89話 フラフレはミーリと仲良くなりたい
「この農園で楽しく遊んでいたら、野菜もすぐに育ってくれるみたいなんだぁ」
「すぐ?」
「うん。毎日収穫しているよ」
「そんなにすぐに……。これも聖なる力ですか?」
「んーーー……。そこはわからない」
悪天候を晴れさせることは自信を持って聖なる力だと言うことができる。
しかし、いまだに野菜がすぐ育つことに関してはなぜなのかがわからない。
私が遊んでいると、ただそうなっているとしか言えないのだ。
「まぁ……、私も野菜は大好きですし、フラフレさんの育てた野菜が異常に美味しかった記憶はありますからね。もしも私も同じような野菜を聖なる力で作ることができるのでしたら……」
「お、やる気になってきたねー」
「おまけで野菜のためにもなるなれば、やる気は上がります」
「じゃあ、一緒にここで遊ぼっか」
「げ……!? は……はい……」
私はいつものように土でちっちゃい山を作ってみたり、城を作ってみたり楽しむ。
いっぽう、ミーリは楽しんでいるというよりも、どことなく義務のような感じでどろんこ遊びをしているように見えてしまった。
どうやったら心の底から楽しんでもらえるようになれるかなぁと考えてみたが、思いつかない。
「こんなことで、私の聖なる力は強くなったのでしょうか……」
「んー、すぐに強くなれるのかなぁ」
「フラフレさんはどうだったのです?」
「私は意識したことなかったからなぁ……。ハーベスト王国にいたときも毎日土と遊ぶことしかしてこなかったし」
「あぁ……、地下牢に幽閉されていたとき、そのようなことばかりしていたのですね」
「うん。それしかやることなかったし」
思い返してみれば、地下牢生活でも監視の目を盗んで土と毎日遊んでいた。
野菜も育ってくれていたし、土がなかったら餓死していたに違いない。
土には感謝しているし、私の大事な生命線でもあり友達だ。
地下牢でお世話になった土たちは、今も元気にしているのだろうか。
「私も地下牢に幽閉されれば、フラフレさんみたいな力を得られるのでしょうか」
「それは違うと思う……。でも、そんなに必死なんだね」
「当たりまえです! 国のためなどとは言っていますが、負けたくないんです。意地でもあなたを超えたいのですよ!」
「そんなにムキにならなくても……」
ミーリの真剣な顔を見て、ふと思った。
私はそもそもミーリに勝っているだなんて思っていない。
彼女は金髪のサラサラな髪に赤い瞳が綺麗でとても可愛い。
聖なる力だってどっちがすごいとかじゃないと思うんだけどなぁ。
「貴族として、しかも私は王家の血を引く令嬢なのですから、あなたには負けるわけにはいかないんですよ」
「そうかなぁ。ミーリのほうが頑張っているし、勝負で言うなら私のほうが負けていると思うんだけど」
「え? そうなのですか?」
「うん。私は毎日楽しく過ごしているだけだし、国のためとかっていう意識はそんなにないんだよね。もちろん、みんなが元気になってくれたり良い国になってくれたりしたら嬉しいけど」
「きーーーーーーーーーーっ!!」
ミーリがまたしても悔しそうな表情を浮かべる。
私はまた彼女の怒らせる部分に触れてしまったのだろうか。
「なんにも考えていない平民に私が負けているのですね……!」
「え?」
なんでそうなっちゃうのだろう。
けれどこれ以上はなにも言わないでおく。
ミーリは怒りながらもさっきよりも一生懸命にどろんこ遊びと向き合おうとしていた。
きっと、ミーリは誰よりも強くいたいんだなぁと思った。
ただ、ひとつだけ気になることはある。
頑張ったから力を得たとか、必死になってどうにかしたとか、聖なる力ってそういったものとは違うような気がする。
元聖女のミラーシャさんも、当時の苦労話などは聞かなかったし、マイペースに聖女活動をしていたと言っていた。
私も聖女活動をするというよりも、毎日を楽しんでいる。
私の実体験で教えているとはいえ、いささか疑問なところもあるのだ。
聖なる力をあげる絶対の保証はないことは何度もミーリに伝えている。
だからこそ、あまり気負いせずにミーリには楽しんでもらいたい。
「明日もやりますわ……」
「んー……。あっ! そうだ!!」
私は、ミーリがどうやったら楽しんでもらえるかを今一度考え、彼女が今まで発言したことから、ひらめくことができた。
「なんですの?」
「明日は、野菜の収穫やってみない?」
「そんな庶民がするようなことを高貴な私が……?」
「採れたての野菜をかじったら最高だよ」
「うぅ……、採れたての野菜……。分かりましたわ」
よし、うまくいった。
ミーリが困惑しながらもスンナリと納得してくれた。
どろんこ遊びは嫌々でも、野菜のためならば良いらしい。
本当にミーリは野菜が大好きなんだなぁと伝わってくるようだった。
♢
翌日、ミーリと一緒に野菜の収穫をするために早朝から農園に集合した。
ミーリは農園一面に育った野菜を見て驚いている。
「本当にひと晩で野菜が……。昨日は土だけでしたのに」
「野菜のはっぱとか芯を植えておいたからね。今日も大豊作だぁ」
「はぁ!? はっぱだけで……!?」
当時、アクアたちもこのことに驚いていた気がする。
私が読んだ本にも、野菜は種から育てると記載されていたし、例外なんだと思う。
だからこそ、ミーリは期待するような表情を浮かべていたのかもしれない。
「こんなことが私にもできるようになったら、どれだけ幸せなことでしょう」
「フォ……陛下から許可はもらっているから、収穫の前に採れたての野菜一緒に食べようよ」
私はミーリの手を引っ張って、農園に入っていく。
出来立てのトマトを手に取り、それをかじった。
「甘くておいしいよ。ミーリも好きな野菜食べてみて」
「じゃあ、遠慮なくいただきますわ」
ミーリも私と同じくトマトを手に取り、そのまま口の中へと頬張る。
彼女が見せた笑顔は、今までの刺々しいものではなく、幸せそのものを表しているかのようであった。
「おいしいですわ……。やはりこの味よ。これを私はずっと求めていたのですわ!」
ミーリは追加でもう一個トマトを手に取り、綺麗にムシャムシャと食べるのだった。
高貴な令嬢だと本人は何度も主張していたが、今のミーリが本来の人柄なんだと思う。
おいしいものを食べているときのミーリの表情は本当に可愛いし、良い顔をしていた。
「私、決めましたわ! 聖なる力を強くできるうえに、こんなにおいしい野菜を育てることもできるなら、どんなことだってやってみせますわ!」
「じゃあもっとどろんこ遊びを一緒に楽しもっ!」
「わかりましたわ!」
ミーリのやる気がみなぎっているようだ。
それから三日間、毎日一緒にどろんこ遊びをしてようやくミーリも少しだけ笑顔を浮かべていた。
私も一緒にできて楽しいし嬉しいし、仲間ができたような気分だったのだ。
しかし、事件は起きた。
ミラーシャさんが遠方から帰ってきて、王宮に挨拶に来たのである。
そこで衝撃的事実を聞かされることになるのであった。
久しぶりの新作投稿です。(ゆるーく書きました)
『転生社畜聖女は前世の記憶とチート魔力を駆使して破産寸前の隣国を再建します 〜『キミは命の恩人だ』と、女に興味がなかった王太子がグイグイ口説いてくるのですが、跪かないでくれませんか?〜』
転生ものですが、ジャンルを異世界恋愛にするかハイファンにするかで悩みました。
今回は執筆の休憩に書いた作品のため、かなり自由に書いている作品でノープロットのまま展開が進んでいくシステムですが、もしもご興味あればよろしくお願いいたします。





