71話 フラフレはひらめく
「フラフレ様、朝ごはんの時間です」
「ふがぁ〜!? ごはんー! ……あれ?」
昨日の夜、私は雨が降るように聖なる力を放った。
普段よりも部屋が薄暗く、久しぶりに雨の音が聞こえてきた。
窓際から確認してみたが、どうやら祈りは成功したらしい。
それにしては、私自身がいつもどおり元気な状態なのである。
聖なる力を発動して雨が降ったはずなのだが。自分自身の身体をもう一度確認した。
「どうされましたか? まるでご自身がなにものか分からないような表情をされていますが……」
「フラフレです」
「正解です」
「最近のアクアは本性出してきているよね」
「はい、陛下に無理やり頼み込みまして、許可を得ました」
「ん?」
アクアがドヤッとしながら私の顔のそばまで顔を近づけてきた。
前々からアクアは時々大胆だなぁとは思っていたけれど、一層激しくなったような気がする。
「先日、フラフレ様の身に危険が迫るほどの大騒動がありましたからね。やはり、フラフレ様の専属メイドとして、より親密に深く関わり、お守りしたほうが良いと考えまして」
「うん、ありがとー」
「主従関係は厳守させていただきますが、私も本性をあらわにしていこうかと思いますので。まぁすでに何度か本能のまま行動はしてきましたが」
「そっか。良かったよ」
「え?」
アクアが不思議そうな目で私を見てきた。
彼女にとっては意外だったようだが、私にとってはむしろ嬉しかった。
「アクアってどこか遠慮していることが多かったじゃん? いつも私のお世話してくれるから嬉しいんだけど、どうやったらもっと仲良くしてくれるかなぁってずっと考えていたんだ」
「フラフレ様……」
「これからもよろしくね」
「ありがとうございます!」
アクアが涙目になりそうになっていた。
私の両手をギュッと握り締めながら、満面の笑みを浮かべている。
対等な仲良しになるということは、今後はアクアから怒られることも多いかもしれない。
そうなる前に、今のうちにお願いだけはをしておこう。
「金貨の装飾だけは文句言わないでね」
「……先に言われてしまってはなにも言い返せませんね。まぁこの部屋だけでしたら良いでしょう」
「じゃあ廊下は?」
「ダメです! 絶対に!!」
「本性のアクア、厳しいよぉ……」
アクアが、あちゃーといったような表情でおでこに手をあてている。
しかし、どんなに呆れられようが、私にとって金貨とはキラキラ光っていて綺麗なものとしか思っていないのだ。
「そもそも、前にも言いましたが、本来金貨の使い方は飾るためのものではありません。なにかをしてもらったり、いただいたりするときに対価としてお渡しするものですから」
「うーん……。その割には農園でどろんこ遊びさせてもらっているのに、金貨をもらってばかりで不公平な気がするんだけど」
「それでいいのです。フラフレ様は遊んでいるようでも、そのおかげで農園の方々は感謝しているのですから。そのお礼に金貨を戴いているのですよ」
「仕組みがむずかしいー」
このままでは分からないままで終わってしまいそうな気がする。
アクアに散々言われ、金貨を使ってなにかしてみたいと初めて思うようになった。
しかし、欲しいものなんてないし、やりたいことは全て叶っている。
そのうえでなにを願えば良いのやら……あ。
「昨日フォルスト様から聞いたんだけど、昔ってリバーサイド王国に川が流れていたんだよね?」
「えぇ。私が生まれる前のことなので直接見たわけではありませんが。歴史書にはそのように記述されています。いつの日か突然、毎日のように雨が降るようになったと。川の増水を避けるために全員で協力して、川の軌道を変えたそうです。そのため現在は王都を遮るように川が流れています」
アクアの説明がところどころ難しい。
なるべく理解できるように頑張って聞いてみた。
だが……。うん、どうやっても分からなかったことが多いから、聞きたいことだけ聞いておこう。
「川の流れを変えたのって人でしょ?」
「もちろんそうでしょう」
「そのときって願いを叶えてもらうために金貨とかを渡してやってもらったのかなぁ?」
「おそらくは。先代の陛下もしくは国の機関から民間人などに依頼をして、工事に取り掛かったかとは思いますが」
「ふむふむ。つまり、金貨があればそういうこともできるんだね?」
「フラフレ様? なにか企んでいるような顔をしていますが……」
「へっへー。まだ秘密」
もしかしたら、雨が降るように祈らなくて済むかもしれない、などという希望が出てきた。
私はそう考えたらニヤニヤが止まらなかったのだ。
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