94話 フラフレは看病する
「しつれいしますー」
「その声はフラフレ!?」
フォルスト様はベッドに横になったまま顔をこちらへ向けてきた。
起き上がろうとしたが、顔色も悪いし苦しそうだからそのままにしていてと言っておく。
「すみません。ダメと言われていましたが、体調崩したと聞いたので看病しに来ちゃいました」
「うつったら大変だろう!」
「王宮ちょくじょくしゅじーは看病していたのでしょう? 私はダメなのですか?」
「いや、気持ちは本当に嬉しい。だが、もしもフラフレが今の私のようになってしまったら……」
「とにかく看病させてください。フォルスト様を元気にさせたいのです!」
「う、うむ」
ちょっと言いかたは強引だったかもしれない。
けれど、今のフォルスト様の顔を見ていたらここでなにもせずに部屋から退室してはいけない気がした。
「えぇと、ごはんは食べましたか?」
「いや、食欲があまりなくてな」
「じゃあ食べさせてあげます」
思ったよりも重症だと思った。
フォルスト様はしっかりとごはんを食べる人だと認識している。
特に、朝ごはんは一日のスタートで大事だからと絶対に少量でも食べるのだ。
これはどうにかして口の中に食べ物を入れてあげないと。
そう思って提案したのだが……。
「いや、それはさすがに……」
「なにか食べないと元気になれないでしょう?」
ベッドの横に置かれているスープカップを手に持って、スプーンを使ってフォルスト様の口元へ近づけた。
「強引な看病だな」
「いいからいいから。はい、あーん」
「これはさすがに恥ずかしい……」
フォルスト様は顔をさらに赤くしながらそっぽを向いてしまう。
そっぽを向いた方面に移動して再びスプーンを口元に近づけた。
「あーんしてくださいっ」
「あーん……あつっ!!!!」
「あ……冷ますの忘れちゃった……」
フォルスト様のことばかり気になってしまい、やらかしてしまった。
まだ熱々のスープを冷ますことを忘れていた。
しかも、スプーンをしっかりと口の中に入れられず、唇のやや上側の皮膚に当たってしまったのだ。
これは本当に申しわけなく、何度も頭を下げた。
「気にすることはない」
「申しわけございません! 今度はしっかりと冷まします!」
「ま、まて。それはさすがに……」
ふー、ふー、ふー、ふー。
息を何度もスープに吹きかけて、これで大丈夫だろう。
「はい、今度は大丈夫です。あーん」
「ちょっとまて……。それを私が食べるのか?」
「ちゃんと私の息で温度下げましたから」
「う……うむ」
フォルスト様の顔色がさらに赤くなっていく。
これは早くごはんを食べてもらって治してもらわなければ……。
「なんか顔が赤くなってきちゃいましたけれど、大丈夫ですか……?」
「こんなことしてもらったら、あたりまえだ」
なんとか食べてもらったあと、心配になりフォルスト様のおでこに私のおでこをあてて体温を確認をした。
今は緊急事態だから、好きな相手に触れるだとかそういったことは考えている暇などはない。
フォルスト様は逃げようとするが、ベッドから起き上がることすらできていないではないか。
「体温も高いのですね。しっかりと冷やさなきゃ! えぇと、タオルで水を冷やして……」
「水でタオルを冷やす……だな」
こんなときでも私の間違いを指摘してくれた。
声がすでに正気を感じないくらいだから、もう本当にゆっくり休んでほしい。
私も必死になってタオルと冷たい水を探した。
「あ、あったあった。ふんー! ふんーっ!!」
びちょびちょになったタオルを絞るのってこんなに力が必要だったんだ……。
持てる全ての力で頑張って絞る。
まだしめっぽいが、許容範囲だろう。
フォルスト様のおでこにタオルを乗せて、毛布をしっかりと整えた。
「あ、ありがとう」
「他になにかできることは?」
「気持ちだけでもありがたい。食べて冷やしてもらったからな。このまま寝れば治るだろう」
「じゃあ、寝るまでこうして……」
「お、おい」
フォルスト様の手をギュッと私の両手で包み込んだ。
今度は私の願望も含まれている。
ここ最近一緒にいることができなかった。
せめて、フォルスト様がぐっすりと眠っている間だけでも、そばにいたいと思ってしまう。
「やっぱりフォルスト様の手が熱いですね」
「寝るに寝れない……」
「ちゃんと寝るまでギュッとしていますから、安心してください」
「いや……そうではなくてだな」
フォルスト様はあたふたしながらも、ようやく眠ってくれたようだ。
私はしっかりとフォルスト様の看病ができたのだろうか。
アクアだったらもっとしっかりとできるような気がする。
今度アクアに看病の仕方も教わりたい。
もう二度とフォルスト様がこのような状態になってほしくはないものだが……。
私はしばらくこのまま手を離すことはしなかった。
私もウトウトとしてきたため、そのまま寝てしまった。
しばらくして私が先に目覚めたため、いつもどおり農園へ向かいどろんこ遊びを楽しむ。
しかしそのあと、夜になってから急に身体がフラフラとしてきてだるくなってしまった。





