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無冠の皇帝  作者: 有喜多亜里
【01】連合から来た男

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20 部下におごりました

「ひどいっすよ、大佐」


 フライドチキンをかじりながら、フォルカスがまたなじった。


「給料出たらおごるって言うから、すっげー期待してたのに……〝〈ワイバーン〉じゃないほう〟でオードブルって……しかも酒なし」


 ドレイクの〝地獄の初給料日〟――イルホンがいつもより早めに執務室に行ったとき、彼はソファで爆睡していた――から三日後。

 ドレイクは早めに訓練を切り上げて、約束どおり、隊員たちにおごった。

 たとえ〝〈ワイバーン〉じゃないほう〟のブリッジにテーブルを持ちこみ、そこにイルホンが手配した料理と飲み物を並べただけであっても、金はドレイクが出しているのだから〝おごった〟ことには間違いない。彼はあのとき、何をおごるかは明言していなかった。


「悪いな。イルホンくんに借金返して新生活始めたら、予算がなくなっちまった。あと、軍艦の中で酒はさすがにまずいだろ」


 簡易椅子の一つに座り、いつもの薄いコーヒーを飲んでいたドレイクは、とても悪いと思っているとは思えない笑顔で言い訳した。


「じゃあ、予算できたら、今度はレストランで!」

「おまえら、食いそうだなあ……そういや俺、まだ基地の外、出たことないな」

「大佐、引きこもり?」

「休みの日はそうだなあ……一日寝てる。昨日も寝てた」


 それを周りで聞いていた隊員たちは、驚愕の叫びを上げた。


「ええっ!?」

「そういえば、監禁されてた頃もしょっちゅう寝てましたね……」


 本当はただ横になっていただけなのかもしれないが、イルホンがあの部屋の窓を開けると、たいていドレイクはベッドの中にいた。


「ああ、あの一週間は夢のようだったよ……毎日食っちゃ寝できて」

「大佐……まだ若いんでしょ?」

「もうおっさんだよ。見りゃわかるだろ。でも、太りたくないから、緊急の場合以外は徒歩で移動してる」

「そいつはすげえ」


 すかさずイルホンは補足した。


「俺はそれにつきあわされてる」

「そいつはひでえ」


 広大すぎる基地内の主要な移動手段は車だが、イルホンはドレイクと行動するときに利用したことは、まだ二、三回しかない。


「それにしても、結局、この軍艦(ふね)の名前は〝〈ワイバーン〉じゃないほう〟で確定してしまいそうですね」


 天井を見上げながら、キメイスが言った。


「誰が最初に言い出したんだっけ?」

「スミス」


 そう即答したのは、ドレイクだった。


「え、大佐、覚えてるんですか?」

「たまたまな。この軍艦(ふね)も〈ワイバーン〉とは違う意味で感慨深い。こっちに来て、初めて乗ったのがこいつだった。元祖〈ワイバーン〉と全然勝手が違うんで、最初はどうしようかと思った」

「でも、四日目にはもう出撃してたじゃないですか」

「人間、必死になれば何とかなる」

「何とかなったのは大佐だからです」

「こいつで『連合』の旗艦を初めて撃った」


 隊員たちは無言でドレイクを見つめた。

 ドレイクの顔には、自嘲に似たものが浮かんでいた。


「その後、『帝国』の軍人として、こいつで二回出撃した。……こいつはもうシミュレーターとして使われて、二度と宇宙(そら)を飛ぶことはないだろう」

「……やっぱり、〝〈ワイバーン〉じゃないほう〟じゃかわいそうかな」


 苦くキメイスが笑う。


「大佐がつけてあげるのが、いちばんいいと思いますけど」


 イルホンが口を挟むと、ドレイクは唸ってコーヒーを飲んだ。


「うーん。俺にとっては、やっぱり〝〈ワイバーン〉じゃない〟なんだよなあ……」


 それを聞いたキメイスは、口元を覆って顔をそむける。


「本当にかわいそうに……大佐にもてあそばれたあげく捨てられて、シートまで奪われて……」

「嫌な言い方するな、おい」

「こいつを一人で動かしたわけですか」


 眉をひそめたドレイクに、珍しくマシムが自分から声をかけて無人の艦長席を指さした。


「この艦長席で?」

「ああ。そこで操縦して砲撃した」

「どうやって?」


 それは以前から、全隊員が疑問に思っていたことだった。


「どうやって?」


 ドレイクはオウム返しすると、飲みかけのコーヒーをイルホンに預け、艦長席に座ってコンソールを操作した。と、コンソールの狭間から二本の操縦桿が上昇してくる。ドレイクはそれを左右の手で握った。


「こうやって。左が船の操縦桿、右が砲撃のコントローラーな」

「……これを同時に動かしたんですか?」


 冷静さが売りのマシムも、さすがに唖然としていた。


「絶対無理」

「ちょっと、シミュレーションで実演してみてくださいよ」

「ええー、もう腕鈍ったよ」

「鈍っててもいいから、一度見てみたいんですよ」

「しょうがないなー。じゃあ、ちょっとだけよー」


 ドレイクはおどけると、すばやくシミュレーションプログラムを選択した。


「実際に操作するときは、こっちのモニタだけ見る。……スクリーンに表示するから、おまえら、ちょっとどいてー」


 ドレイクの一声で、スクリーンの前に立っていた隊員たちがあわてて左右に退(しりぞ)く。


「では、俺の大好きな中央突破コースでいきまーす!」


 明るくドレイクは宣言したが、ここで〝孤独に〟砲撃訓練をしているシェルドンは小さく呻いた。


「げ、最難度コース」


 イルホンはスクリーンではなく、ドレイクが凝視しているモニタを見ていた。周囲には敵船がひしめきあっていたが、どこを航行させればいいか、コンピュータが自動的にルートを表示していて、すでに複数の敵船がロックオンされている。

 おそらく、この指示に忠実に従えば、このシミュレーションはクリアできるのだろう。だが、ドレイクは航行ルートこそコンピュータに従ったものの、砲撃では無視した。自動モードで砲撃ボタンを押せば、ロックオン済みの船は一度に砲撃できるのにもかかわらず、手動モードで敵船を選択して撃ち落としていく。


「はええ……」


 操縦のマシムと砲撃のギブスンが呟いたとき、シミュレーションはもう終了していた。しかし、突破にかかった時間は驚異的に早くても、撃ちもらした敵船は多かったため、砲撃の評点は低かった。


「やっぱ、腕鈍ってるなあ……」


 結果を見て、ドレイクは少し悔しそうに言った。


「今ので!?」

「前はもう少し速く突破できたんだけどなあ」

「突破?」

「そう。あくまで突破時間」

「撃ち落とせた船の数は気にしないんですか?」

「ああ。このシミュレーションでは俺は気にしない。いいか、実戦で考えてみろ。たった一人で軍艦(ふね)動かしてるんだぞ? 一刻も早く突破して、基地(おうち)に帰りたいじゃねえか」

「それはまあ、帰りたいですね」

「それなら、敵船全部撃ち落とす必要がどこにある。自分が突破できるだけの船、撃ち落としてけばそれでいい」

「なるほど」


 砲撃担当のギブスンとシェルドンは、そろってうなずいた。


「ためしにマシム。優等生的にこれやってみろ」

「え、俺ですか?」

「俺より船走らすのは得意だろ。砲撃はロックオンされるたびに、ボタンを押していけばいい」

「はあ……」


 ドレイクは砲撃モードを自動に戻してから艦長席を下り、入れ替わりにマシムが座って同じシミュレーションをした。

 砲撃は簡単になったはずなのに、突破時間はドレイクよりもはるかに長い。結果を見て、マシムは一言呟いた。


「ミステリー」

「確かにミステリー。……何でだ?」

「突破するのに関係ない船まで撃ってるから、本当に撃たなきゃならない船を撃つのが遅くなるんだ」


 イルホンから返してもらったコーヒーを飲みながら、ドレイクが解説する。


「すると、コンピュータが自動的にルートを変更する。撃つ。遅れる。ルート変える。その繰り返しが積み重なって、突破時間が長くなる」

「なら、大佐はどうやって、その撃たなきゃならない船を見分けてたわけですか?」


 シェルドンが訊ねると、ドレイクはにやりとした。


「おっさんの勘で」

「……今から一気に年とれないんですけど」

「まあ、ようは〝やっぱ一人は大変だよね〟、〝オートに頼りすぎてちゃ駄目だよね〟ってことだ。俺はこの型の親切すぎるところがどうも苦手でね。どこに何がいるか教えてくれるだけでいいよ、撃つとこくらい俺に決めさせてよって思っちまうんだ」

「親切すぎる……」

「あと何年経ったらその感覚、わかるようになるかな……」

「とりあえず、次の出撃には間に合いそうにないから、ギブスン、シェルドン。明日から〝連弾〟練習だ」

「は?」


 ギブスンとシェルドンは、ぽかんとしてドレイクを見た。


「ほれ、余興はもう終わりだ。食って飲め。食い残しが出たら俺が持ち帰るから、無理して食いきんなくてもいいぞう」


 だが、ドレイクはそう言いながらコーヒーを飲み、疑問顔をしている砲撃担当たちと視線を合わせようとはしなかった。

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