【WEB版外伝】フラフレのクッキー作り(前編)
リアル世界の明日がバレンタインデーなので、バレンタインデーに関連したエピソードを外伝という形で導入しました。
今日と明日、2話に分け外伝でお送りします。
水不足解消のため、雨を降るように祈っていて外は雨。
どろんこ遊びはお休みである。
どろんこ遊びひと筋な私は、なにもすることがない。
金貨の飾り付けの配置を少し変えてみようか。
それとも、どろんこの代わりに野菜を持ってきて、野菜たちをなでなでしようか。
もしくは、たまには違うことをしてみようか。
今日は、どういうわけかそんな気分だった。
アクアがノックをしてから部屋に入ってきた。
私はベッドからむくりと起き上がり、挨拶をする。
「おはようございますフラフレ様。今日はぐっすりでしたね」
「おはよう。うん、特にやることもなかったから、たまにはだらだらしてみようかなって」
「なるほど……。つまり、フラフレ様は今日のご予定はなにもないのですね」
「うん。でも、どうしてかわからないけれど、今日だけはなにか特別なことをしてみたいなぁって思うような気もするんだぁ」
「不思議ですね。どういうわけか私も同感です。一緒になにかしてみますか?」
「いいの!?」
アクアはニコリと微笑みながら首を縦に振った。
「フラフレ様。こういうのはどうでしょうか。普段の陛下の食事は王宮内の料理人に任せております。今日だけはフラフレ様が作られてみては」
「私が、料理?」
「本来国王の交際相手ともなれば、厨房に立つことなどありえません。ですが、どういうわけか今日だけはそれでも良いような気がしてしまいまして」
「うん、やってみようかな」
「食事に関してはすでに料理人がレシピを考えているでしょう。というわけで、おやつを作ってみませんか? たとえば、チョコレートとか」
「ちょこれえと? なにそれ?」
新しい言葉が出てきた。
相変わらず私は世間知らずの無知だが、わからないことはどんどんアクアに聞いて覚えるようにしている。
「あぁ……。カカオという植物と甘味物を混ぜ合わせて作った甘いお菓子です」
「すぐできるの?」
「……今日中には仕上げるのは困難ですね。こういうことは当日に仕上げるべきですから……。クッキーはどうでしょうか」
「やってみるー」
クッキーは、時々フォルスト様のおやつタイムで一緒に食べたことがある。
甘くてサクサクしていて、とってもおいしい。
フォルスト様もクッキーは大好物のようで、食べているときは幸せそうな笑みを浮かべている。
「私、料理自体初めてなんだけど、作れるかなぁ」
「大丈夫です。しっかりサポートしますので」
「あれ、結局私メインみたいになってない?」
「そんなことはございません。フラフレ様が作ったクッキーを陛下……こほん。とにかく行きましょう。その前に朝ごはんですね」
「うんー。なんだかやることが決まったらお腹すいちゃった」
「くれぐれも、陛下にはクッキー作りの件は言わないよう、お願いします」
「え、なんで?」
「絶対ダメです!」
「う、うん。わかった」
アクアがすごく怖い顔になったため、これは冗談抜きで言ってはダメなやつだ。
口を滑らせないように気をつけようと思いつつ、食堂へ向かった。
♢
朝ごはんも食べ終わり、いよいよクッキー作りである。
厨房へ来るのは初めてで、色々な道具を見て興味がわく。
「それでは、まず手洗いをしましょう」
「はい」
「しっかりと手を綺麗にしたら、いよいよ開始です。フラフレ様が食事の最中に、材料は全て揃えましたので、まずはここに用意されているものを混ぜてください」
用意周到だ。
まるで、今日クッキー作りすることが決まっていたかのようである。
私は、言われたとおりにここにある材料全てをひとつの容器に入れ、混ぜはじめる。
とにかく混ぜる。
なんだか楽しい。
「これ、どろんこ遊びみたいだねー」
「どろんこと甘味物やタマゴを一緒にしないでください……」
「う、うん。でも、楽しいー」
「それは良かったです」
混ぜていくうちに、だんだんと固くなってきた。
もしかして、なにかマズいことでもしてしまったんじゃないかと、アクアの顔色をうかがう。
「良い感じですね。ここからがフラフレ様の腕の見せどころですよ」
「どうすれば良いの?」
「引きちぎって、好きな形に整えてみてください。普段フラフレ様がどろんこ遊びでやっているように、土でなにかを作るような感じです」
「おぉー! クッキー作りって私の天職かもしれないなぁ」
「残念ながら、クッキー作りは今回で最後かと思いますので、期待はしないでください」
「そんなぁ……」
せめて、心残りがないように、夢中になって色々な形を作ってみた。
フォルスト様と一緒に食べていたクッキーの形を思い出してそれっぽく。





