76話 フラフレはご褒美だらけの提案を受ける
フォルスト様は、王都に川を流すための計画を始める前に、私にいくつか確認をしてきた。
まず、今後は私が聖女だということを国民に公表して良いかどうかである。
「フラフレの身が危険になる可能性が上がってしまう。こればかりは私個人の気持ちとしては絶対に避けたかった。だが……」
「それ以上言わなくても大丈夫ですよ。前にフォルスト様たちが私を守ってくれたので心配していません」
「それはもちろんそうだしずっと守るが」
「あの大悪党から守ってくれたのですよ! 私の大事な金貨を奪おうとしたあの非情な大悪党から……!!」
いまだに顔を思い出すだけでムカッときてしまう。
部屋に飾ってあった金貨をよくも……よくも……!!
「ちょっと待て。ジャルパル殿のことを怒っていたのではないのか?」
「へ? ジャルパル陛下は別にどうでも良いというか……。フォルスト様がやっつけてくれたじゃないですか」
「それはそうだが……。いや、精神的ダメージを与えたのはジャル……いや、なんでもない」
「んん?」
フォルスト様はなにか言いたそうな顔をしているが、なぜかそのまま黙ってしまった。
あの事件で一番ショックだったのは、部屋に飾っていた金貨をぐちゃぐちゃに荒らした悪党たちである。
ジャルパル陛下も気持ち悪かったけれど、最終的にはフォルスト様がやっつけてくれた。
実害としては大悪党の三人だ。
フォルスト様たちのおかげでちゃんと捕まえてくれたし金貨も戻ってきたが、あの人たちだけは許さない。
とはいえ平和になったのだし、思い出して頭にくるのはこれで最後にするとしよう。
今は新しいことに向かっていくようにしたい。
「話を戻しますが、リバーサイド王国は平和な国だと思っていますし、いつも危険は付き纏っているものだと思っていますから」
「強いのだな。だが、必ず私が守ろう。そのためにもなるべく私から離れるでないぞ」
「はいっ!!」
やったーーー!
むしろ危険というよりもご褒美な気がしてしまう。
フォルスト様と一緒にいられる時間が増えるなら万々歳だ。
「二つ目は、野菜でしたっけ?」
「あぁ……。非常に情けない話ではあるが、フラフレが王宮で育ててくれた野菜に関しては、しばらくの間は報酬を待ってもらいたい。川の工事に資金がどうしても必要になってしまう」
「全然構いませんよ。むしろ、金貨はもういらないと言っているじゃないですか」
「いや、落ち着けばまとめて渡す。今回の計画はそれだけ期待していると言っても良い。むしろ、王都が活気付く気がしてならないのだ」
だったら、なお良しだ。
私としても、今回の計画がうまくいけばメリットが多い。
雨を降らせなくて良いということは、どろんこ遊びができなくなる日が減るということである。
今日は雨を降らせてしまっているため、どろんこ遊びができない。
すっかりどろんこ生活に溶け込んでしまった今、これができないのはなかなかのストレスなのだ。
「三つ目は、王宮の農園を拡張するんでしたっけ?」
「本当にすまないと思っている。だが、この計画にはフラフレの野菜がさらに必要になってくるのだ。だから、裏庭の農園を広くし、より野菜を収穫してもらうことに協力を……」
「むしろありがとうございますっ!!」
「はい?」
「広くなるということは、それだけ楽しく遊べるわけですし。さっきから聞いている感じだと、どの確認事項も私にとって全部ご褒美みたいなものです!」
私は目をギラギラ輝かせながらフォルスト様を見つめる。
計画が実行できるかもしれない。
私にご褒美がたくさん待っている。
もはや良いことしかない!
「ひとつ目の危険になる可能性までご褒美だと?」
「フォルスト様と一緒にいられるのでしょう?」
「別に危険が迫ってなくとも一緒にいたいが」
「うぅ……。後出しはずるいです。でも、他の二つの提案も捨てがたいのでこの際構いません。川作っちゃいましょー」
「あぁ……。そこまでフラフレが協力的になってくれるならば実行できる。ありがとう」
「こちらこそありがとうございます!」
フォルスト様は、私がお礼を言っている意図がわかっていないような顔をしていた。
なんとなく言いだしたことだったけれど、まさかこんなにワクワクしてご褒美だらけの計画になるなんて思いもしなかった。
私は、どろんこ遊びの他にも楽しみができて、より充実した毎日になりそうだとしか思っていなかったのである。
「最後の問題は、協力してもらうための人をどれだけ集められるかだが、これは私が責任を持ってなんとかしよう。今回はアイツらにも声をかけるか……」
「あいつら?」
「フラフレも覚えていれば知っている人物だよ。孤児院にいた仲間だ」
「おぉぉぉおおおっ!!」
でも、実のところフォルスト様以外の人たちってほとんど関わりがなかったからあまり覚えていない……。
一緒の場所で育ったから仲間意識はあったのだが、それも私が小さかったころの話だ。
見れば思い出せるかもしれないが、ただでさえフォルスト様のことすら言われるまで気がつかなかった。
再会したときに失礼のないようにはしたい。
むしろ、みんなと会えるかもしれないというワクワク感がどうしようもなく抑えきれないでいた。





