95話 フラフレは体調を崩す(前編)
「フラフレ様。ごはんの時間です」
「う……うぅっ……」
アクアの呪文のような目覚ましでも、起き上がることができない。
身体が重く、だるく、せきも出るし鼻水も止まらない。
アクアはすぐに私のそばに駆け寄ってきて、おでことおでこがくっつく。
視界にはアクアの超至近距離の綺麗な顔。
ドキッとしてしまい、心拍数が急激に上がった。
「やはりうつってしまったようですね……。申しわけございません。私が許可などしなければ」
「ふうう、はふあのへいじゃないほ(ううん、アクアのせいじゃないよ)」
パニックになっていてろくに喋ることもできない。
もちろん体調不良ではなく、急にアクアが至近距離に来たことが主な原因である。
「顔が真っ赤、心臓の鼓動も速い、なにを言っているかわからないほど喋れない。重症ですね。今日のところはこのままゆっくり休んでください。決して部屋から出ないように!!」
「うぅ……」
フォルスト様は昨日こんなに苦しい思いをしていたんだ……。
それなのに私に対してしっかりと会話までしてくれて。
そして、昨日私がフォルスト様にしてしまったことを思い出した。
先ほどアクアがやってきたように私もおでこをフォルスト様にくっつけてしまい……。
しかもよーく考えてみたら恥ずかしいことをたくさんしてしまった気がする。
「かぁぁぁぁああああっ!」
「めまいですか!? パニックになっているようですね。すぐに王宮直属主治医を呼んできます!」
もはやアクアの声は私に聞こえていなかった。
いっぱい恥ずかしく思ってから頭がグルグルしてきて、そのまま眠ってしまった。
♢
――プスっ……。
「ん……んんんっ。んん!?」
「はい、おしまい」
「きゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁあああっ!!」
なにか左腕に嫌なチクッとする痛みがあって目が覚めた。
横を見ると王宮直属主治医、そしてアクアとミーリがいた。
そして、私の一番苦手なプスっとしたものが……。
慌てて大声で叫んでしまった。
「フラフレさん、うるさい」
「フラフレ様が針を見たら、いつものことです。でも、大声を出せるくらいでホッとしました」
「フラフレ様の体調ダウンは、陛下の体調不良とは別の原因ですね。陛下は疲労で身体を崩しました。風邪とは別ですのでうつるようなことはありませんよ」
どうやら、私は看病したから風邪をひいたわけではないらしい。
アクアが責任を感じることはないだろうし、ひとまずホッとした。
「二、三日ゆっくりと休養をとり、栄養をしっかり吸収すれば回復するでしょう。フラフレ様の場合はうつる可能性もあります。念のためにアクア様とそちらのお方もプスっと刺して予防されますか?」
私のせいでアクアとミーリまでもが痛い思いをしなければならないなんて、頭が上がらないよ。今は物理的にも上げるのしんどいけど。
ところが、アクアもミーリも平然とした態度をしながら余裕の表情でプスっと一発づつおみまいされているではないか。
「え!? えぇぇぇえええ!? 二人とも……それ平気なの!?」
「フラフレ様が苦手すぎなだけです。チクリとはしますが、別に叫ぶほどではありません」
「私は初めてでしたけど、特に怖いとも痛いとも思いませんでしたわ」
二人ともすごいなあ。
私も怖がらないように努力しなければいけないな……。
ところで、痛い思いをしたからなのか、さっきまでのダルさがずいぶんとなくなっている気がした。
「なんか元気になれた気がします」
「フラフレ様が作られている野菜の栄養素を濃縮したもので薬を作っていますからね。おかげで世界でもトップレベルの万能薬級の薬をプスっと射つことができるようになりました。本当にありがとうございます!」
「は……はぁ」
言っている意味がよくわからなくて、曖昧な返事しかできなかった。
するとミーリが悔しそうな表情を浮かべていた。
「フラフレさんは凄いことを成し遂げているのに、どうして平然としているのです!? 少しは自覚して堂々としたらどうなんですか?」
「そう言われても……。私が薬を作っているわけじゃないし。王宮直じょくしゅじりーが頑張ったことだよ」
「私にはフラフレさんの態度が信じられません……。もっとドヤっとしていいと思いますが」
「そこがフラフレ様の良いところですからね」
アクアがクスクスと微笑んでいる。
ドヤっとするよりも、元気にさせてくれたのだからお礼が言いたい。
プスっとされたことに関してはともかく、あれだけ辛かった症状がずいぶんと緩和されているのだから。





