77話【フォルストSide】フォルストの過去編 前編
妹が国の者たちによって連れ去られてしまった。
僕は、あの子といつの日か再会できることだけを願うことにした。
せめて、妹が毎日両手で祈っていた行動だけは真似しておく。
なんとなくだが、これを僕もやっていればいつの日か妹と会うことができるのではないかと思ったからだ。
「全員、廃棄処分だ。馬に乗れ」
「「「「「へ?」」」」」
突然兵士のような男たちが一斉に僕たちを捕まえて無理やり馬車に乗せようとした。
僕は抵抗した。
「妹と同じところへ連れていってくれるの?」
「妹? 誰だそれは?」
「この前連れ去られた僕よりもちょっと背が低い女の子!」
「あぁ。あいつか。どういうわけか陛下がひどく気に入られていてな。次期国王のジャルパル王太子の婚約候補にしたいとまで言っている。孤児院のゴミ相手になにを考えてんだか俺たちにはわからんが」
「けけけけけ結婚!? そんな!」
「心配するな。おまえたちは廃棄処分と言っただろう。もう大人になることも叶わない哀れなガキどもだ」
兵士にガシッと捕まれ、僕はそのまま馬車の中へ放り投げられた。
子供の力では大人に勝てるわけもなく、抵抗することもむなしくされるがままだった。
僕は妹のことだけが心配で心配で、どうしたら良いのか馬車に揺られながらずっと考えた。
妹が王子の婚約相手になるような存在である以上、最低でも僕たちのように雑に扱われることはないと思う。
だとしたら、僕のやるべきことはただ一つだ。
絶対に妹を探して、連れさらうことだ。
生きていれば必ずなんとかなる。
そう思っていたのだが、王都が見えなくなるくらいまで離れた位置で急に馬車が止まる。
荷台に乗っていた僕たちは、強制的に下ろされたのだ。
「じゃあな」
「え。こんなところで? 食べ物は? 飲み物は?」
「廃棄処分だと言っただろ。お前らは捨てられたんだ。生きていきたかったらその辺の土でも食ってろ。言っておくが、王都には検問所がある。戻ってきたとしても入る許可はないから無駄なことはするなよ」
冷たくあしらわれ、馬車はそのまま行ってしまった。
孤児院のみんなは大泣きをしながら途方に暮れていた。
このままでは妹を助け出す以前に、孤児院の仲間全員で共倒れになってしまう。
「諦めないで! 僕たちは助かるんだ! みんなで協力して!」
僕にはなんとなくそうなる予感がしていた。
ここにいる十五人揃って協力すれば、なんとかなるのではないかと。
だって、今までだってみんなで協力してきた仲間なのだから。
けれど、すでにみんな絶望状態になっている。
僕が声をかけたところで誰も聞いてくれることなどない。
ただ一人を除いて。
「年下のおまえが威張ってんじゃねーよ! 俺たちは廃棄処分されたんだ。つまり、捨てられたってことなんだよ。お子様にはわかんねーのか?」
孤児院のなかで一番年上で体格も大きいため、いつも威張っている男。通称威張りんぼう。
僕と妹で仲良くしているとき、いつもイチャモンばかりつけてきたため、当然仲も悪い。
だが、今はそんなことを言っている場合ではない。
威張りんぼうを黙らせるためにはどうしたらいいのか考えてみた。
そして……。
「大人しくしたまえ。皆が協力すれば……、希望を捨てなければ必ず助かるであろう」
偉い人の口調を真似する行為。
僕は偉くもないし弱いしなにもできない。
だが、この状況では誰かが先陣をとってまとめ上げなければならないだろう。
威張りんぼうのようにしてはダメだろうし、ここは僕が勇気を出してやってみることにした。
「いきなり偉そうな言いかたしてなんになる? 状況を考えろ。と言っても考えるほどの頭もないか」
「ある。僕、いや、私の予感では向こうの方面に向かっていけば、きっと助け舟があると思う」
「……それは本当だろうな?」
僕の予感は孤児院の中でもそこそこ有名だった。
とは言っても、支給されるごはんのメニューを当てたり、翌日の天気を当てたりする程度のことではある。
だが、それだけでもこのメンバーからは『予感』と言えばそこそこの信頼はあった。
それは威張りんぼうも黙らせることすら可能だったとは気が付かなかったが。
「私はそう思う。そのような予感がするのだ。だから、皆で協力して向かえばきっと助かる。そう予感している」
今まで大泣きしたり絶望でへたり込んでいた仲間も顔をあげ、僕に視線が集まった。
「ねぇ……。わたしおなかがすいたよぉ……。なにか食べたい」
「ん? この先に森が見えるだろう。その中になにか食べられそうなものがある気がする。ひとまず皆で森へ向かわないか?」
「「「「「うん」」」」」
「威張りんぼうも構わぬか?」
「変な名前で呼ぶんじゃねーよ! ちっ……。シャクだが今回だけはいうこと聞いてやるよ」
みんなの意見がまとまったことで、ひとまず森へ向かった。





