブシート〟に避難した。


「いいなあ。俺もそっちに行きたいなあ」

「駄目です。この避難区域に〝大佐〟は入れません」

「設置させたの俺なのに」


 すかさずフォルカスが口を挟む。


「設置したのは俺たちだけど」


 まだ誰から通信が入っているのか知らされてはいなかったが、他の隊員たちはすでに起立する準備を始めていた。


「えー……例によって、殿下から通信が入っているので……つなぎます」


 キメイスはそう宣言してから、コンソールを操作した。

 あの美しい司令官の映像がスクリーンに映し出される。ドレイク以外は完璧な敬礼をしたが、イルホンはマシムの左手がしっかり操縦桿を握っているのを見逃さなかった。


『後ろからレーザー砲を撃とうとした奴はいなかったぞ』


 いつものように軽く右手を挙げてから司令官が口を開いた。軍艦のスクリーンで司令官を見るのは、イルホンはこれで三度目だが、回を重ねるごとに態度がくだけてきているような気がする。


「そうですか。そいつはよかった。ウェーバー大佐とマクスウェル大佐もすぐに撤収していただきまして、ありがとうございました」


 ドレイクが愛想よく答える。その間にメインシート組は早々に着席した。

 サブシート組は仕事がないので座れなかった。これでは〝避難区域〟とは言えないなとイルホンは思った。


『邪魔なのはよくわかったが、もう少し言いようはなかったのか』

「口下手なので」

『そうか。そういう設定か。覚えておこう』

「ところで殿下。今回の戦闘中、この軍艦(ふね)をご覧になっていましたか?」


 ドレイクがそう訊ねると、なぜか司令官は少しあわてた様子を見せた。


『あ……ああ。見ていた』

「どうでした? ご満足いただけましたか?」


 次の瞬間、乗組員たちは唖然とした。

 美しいが表情の少ない司令官が、噴き出して笑ったのだ。


『……戦闘中は前進しかできないのか』

「敵は前にいるんだから、進むしかないでしょう。たまーに後ろにいることもありますが」

『なるほど。では、敵陣に突入して離脱したのも、作戦のうちなのだな?』

「当然です」


 ――嘘でしょ?

 イルホンだけでなく、他の隊員も思わずドレイクを見た。

 ドレイクの顔は、真剣そのものだった。


「俺はできると思ったことしかやらせません。そうじゃなきゃ、生きて帰れないじゃないですか」

『そうか。それを聞いて安心した。私へのサービスなのかと思った。……満足した。できれば、無人砲撃艦を撃ち落としつづけたときのような砲撃も見たかったが』

「ああ、あれはクレー射撃みたいなもんですから、有人艦相手じゃまず無理です」

『……無理か』

「どうしてもご覧になりたいんでしたら、実戦ではなく訓練で。廃棄処分する無人艦を遠隔操作していただければ、今の〈ワイバーン〉で再挑戦してみます」

『本当か?』


 司令官の表情がぱっと輝く。やはり〈ワイバーン〉マニアだったようだ。今日の彼は子供のような反応をする。


「そのかわり、殿下。一つお願いがあるんですが」

『……何だ』


 とたんに司令官の顔から笑みが消え、かわりに警戒の色が浮かんだ。


「殿下は今日、うちの軍艦(ふね)をご覧になっていたんですよね? そのとき、録画も一緒にしてたりなんかしてませんか? あれば、それのコピーをいただきたいんですが。今日の反省会とか、隊の資料として使いたいので」


 そのとき、イルホンは見た。マシムが左手は操縦桿を握ったまま、右手で拳を握ったのを。


『録画……』


 司令官はどう答えたらいいものか、悩んでいるようだった。イルホンは絶対録画していると思っているが、素直にそうとは認めがたいのだろう。


『……隊の資料として使うのだな?』

「はい、そうです」

『わかった。明日、私の執務室に取りにこい』

「ありが……ええ? また執務室?」


 ドレイクがあわてて顔を上げたときには、すでに通信は切られていた。


「ちょっと待って、殿下! また朝の七時とかじゃないでしょうね!?」


 イルホンはドレイクの隣に行って、首を横に振った。


「もう、聞こえませんから」

「大佐……ありがとうございます……!」


 前を向いたまま、マシムが感極まった声で礼を言う。それを脇から覗きこんだギブスンが、ゲッと叫んで上半身をそらせた。


「こ、こいつ……泣いてる!」

「そんなにも……そんなにも動く〈ワイバーン〉が見たかったのか」


 スミスもマシムからやや距離をとった。


「俺も映像は欲しいことは欲しいけど、いったい何時に呼び出されるのか、そっちのほうがすっごい心配……」


 感涙しているマシムとは対照的に、ドレイクは艦長席で深くうなだれている。


「大佐が朝弱いのは、この前充分わかったでしょうから、また七時に呼び出すほど、殿下も悪魔ではないと思うんですが……」

「どうかなあ……殿下だぞ?」

「その殿下が噴き出して笑ったところなんて、俺、今日初めて見ました。衝撃です」

「俺らの馬鹿がよっぽど面白かったんだろ。イルホンくんだって、あんなに喜んでたじゃない」

「……どうかしていました」


 今さら恥ずかしくなって、イルホンはうつむいた。


「本当に、あの中央突破は作戦だったんですか? その場の思いつきではなく?」

「臨機応変と言ってくれ。残りあと二〇〇だったから、早くあそこから離脱したかったんだよ。それならついでに敵艦減らして、中央と左翼も分断していこうかと思ったんだ」

「大佐にそう説明されると、もっともらしく聞こえますね」

「もっともらしくって何よ。もっともな説明でしょうが」

「……大佐。俺、今日の殿下見てて思ったんですけど」


 イルホンは顔を上げて、つい先ほどまで司令官が映っていたスクリーンを見た。


「殿下の『〈ワイバーン〉の本当の姿を見てみたい』には、実はそんなに難しい意味はこめられてなくて……ただ単に、縦横無尽に宇宙を飛び回る〈ワイバーン〉が見たかっただけなんじゃないでしょうか」


 ドレイクはしばらく間をおいてから答えた。


「そうだな。きっとそれが正しい。俺には結局、〝生きて帰る〟ことしか考えられなかったよ」


 * * *


 そのとき、〈フラガラック〉のブリッジクルーは、我が耳を疑った。


(で、殿下が……噴き出して笑っていらっしゃる!?)


 また今回も、通信相手はあの「連合」から来た〝大佐〟に違いない。しかし、アーウィンは艦長席から自分で通信を入れてしまうので、相手が何を言っているのかは、彼のすぐそばにいる側近のヴォルフ――キャルはアーウィンに呼ばれないかぎり、艦長席から少し離れて立っている――しかわからないのだった。


 ――話の内容を知りたいが、知ってはいけないような気もする。


 彼らは複雑な気持ちを抱えたまま、何事もなかったふうを装った。

 一方、知ってしまったヴォルフは、まさにその複雑な気持ちを味わっていた。


(アーウィンが……笑っている……)


 おまけに、〝おねだり〟までしている。そのかわり、逆に〝お願い〟されてしまって、向こうがまだ何か言いかけていたのに通信を切ってしまった。


(こいつのことだから、録画はしていないって言い張るかと思っていたが……)


 旧〈ワイバーン〉の映像を持っていることは、あの新〈ワイバーン〉の外装を造ったことで完全にばれているが、今回の録画はしらばっくれることもできたはずだ。アーウィンは何事か考えこんでから、ぼそりと呟いた。


「間に合うだろうか」

「え?」

「キャル、あの変態が合流したら、全艦に帰還命令を出せ。ヴォルフ、後は頼む。私は艦長室にいる」


 アーウィンは立ち上がりながら一気に言うと、常にないことに、走ってブリッジを出ていった。


(で、殿下が……走っていらっしゃる!)


 ブリッジクルーは我が目を疑ったが、やはり見なかったふりをした。なお、このブリッジ内で見聞きしたことは、一応外部に漏らしてはいけないことになっている。


「何なんだ……」


 ヴォルフがあっけにとられて見送っていると、キャルが淡々と答えた。


「きっと、今から〈ワイバーン〉の映像を編集なさるおつもりなのだと思います」

「え? わざわざ自分でか?」

「マスターはドレイク様と〈ワイバーン〉に関することだけは、人まかせにすることができないので。〈ワイバーン〉の外装も、時間さえあれば、すべてご自分で指揮されていたと思います」

「でも、今回の映像量は膨大すぎるだろ。あれ、いったい何隻の無人艦で撮ってたんだ?」

「すべての無人艦でです」

「……何?」

「ですから、まず〈ワイバーン〉が映っている映像だけを抜き出す作業が必要です。そういった作業なら私にもお手伝いできるのですが、無人艦とこの船を動かさなければならないのでできません。基地に帰還したら、お手伝いしようと思います」

「ああ……だから『間に合うだろうか』か。明日取りにこいってもう言っちまったもんな。今まであいつに無理難題言いつづけてきた手前、意地でも間に合わせようとするだろ。しかし、護衛艦隊司令官が記録映画監督みたいなことしてていいのか?」

「もう結論は出されていますので」

「〝ドレイクが邪魔だと言ったからいらない〟か。自分だってそう思ってたくせに。結局、いつもと同じ仕事をいつもと同じようにした〝大佐〟が残れたわけだ。まあ、ドレイクは別格として」

「オリジナルの〈ワイバーン〉も、あんな砲撃艦だったのでしょうか」

「きっとそうだったんだろうな。艦長は同じなんだから。あんな凄まじい砲撃艦、初めて見たぜ。旗艦を沈めてからは、狂ったようにレーザー砲を撃ちまくってた。でも、正直、俺は違和感を覚えたな。ドレイクは〝クレー射撃〟って言ってたが、あの光景が妙に頭に残ってて。あいつに言わせりゃ、あのときが〝特別〟だったんだろうが」

「マスターもあの光景が忘れられないようです。私はあのとき、なぜ当てられるのか不思議でたまりませんでした」

「あのときと同じことを、今回の映像と引き替えに、訓練名目でドレイクがやってくれるそうだぜ」

「……だからマスターはあれほど必死なのですか」

「それもあるだろうな。よほどもう一度見たいんだな、あれ」

「ヴォルフもでしょう」

「キャル、おまえは複雑だな」

「……今度こそ勝ちます」

「それじゃ趣旨変わっちまうだろ」

「訓練ですから」

「そんなに悔しかったのか」


 苦笑いしてから、ふとヴォルフは気がついた。


 ――『今度こそ勝ちます』? 自分の感情で主人の命令にそむく気なのか?


 今までキャルの感情表現は、学習による見せかけだけのものだと思っていた。だが、本当にそうだったのだろうか。表情はともなっていなくても、実は彼にも感情はあり、それゆえに旧〈ワイバーン〉を沈めてしまったことを今でも気にやみ、ドレイクだけは〝ドレイク大佐〟ではなく〝ドレイク様〟と呼んでいるのではないだろうか。


(ここにドレイクが来てから、アーウィンだけでなくキャルも変わったよな。こう言ったら何だが、人間くさくなった)


「〈ワイバーン〉が合流しました。全艦に帰還命令を出して帰還します」


 キャルは以前と変わらない平坦な声で宣言し、〈フラガラック〉とその周囲にいる無人護衛艦とをゆっくり旋回させた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ