84話 フラフレは手伝いたい
「本日もお疲れさまでした」
「私だけ毎日楽しんでいて良いのかなぁ?」
「と、言いますと?」
いつもと変わらず農園で遊ばせてもらっている。
聖なる力が加わって野菜を迅速に育てることができるのだと、なんとなくそんな気がしてきた。
だが私自身はそういう意識は特になく、農園で土や虫と楽しく過ごせている楽しい時間だと思っている。
いっぽう、王都では川の工事が始まり、フォルスト様や王宮に仕えている人たちもそちらに時間を費やしているのだ。
つまり、私だけが楽しんでいるような状況である。
「私も王都に川を流す工事のお手伝いをしたいなって。みんな頑張っているのに私だけ呑気にはしゃいでいたら、申しわけないなって思う」
「ふふふ……。その心配は無用です」
アクアが片手を口にあてながらクスクスと笑みを浮かべた。
私が見当違いなことを言ったかのような素振りに見えるのだが……。
「フラフレ様は王宮や近隣の農園で楽しんでもらいながら、立派な野菜を育ててもらっています。要は、川の工事をしている人たちの原動力を生み出しているのですよ」
「ん? んんん?」
「簡単に言えば、フラフレ様は気がついていないかもしれませんが、どろんこ遊びで野菜を育ててくださることによって、川の工事に協力しているのです」
「へ? 私は楽しく遊んでいるだけだよ?」
「それがフラフレ様の素晴らしいところです。このまま楽しんでどろんこ遊びをしてくだされば」
よくわからないけれど、なんかしらの形で私も貢献できているならいっか。
「それに、フラフレ様は肝心なことをお忘れでは?」
「え?」
「今回のために今まで貯めてきた金貨を提供したではありませんか」
あれは川の工事のためというよりも、別の目的があったのだ。
「んー、実はフォルスト様が喜んでくれると思ったから渡したんだよ」
「誰でもできるようなことではありませんからね」
こんなに都合良く扱われてしまって良いのだろうか。
もう一度アクアの顔を伺ってみたが、私が気にするようなことではないと訴えてきている。
「フラフレ様はいままでどおりの行動で充分な貢献ですよ?」
アクアがここまで言ってくれるのだから、このまま遠慮なく楽しませてもらおう。
だが、フォルスト様たちがやっている仕事にも興味はある。
なにしろ、今まで何年もの間地下牢生活だった。
今までなにもできなかった分、色々なことに興味が出てしまうのだ。
「もしかして、陛下たちのやっていることが気になってフラフレ様もやってみたい……とお考えですか?」
「なんでわかるの!?」
「フラフレ様の専属メイドですからね。なにを考えているのか、なにがしたいのかは理解できるように心がけています。まだまだわからないことのほうが多いですけれどね」
「行ってお手伝いしても良いのかな?」
「フラフレ様はさっきまで農園ではしゃぎ回っていたでしょう」
「むしろ元気になったー!」
どろんこ遊びのあとはお風呂に入るという習慣もあるし、肉体的な疲れもそこで一気に吹き飛ぶ。
日が暮れるまではまだまだ時間はあるし、せっかくだから川の工事も手伝いたいのだ。
「お気持ちは理解しました。しかしいきなり現場に行っても困惑してしまう可能性はあるでしょう。フラフレ様の予定はしばらく今日と同じですから、陛下に許可を得たうえで二日後ということでどうですか?」
「うん、わかった。楽しみだなぁ」
「はぁ。フラフレ様の好奇心旺盛なところは本当に尊敬しますよ」
アクアはため息を吐きつつ、私の肩にそっと手を乗せてきて、褒めてくれているようだった。





