83話 フラフレは国の過去を知る(後編)
「どうでしょうか。リバーサイド王国を野放しで潰してしまえば、お父様たちの面目も立たないという理由があるとは思います。嫌な女だと思われてしまうかもしれませんが、私はお父様やお姉様たちのことを、良くは思っていませんでしたから。考えかたや国の扱いに私は不満を持っていましたので、嫌いでした」
「どこの国も一緒なんだね……」
「ハーベスト王国は異常ですがね。でも、おかげでこうやってフラフレ様と出逢うこともできましたし、結果的に国が豊かになってきたので、良かったと思っています」
どんな状況であってもアクアはリバーサイド王国を捨てなかった。
残された人たちを守るために。
アクアの気持ちは、おそらくこれで間違いはないだろう。
「アクアはリバーサイド王国が大好きなんだね」
「そうですね。たとえ苦しい生活でも、国を捨てて出ていく判断はできませんでしたし。ちょうど国を捨てていく話をしていた少し前でしょうか。今の陛下、フォルスト様たちがこの国へやってきたのは」
「ということは、アクアもフォルスト様もまだまだ小さかったころの出来事なんだね」
「そうですね。私の独断で孤児院から来たという彼らを王宮へ連れていき、勝手に保護したり食事や服を与えたりしました」
「私のときみたいだぁ」
「しかし、お父様たちはフォルスト様たちのことを利用しようと企んでいました。この国の王をあえて素人である彼らの誰かに任命し、国自体を管理して崩壊させようとしたのでしょう」
とんでもない元国王陛下だ……。
まさかじゃないが、フォルスト様は強引にリバーサイド王国の王様にさせられたのではないだろうか。
それにしては国民からの信頼はすごいものがあると思うが。
「それでフォルスト様が国王に?」
「フラフレ様もご存知でしょう。フォルスト様の予感がすぐれていることを」
「うん。孤児院にいたころから有名だったよ」
フォルスト様のジャンケンは負け知らず。
配給される料理のメニューもずばりと的中させていた。
なにか危ないと感じたときは私を守ろうとしてくれたこともある。
とは言っても、孤児院のメンバーだけが知っていたことで、偉い人たちには知られないようにしていたっけ。
「お父様はフォルスト様に対して無理難題な条件を押し付けました。それが成功すれば王の座をくれてやる……と言って」
「どんなことを?」
「まぁ……、それはまたの機会に。今回の王都に川を流すような大規模な工事と似たような命令でしたね。おそらく、お父様はフォルスト様に命じた難題を失敗して国民からの信頼もなくした状態で国王になって混乱を企んでいたことでしょう。でも……」
「成功したんだね?」
アクアはこくりと頷く。
教えてくれないのは、きっと私が怒りだしそうなことなのだろう。すでに前国王のイメージはズタボロ状態である。
こんなときでもアクアは私の心情も計算してくれているのだ。たぶん。
「さすがにお父様も驚いていましたね。おかげでフォルスト様は国民からの信頼も獲得した状態で国王の座につくことができました。お父様も完全に国を捨てようとはせず、フォルスト様に堂々と任せようという気持ちに変わったようでした。他になにか企んでいる可能性もありそうですけれど」
「すごい……。フォルスト様ってそんな経緯で国王になったんだぁ」
「それ以来、私は彼の専属メイドとして支えようと決意しました。王女をしているよりも、これから偉大な活躍する人のお世話をする日々……。私にとって生きがいだと思うようになりました」
「じゃあ、私もなにか偉大なことをしないと……。毎日農園でどろんこ遊びしているだけじゃダメじゃん」
色々と教えてもらい、アクアのことがさらに大好きになった。
フォルスト様やアクアに対して、頭が上がらないほど感謝しているし、お礼をしたいとずっと思っている。
だが、もっともっと喜んでもらいたい、楽しい毎日になってもらいたい。
そう思って言ったのだが……。
「いえ、フラフレ様はすでに偉大なので……。時々ヒヤッとすることはありますが、フラフレ様のお世話は楽しいですよ」
「そっかぁ。ありがとう。でも、もっともっとアクアが生きがいって思ってくれるように頑張る」
「ふふ……。フラフレ様は本当に限度なく頑張ろうとしますね」
リバーサイド王国の過去のことは私にはよくわからなかった。
だが、アクアがいたからこそ今のフォルスト様や私があって、孤児院のみんなもこの国で平和に過ごせるようになったことは間違いないと思う。
アクアのことを王女様だという意識を、私は持つことはできないかもしれない。
それだけアクアと仲良くなりすぎているため、今さら感覚を変えることは難しいのだ。
ただ、アクアがもっともっと満足できるような毎日にできたらなぁと思うようになった。
だから、私はもっともっと国のことも考えて生きていこうと思うようになったのだ。
で……。
国のためにって、なにをしたら良いのか全くわからないままだった。





