プロローグ
「ああ……また全滅だな」
スクリーンを一目見て、エドガー・ドレイク大佐はそう言った。口調は軽かったが、彼が今、苦い思いを噛みしめていることを、副官であるバーリーは知っていた。
──乱れた黒髪と無精髭。左目の下の古い傷跡。
とても軍人とは思えないが、「連合」の宇宙軍艦〈ワイバーン〉のれっきとした艦長である。
現在の彼に与えられる任務は、もっぱら〝残存戦力〟の回収だ。気を取り直したように部下たちに命じる。
「生命反応、絶対に見落とすな! 万が一ってこともある!」
「イエッサー!」
おそらく、生存者は一人もいないだろうと、命じた側も命じられた側もわかっていた。
──全艦殲滅。
それがあの艦隊の鉄則だ。
「なかなか会えねえんだよなあ……」
宇宙空間を漂う艦艇のスクラップの群れを眺めながら、ドレイクは独りごちた。誰に会えないのかは、もう言わずもがなだった。
「会いたいと思うほうがおかしいですよ。もし会えていたら、私たちもこうなっているんですよ?」
蜂蜜色の髪をしたバーリーは、水色の目で冷ややかにドレイクを見やる。
「会ってみなくちゃわかんねえだろ」
うっとうしいほど長い前髪の下で、黒い瞳が笑っていた。
「戦う気なんか最初っからねえよ。会って逃げる! できたらその前にアピールする! 目的はそれだけ!」
「また馬鹿なことを……いくら若くて美形だろうが、相手は〝死の艦隊〟の司令官なんですよ?」
「だって、好みなんだもーん」
「大佐の好みはどうでもいいですが、部下を道連れにはしないでくださいよ」
「はいはい。それだけは絶対いたしませんよ」
ドレイクはおどけて両手を挙げてみせる。
「部下は必ず生きて帰す。それが上官の最低限の務めだ」