80話 フラフレは孤児院にいたころの記憶をハッキリと思い出す
今回は普段よりちょっと長めです。
そして後書きに、どろんこ聖女に関してのお知らせがあります。
しばらくすると、十五人くらいだろうか。全員が私と同い年くらいの人たちがやってきた。
ガッシリとした体格のリーダー格そうな男性が、まず片膝を地面立てて挨拶する。
「お久しぶりでございます。フォルスト陛下」
「良く来てくれた、ガイハル。ここでも普段どおりに喋ってくれて構わない。兵や護衛たちには、私の大事な友人だとしっかり伝えている」
「良いのか?」
「私たちの仲ではないか。かしこまらなくともよい」
フォルスト様がニコリと微笑みながらガイハルと呼んだ男に対してそう告げる。
ガイハルは周りの兵たちを確認するように視線を動かしていた。
やがて立ち上がり硬かった表情が崩れる。
「ならば遠慮なく。フォルストから依頼してくるなんて驚いたぜ。しかも大規模な仕事だからな。しっかりとやらせてもらう」
「うむ。そなたらには王都に川を流すための工事だけでなく、その人員募集までお願いしてしまっているが……」
「問題ない。むしろ、フォルストは適材適所をしっかりとわかっているじゃないか。民間人への交渉は俺たちのほうが得意だ」
「さすがガイハルだ。ところで、私の横にいる者を覚えているか?」
「もちろんだ。ごぶさたしております。アクア王女様!」
ガイハルは、なぜか私を見ながらアクアの名前を呼んで再び膝を立てた。
「あ……あの、私フラフレと言います」
「へ!? フォルストの横にいるから、てっきりアクア王女様だと勘違いを……! 申しわけない!!」
「アクア王女って……?」
「俺たちを救ってくださった恩人でもあるアクア第三王女のことです。かれこれ十年以上会っていなかったとはいえ、間違えてしまい恥ずかしい……」
アクアという名前はこの国に何人いたとしてもおかしくはない。
しかし、私には普段メイドとしてお世話してもらっているアクアのことなのではないかと思ってしまう。
つい、アクアのほうに視線を向けてしまった。
つられてガイハルもアクアを見る。
アクアは頬を掻きながらやれやれといった、どこか諦めているような感じだった。
「ア……アクア王女……様!?」
「お久しぶりですねガイハルさん。皆さんも元気そうでなによりです」
アクアが少々戸惑ったような表情を浮かべていたものの、すぐに微笑みながら挨拶をした。
そっか。
アクアってずっと王宮で使用人をやっているようなことを言っていたから、みんなはアクアのことを王女様って呼ぶのだろう。
でも、だいさんおうじょ?
だいさん?
考えれば考えるほど頭の中がパニックになりそうだから、あまり気にしないことにしよう。
アクアはアクアだし王女と呼ばれていようがアクアである。
それよりも、可愛くて大人びた雰囲気のアクアのことを私だと間違われたことは、ちょっと嬉しかった。
「ガイハルよ、私の横に立っているのはフラフレと言って、孤児院で先に連れ去られてしまった子だよ」
ガイハルが驚きながらも私をじっと見る。
そして、納得したかのように首を縦に二度振った。
「なるほど。たしかにそんな面影もなくはない。とは言っても、俺のことは覚えてねーだろうけど」
「ごめんなさい……。お兄ちゃん……いえ、フォルスト様のことですら、本人から言われないと思い出せなかったくらいで……」
「おまえ当時はまだ小さかったもんな。覚えているほうが怖いわ。と言っても、俺は孤児院にいたころ全員に威張って威張りんぼうって呼ばれて目立っていたんだがな」
威張りんぼうというフレーズを聞き、今まで記憶から消えていたものが一気に溢れるように思い出してしまった。
「あぁぁぁぁああああ思い出したーっ!!」
「そうか。あのときは――」
「フォルスト様と一緒に食べようとしていたパンを横取りした人だぁ!!」
「そのことは謝る……」
「私とフォルスト様が一緒にいたときに、いっつも邪魔ばっかりしてきた人だぁ……」
「本当にすまない」
「私が大事にしていた雑草を奪った人だぁ!!」
「さすがにそれは覚えていない」
「むしろ色々と思い出させてくれてありがとう。孤児院にいたころの記憶がいっぱい出てきたよ」
威張りんぼうのことも、他のみんなのこともどうして今まで忘れていたのだろうかと思うくらい、たくさん思い出せた。
彼も昔はなかなかの存在ではあったが、今こうして元気にしている。フォルスト様とも温厚な関係を築いているみたいだし、全く気にしない。
小さかったころは怒ったり泣かされたりもしたが、今となっては良い思い出だ。
そのこともしっかりと威張りんぼうことガイハルに話した。
すると、ガイハルはため息を吐きながら呆れているようだった。
「許してくれることには感謝したい。フラフレにだけずっと謝れずだったからな……。ところで、フォルストの隣にいれるということは、無事に救ってもらえたのだな」
「うん。フォルスト様が拾ってくれて助かったの」
今こうしてリバーサイド王国にいられるのは、フォルスト様のおかげである。
彼には返せないほどの恩があるし、それ以上に大好きなのだ。
私は言葉にはしなかったが、顔に出てしまっていたのだろう。
ガイハルたち孤児院にいたみんなは、私とフォルスト様の今の関係をすぐに察してしまったようだ。
みんなニヤニヤと微笑んでいる。
「こほん、ガイハルよ。ここ最近晴れるようになり、作物の流通も良くなってきているだろう。すべてフラフレのおかげだ」
「フラフレが? どういうことだ?」
「もうじきおおやけに公開することになるが、彼女は聖女だったのだよ。雨が降り続いていたこの地を変化させ、さらに野菜にも力を与えてくれている」
「言われてみれば最近の野菜はどれもうめーんだよな。街中じゃあ野菜はすぐに売り切れになっちまうくらいの人気になっている」
「孤児院でフラフレだけ国に連れ去られてしまっただろう。あれもフラフレの力に目をつけたものだったのだと最近知った」
「フォルストのことだ。たとえフラフレが聖女様だとしても隣に置いている理由は別にあんだろ?」
「ぐ!! それを今ここで言うでないっ!!」
フォルスト様は顔を真っ赤にしながら熱くなって怒っていた。
うんうん、孤児院のみんなは王族も関係ないんだよね。
みんなで仲良くなんでも喋ることができる仲なのだから。
「ところで本題だが、いくつか問題がある」
「ほう。申してみよ。全てにおいて対策をたてたい。それだけ今回の工事は重要なのだからな」
「まず、すでに人員は確保できた。想定以上の人数が協力してくれる。予定よりも早く完成させることができるだろう」
「さすがだ。ここにきてくれた皆が頑張ってくれたのだな」
ガイハルたち孤児院のみんなは顔を合わせながらやってやったぜと言ったような表情を浮かべていた。
しかし、ガイハルはフォルスト様に対して再び真顔になり説明をする。
「だが、予算に問題がある。金貨と野菜を出しつつ、不足分は後日支払うと言っても、これではまだ足りないんだ」
「……どれほど足りないのだ?」
「金貨で換算して三千枚ほどだ」
「ぐ……。これは想定外だ……。あと千枚ならばなんとか用意できるのだが……」
あぁ、どうやら二千枚ほど金貨が足りないらしい。
フォルスト様が深刻な表情を浮かべていることから察すると、このままでは工事ができないのかもしれない。
二千枚か……。
私はこの場の空気を読まず、ニヤニヤとしてしまった。
「フォルスト様。私が飾っている金貨、使ってください」
「な!? なにを言っている!?」
フォルスト様は、信じられないような驚きの表情で私に顔を向けてきた。
いつも読んでいただきありがとうございます。
好評だったおかげで、本作品は双葉社様にてコミカライズが決定しました。
詳細など、公開可能になり次第順次、後書きやSNSにて報告します。
ブックマーク、評価応援や書店等でのご購入含め、皆様本当にほんとうにありがとうございます!!
今後もどんどん更新していきたいと思います。





