78話【フォルストSide】フォルストの過去編 後編
「これ食べられそう?」
「そのキノコはやめたほうがいい気がする。こっちのキノコなら大丈夫だと思う」
「うん、わかった」
森の中には食べられそうなものがたくさん眠っていた。
おまけに小さいながらも湧き水まであり、僕たちはここでおなかいっぱい食べた。
孤児院にいたころよりも満腹である。
「すごい。まるで予感君は王様みたいだよぉ」
「予感君の言うとおりにしていれば本当に生きていけそうな気がしてきた」
「ちっ。調子に乗りやがって。だが、こんなに食えたのは……初めてだ……。感謝はしてやるよ」
威張りんぼう含めて、みんなが喜んでくれているようだった。
今まではどうでもいいような予感ばかり言い続けていたが、初めてみんなのためになるようなことができて嬉しかった。
今後もみんなの役にたてて、喜ぶ顔が見たいと思うようになったのである。
「ねぇ、予感君にちゃんとした名前作ってさぁ、私たちの王様になってもらお!?」
「へ? 名前?」
「うん。それで、王様に私たちにも名前を作ってもらうの。孤児院では勝手にそういうことするのダメだったけど、今ならいいじゃん」
「うむ……。しかし、私はどのような名前を」
名前の作りかたなど無知である。
もしかしたら一生その名前になるのかもしれないから、しっかり考えなければな。
「フォルスト……。お前、フォルストで良いんじゃね?」
「フォルスト?」
「この森から俺たちが協力してお前がボスになるんだ。この森をイメージしてみたんだが、まぁ気にくわねーならまた考えるが」
「いや、フォルストで良いよ。すごく良い。ありがとう! 威張りん……、いや、ちょっと待て」
「別に威張りんぼうでもかまわねーが」
威張りんぼうが僕に対してカッコいい名前を作ってくれたんだ。
いつまでもこんな名前で呼ぶわけにはいかないだろう。
「ガイハル……でどうだ?」
「威張りんぼうガイハルか……」
「いや、威張りんぼうとは呼ばない」
「悪くわねーな。今日から俺はガイハル……か。ガイハル、ガイハル……。良い!」
初めて人に名前をつけた。
妹に対してはそう言ったほうが呼びやすかっただけで名前とは言えない。
もう少し早ければ彼女にも名前をつけることができたのかもしれなかったが……。
今はここにいる全員に名前をつけることにした。
みんな楽しみにしているようだし。
こうして全員の名前が決まったことで、僕たちは名前で呼び合うようになった。
森を抜け、ひたすらと何十日もかけて歩き続けた。
道中、何度も諦めたり絶望になったりすることもあったが、全員で協力して、頑張ったのだ。
そして……。
「皆のもの! あれは街ではないか!?」
ハーベスト王国の王都とは違うような造りだが、間違いなく人がいそうな家がたくさん建っている。
みんなヘトヘトではあったが、ついに希望が出たと思うと、ふたたび元気になった。
「「「「「フォルストありがとう!!」」」」」
「私のおかげではない。皆で協力し励まし合ったからここまで来れたのだ。特に、ガイハルには水や食料をたくさん持たせてしまいすまなかった」
「問題ねぇ。一番力があるのは俺なんだからな。それにフォルストの予感がなければ絶対にココへは来れなかったんだ。やはりお前のおかげだ」
安心するのはまだ早い。
もしかしたら、この街でも僕たちの居場所がなく、孤児院のような場所に放り込まれてしまう可能性だってある。
だが、たとえどのような状況であっても諦めることなどない。
僕たちは厚い絆で結ばれているのだから。
街へ向かって歩いていると、煌びやかな馬車がこちらへ向かってくるのが見えた。
あれは間違いなく偉い人が乗るような馬車に違いない。
あまり偉い人が相手だとまた変なところへ連れて行かれるかもしれないという恐怖がある。
それは僕だけでなく全員そう思っていた。
すぐに馬車が通れるように両脇に逸れて見送った。
しかし、馬車は僕たちの前で止まる。
そして中から出てきたのは同い年くらいの女の子だ。
黒っぽい長めの髪で、服装も偉い人が着そうなものだが、どこか着崩しているような気がする。
「このようなところでなにをしているのでしょう?」
明らかに偉いと思われる女の子から声をかけられ、全員がオドオドとしていた。
僕が先陣をとって挨拶するしかない。
「はじめまして。私たちはハーベスト王国王都の孤児院から廃棄処分された者たちです。このメンバーの代表をしているフォルストと申します」
「ご丁寧にどうも。私はリバーサイド王国第三王女、アクア=リバーサイドと申します」
「お、王女様!?」
「ふふ……。形だけですわ。自由気ままに好き勝手生きている不良王女ですので」
僕たちはいつの間にかリバーサイド王国へ来てしまったらしい。
アクアと名乗った王女様は、僕たちがイメージしている偉い人とはまるで違った。
威厳はありそうだが、威張ることもなく優しそうな雰囲気を持っていて、不思議と僕たちの緊張もほぐれていくようだったのである。
「まさか歩いてきたのです?」
「廃棄処分で捨てられてしまったのでね……」
「……わかりました。ここでしばらくお待ちになってください。すぐに全員が乗れるよう馬車の手配をいたしますので」
「私たちをどこへ連れていくおつもりですか?」
「おなかが空いているのでしょう? 王宮へご案内しますわ」
「良いのですか!?」
「自由にしている王女ですのでこれくらいのことは。ただし、そんなに裕福な国ではありませんので、大したものは出せませんが……。それでも空腹はしのげるでしょう。それに、お風呂も入りなさい」
「ありがとうございます!」
リバーサイド王国はなんて優しい国なのだろう。
もしくはアクアだけがそうなのだろうか。
ともかく、僕たちはこれで本当に助かるかもしれない。
もしも助かったら、僕はこの国に誠心誠意恩返しがしたい。
そう思っていた。





