90話 フラフレはミーリに謝罪する
「少し違うと思うわね」
私とミーリが農園でどろんこ遊びをしている最中、ミラーシャさんがやってきた。
聖なる力を強くできると思って聖女のミーリと一緒にこうしていると話すと、ミラーシャさんからそのようなことを言われてしまった。
ミーリは私のことをギロリと睨みつけられてしまう。
間違えていたことを教えていたのだから当然か。
「無駄な時間を過ごしてしまいましたわ。高貴な私がこのような屈辱を……」
「ご……ごめんなさい……」
私はミーリに謝ることしかできない。
どろんこ遊びで聖なる力を強くするという認識は間違っていたらしい。
「まぁ、話は最後まで聞きなさいな! 別にフラフレちゃんの案が無駄だなんて言っていないのよ。それに、教えてもらっておいて、あなたのその態度は良くないわ」
「うぅ……。でも私の大事な時間が」
「ひとまず落ち着きなさい」
ミラーシャさんが怒っている。
威圧感がすごいため、ミーリも大人しくなった。
「実はね、聖なる力について、どの国でも詳しく解明されていないのよ?」
「それは知っていますわ。でもフラフレさんなら知っているかと思ってわざわざこんな遠くまで来たのです」
「フラフレちゃんはすごい力を持っているけれど、知っているわけではないわよ。もちろん私も聖なる力について知らないことだらけなの」
ミラーシャさんは頬を掻きながらもどこか自信があるようにそう言ってきた。
まるで、知らないと言いつつもなにか知っているような素振りを感じた。
知っているなら教えて欲しい。
私よりも先に、ミーリがミラーシャさんに食いつく。
「なら、どうしてあなたは分かったように言うのです? フラフレさんも曖昧で、おそらくこうでしょってことで教えてもらっていましたけども」
「フラフレちゃんを見ていて、ひとつの仮定が生まれたのよ。もちろん確証は持てないけれど」
興奮気味なミーリも一度黙り、私のほうをしばらくの間じっと見てきた。
「全くわかりませんわ」
「ミーリちゃんは自然を愛している?」
「はい? 別に愛する必要なんてないでしょう」
ミラーシャさんは、はぁと一度大きくため息を吐く。
今度は私に視線を向けて同じことを聞いてきた。
「フラフレちゃんは?」
「大好きー! 土を元気にさせてくれる虫さんたちもね」
「私の時代には聖女が何人もいたわ。そのころの聖女たちにひとつの共通点があったことを思い出したのよ。自然を愛している聖女の力は強かったわ」
ミーリが、『げっ……』と言いながら嫌そうな表情に変わる。
「このままどろ遊びをして自然を好きになれとでも言うのですか……」
「太陽に姿をだしてもらうための力なんだもの。自然を愛していたら願いが通じるかもしれない。そんな発想はあっても良いんでないかい?」
「うぅ……、そういわれてみればハーベスト王国に残っている二人の聖女は自然に全く興味なかったような……。フラフレさんは見れば一発でわかるくらい好きそうだし。正しいのかも」
「絶対という保証はできないけれど、もしもミーリちゃんが今後自然を愛するようになって聖なる力が強くなれたら、奇跡の大発見につながるわよ」
「私が……奇跡の発見を?」
落ち込んでいたミーリだったが、急に顔色が変わり、ドキドキワクワクといった表情に変化した。
このときなんとなくだけれど、ミーリって普段から目立ちたいのかなぁと私は思った。
私は逆に目立ちたいとは思わないし、大勢の前でなにかをすることは苦手である。
ミーリが羨ましいなぁと思った。
もう少し、ミーリを観察して彼女の行動力を見習いたいなとも思ったのである。
「私が自然を好きになって聖なる力が上がれば証明できるのですよね?」
「心から愛せなければ意味がないと思うわ。だから、フラフレちゃんが一生懸命農作業で楽しんでもらおうとしていた行為は素晴らしいと思ったわよ。フラフレちゃんの天然な直感は本当にすごいと思うわ」
「ぐうううううう!! またフラフレさんだけ褒め称えられて……ずるいですわ。私だっていずれきっと……」
ミーリは悔しそうな表情をしながら私をジロリと睨む。
しかしそれは一瞬で、ミーリが初めて私に素早く頭を下げてきた。
そしてすぐに元の位置に戻る。
「フラフレさん……。先ほどの件は謝りますわ。でも、どうやったら愛することができるかわかりません。自然っていうのであれば、花なら大好きですが……」
「じゃあ、花畑に行こうよ」
「この国にもあるのです!?」
「うん。そこでも一度遊んできたから」
「はい?」
農園とは別に、枯れかけていた花畑に出向いたことがある。
どろんこ遊びとまではいかなかったが、花畑の土たちとの交流も楽しかったのだ。
今は綺麗な花が咲くようになっていて、花見をしにいく人も多くなったのだとか。
「ふふ、フラフレちゃんが見事に花も咲かせていたわね。まったく、あいかわらず規格外な聖女だこと」
「私は規格外のフラフレさんよりもより強くならなければいけないのです! 絶対に負けませんから!」
「あなたはそうムキにならないの。欲望むき出しの状態で聖なる力が強くなれるとも思えないわ。フラフレちゃんのように、自然を愛して楽しむことに専念しなさい」
「うぅ……。じゃあまたあのどろんこ遊びを……」
「それも手ね」
「ぐげ……」
ミーリはどろんこ遊びがそんなに嫌なのかなぁ。
アクアもどろんこ遊びはしたがらなかったし。
王女や上位貴族ってこういったことはしないのかな。
こんなに楽しいのに……。