75話【Side】ミーリのプライド(24/07/08修正)
ハーベスト王国にて。
雨が降り続く日々。
しかし、それでも体力の限界まで奮闘する聖女がいた。
己の意地とプライドのため、毎日死に物狂いで頑張っているのである。
「ミーリ様、もうお止めください! そんなに力を使いすぎては命も危ういですわ!」
「おだまりなさい! 私とマリとモナカの三人で協力しても雨が止まないなんて、あんな民間人聖女に負けて情けないし悔しいのです! それよりモナカは大丈夫なのですか?」
「まだ疲労で倒れたままですわ。今自宅で休養を……」
「マリも休みなさい! もう限界でしょう」
ミーリたち聖女も、ついに現実を知った。
フラフレが真の聖女であり、今までハーベスト王国ではフラフレの力があったから雨を止めていたことを。
最初はマリとモナカはピンときていなかったが、ミーリは違った。
リバーサイド王国でフラフレを目撃し、彼女が楽しそうにしている姿を見た。
そして、雨ばかり降り続くと噂されていたリバーサイド王国で、雲ひとつない晴れ間が続いていたことを実際に体験してきたからだ。
「はぁ……はぁ……もう一度、祈りますわよ」
「本当にお止めください! 今日だけで四度も祈っているのですよ! これ以上は本当に死んでしまいますわ!」
「悔しいではありませんか! 三人がかりで一斉に本気で祈っても、ほんの少しの間しか王都の雨を止めることしかできなかったのですよ。太陽すら顔を見せてくれないだなんて……」
今までミーリは自分が一番力のある聖女だと確信していた。
だが、現実は違った。
自分より身分の低いフラフレが絶大な力を持った聖女だということを知り、悔しかったのである。
ミーリはヘトヘトになりながら、大粒の涙を溢していた。
「これが現実なのですね……。こうなったら、しばらく出ていきますわ」
「え? ミーリ様。出るとは?」
「この国を出ていくのです! リバーサイド王国へ行ってきますわ」
「な!? いけません。今のミーリ様は次期女王聖女候補として期待されていますのよ」
「今はその名前で呼ばないで」
今のミーリにとって、聖女という言葉はタブーのようなものだった。
聖女としての力がフラフレと比べて劣っていて、なにが聖女なのだと、自分自身が許せないでいたのである。
「勘違いしないでください。私はリバーサイド王国へ行って……修行してくるだけなので」
「修行……?」
「どうやって莫大な力を手に入れたのかをフラフレに聞いて、私も同じことをするのです」
「おぉ……」
「民間人でもとんでもない力を手に入れてるのですから、王家の血が流れている私が真剣に訓練をすれば、フラフレなんかよりも強い力を手に入れることだってできるはずですわ!」
「ならばわたくしとモナカも一緒に」
ミーリは首を横に振った。
「国王になったお父様が許してくれませんわ。それに、何人かは国に残しておかないとならないでしょうし」
「しかし……このままでは国の雨を止めることなど」
「私がいたって意味がないでしょう。今の気候に今の聖女の力では無意味。それだったら、悔しいですがフラフレに教わって、あいつを超えた力を手に入れて、聖女として活躍できれば良いのです。く……」
悔しがりながら歯を喰いしばっているミーリ。
だが、現実を知れたことによって希望の光も見えてきていた。
あとはフラフレが快く教えてくれるかどうかが、今のミーリにとっての不安要素ではある。
フラフレの廃棄処分をしたときに放ったミーリの言葉が、まるで自分自身に返ってきている、そのような気持ちになっていたのだ。
「聖なる力を増強させる方法があることは古代本で読んだことがあります。しかし、方法までは不明で記述されていませんでしたわね」
「フラフレが知っているのでしょう! 大丈夫ですよ、私が帰ってきたら二人にも鍛えてもらいますから。それで今度こそ私たち貴族聖女だけで国を変えてやりましょう!」
ミーリなりにハーベスト王国のことは気に入っている。
国を良くしたい気持ちはあるのだ。
父親バルメルとは違い、純粋に。
だが現状では彼女たちの力では無理だとわかった。
だからこそミーリは、今まで憎んできたフラフレに教わるという、彼女にとって最大の屈辱の選択をするしかなかったのである。
「お父様には、『聖女の力を上げるための訓練方法が分かったから遠乗りしにいく』と、リバーサイド王国へ行くことは伏せておきますので、あなたたちは私がどこへ行ったのか知らないフリをしていてくださいね」
「どうしてですか?」
「……今のお父様はどうしても信用できないのですわ。伯父様……ジャルパル元陛下の件もありましたし」
失態を犯したジャルパルは国王の座を降ろされ、その弟バルメルが国王に無理やりついた。これには貴族界隈からも民衆からも非難があって当然だった。
しかし、バルメルは半ば強引に国王の座につき、迅速に民衆が喜びそうな政策をした。
その結果、民衆はバルメル新国王に期待し、ミーリに対しても次期女王としての期待が膨らんだのだ。
全てはバルメルがこうなることを予測して準備万全だったがためにできた所業である。
「ジャルパル元国王陛下には不満もありましたわ。ですが、バルメル陛下になってからわたくしたち聖女活動の報酬を上げてくれましたよね」
「それもおかしな話ですわ。ただでさえジャルパル元陛下に頼んで今までの二倍の報酬になっていた。なんの成果も出ていないのに、さらに報酬が上がるだなんて複雑です」
意外にもミーリは聖女活動になると真面目である。
自信に満ち溢れていたころは、フラフレと対等な対価に納得ができなかった。
だが今は、フラフレと比べたら力がまるで足りないことを知っている。
そのうえでフラフレよりも遥かに高い報酬を受け取ること自体、聖女としてのプライドが許さなかったのだ。
「別にマリとモナカが上がった報酬を受け取るのに文句はありませんわ。そのかわり、私が帰ってきたら大変な訓練が待っているということも覚悟しておいてもらいますので」
「はい! わたくしはミーリ様にどこまでもついていく覚悟はできていますから」
「……帰ってくるとき、マリたちにはおいしいうえに聖なる力をフルに発揮できるようになる野菜をお土産で買ってきますわ」
ミーリは一瞬だけ微笑み、リバーサイド王国へ向かう準備を始めた。
今回はバルメルに行き先を告げることができない。
ただでさえひと騒動があった直後である。
その元凶となっているリバーサイド王国へ向かうことを、バルメルは許してくれないと考えていた。
だが、それでもミーリはリバーサイド王国へ向かう。
ミーリの聖女としてのプライドを取り戻して、今度こそ国を救うために。





