表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】追放聖女のどろんこ農園生活 〜いつのまにか隣国を救ってしまいました〜  作者: よどら文鳥


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

70/127

70話 フラフレは普段と逆の祈りを頼まれる

「フラフレに一つ頼みたいことがある」

「ふぁい! あ……」


 口の中でモグモグしているものを飲み込んでから、もう一度返事をした。


「なんでしょうか?」

「ふ……。すっかりと食事マナーも克服したな」

「はい。フォルスト様が毎回教えてくれたおかげです」

「『様』……か」


 フォルスト様からは、いい加減に呼び捨てにしてほしいと頼まれたが、私はよくドジをしてしまう。

 もしも公の場で呼び捨てで呼んでしまったら、かなりの問題になるだろう。

 普段から慣れておいたほうがいいだろうし、フォルスト様にもそこは妥協してもらっている。


「まぁ良いか。本題だが……、明日から数日間、祈りをやめてあえて雨を降らせてもらえないだろうか?」

「んーーーー……」

「な、なにか問題があるか?」

「あ、いえ。祈らないのは構わないのですが、どうしてなのかなぁと思ったので」


 農作物を育てる上では雨の恵みも必要である。

 ただ現状ではもう少しの間、太陽に照らしてもらっていたほうがいいんじゃないかと、私は思っていた。


「フラフレも王都にある農園を回ってもらったことで、この街のことは概ね把握してくれたか?」

「そうですね。ここの王宮を中心として、まぁるい街なんだなぁって思いました」

「ほかになにか気がついたことはないか? たとえばハーベスト王国にはあったがこの国にはないものとか……」

「んーーーー、ハーベスト王国がどんな街なのかわからなくて……」

「すまない。地下牢生活だったな」


 馬車で王宮から王都の外へ出ていくときも吐き気があったし呑気に景色を堪能する余裕などなかったからなぁ……。

 それでも、一つだけ気になったことはある。


「そういえば、石に囲まれた穴ぼこみたいなものがない気がします」

「穴ぼこ……」

「水を入れるための、落とし穴みたいなやつです」

「落とし穴……」


 名前なんだったっけ。

 地下牢の隅にもそれがあって、そこに水を溜めていた。


「水が入っているやつで……」

「井戸というのだよ」

「へぇーーーー。井戸は色々な場所にあるようなことを聞いたことがありましたけど、リバーサイド王国にはないんですか?」

「そうなのだよ。今まで雨しか降らなかったような国だから水を溜めるための施設は必要なくてね」

「つまり、雨も頻繁に降らなければすぐに水不足になってしまうということですか?」

「そういうことだ。今までは必要以上に水が溜まりすぎていたから問題はなかったのだが、この国にとっては、そろそろ水が必要な時期に入ってきている」


 大変だ。

 水がなければ人も動物も植物も土も生きていけない。

 だが、井戸がないのは今後問題になってくるような気がする。


 今雨を降らせることは簡単だが、土や農作物にとっては雨水を与えるのはまだ早い。

 もう少し太陽の光が必要な時期なのだから。

 どっちも大事だし、なんとかしたい。


「井戸ってどうやって作るんですか?」

「本来ならば川の周りに穴を掘り、伏流水を溜めるのだよ」

「ふくりゅうすい……」


 フォルスト様に聞こえないように、小声で自分に言い聞かせておき、名前だけ覚えておいた。

 あとで書庫で意味を調べよう。


「王都から離れたところに大きな川があるのだが……」


 アクアから聞いたことがある。

 このあたりの大昔は聖女の力がなくとも人が住みやすい気候だった。

 そのころは川が王都をまたぐように流れていて、その水を使って農作物を育てて飲料水としても使っていたそうだ。


 だが、雨が降り続くようになってから、王都に住む人が協力して、川が流れ込んでこないようにするために大規模な防波堤を作って王都を避けるような川にしたのだという。

 そのおかげで毎日雨が降っても浸水するようなことはなくなり、水浸し王都にならずに済んだ。

 連日の雨により、川がなくとも水には全く困らなくなったという。


 つまり、私の聖なる力によって、今度は水不足で困ってしまうのだろう。

 さすがにそれくらいのことなら、私にもなんとなくはわかる。


「うーーーーん……」

「先に言っておくが、フラフレが落ち込む必要は全くない」


 フォルスト様は超能力でも持っているのかよと思ってしまうくらい、今私の心情をズバリと当ててきた。


「なんでわかったんですか?」

「私の恋人だからだよ。前以上によく観察しているから、フラフレがどう考えているかくらいはわかる」

「ひょえぇ……」


 どうしよう……。

 私はフォルスト様のことをそこまでよくわかっていない。

 今後、フォルスト様のことをもっと観察しなければと思ってしまった。


 じーーーーーーーーーーーーーっ。


「なにか?」

「どうしよう……。フォルスト様がなに考えてるかわかんない……。私のことは分かってくれるのに」

「むしろそんなに見つめられると照れてしまうし心臓が……」

「うーん……。でも、フォルスト様を見ていたら、なんだか元気が出てきました」

「うぐ、それはずるい発言だ……。私の心臓が耐えられるよう努力しよう……」


 元気になったところで、今後の聖なる力の使いかたを考えなければ。

 だが、どちらかしか選べないとなると、これはかなり難しい問題とも言える。


「フラフレの聖なる力や農園の協力には本当に感謝している。ただ、良い方向にいったからこそ解決しなければならない問題に直面したというところだ」

「わかりました。すぐには対策が閃かないので、ひとまずは明日から数日間、雨が降るように調整してみます」

「ありがとう」


 さて、どうしようか。

 私が晴れるように祈っている以上、数日間は聖なる力が反映されていて本来の雨の気候にはできない。


 だが、普段と逆の祈りをすればすぐに雨を降らすことも可能だ。

 ただし、この行為は体力を異常に消耗する。

 ハーベスト王国の地下牢生活のころ、急に雨を降らせろと命じられて仕方なく雨が降るよう祈ったときは、死ぬかと思うくらいに体力が一気に奪われた。


 もちろん、そんなことをフォルスト様に言ってしまえば心配されるに決まっている。

 だから、今回は黙ってそっと雨が降るよう祈ることにした。


 寝る前に祈ることにしよう。

 そのまま気絶してしまっても、誰にもバレることはないだろう。

 寝相が悪かったなどと言っておけばアクアも納得するはずだ。


『どうか、リバーサイド王国に雨雲を呼び、雨が降ってくれますように』


 窓越しから空に向かって祈る。

 すると、……なにも変化がなかった。

 主に私の身体が。


 失敗したのかな……。

 起きてみて晴れていたら、もう一度祈るしかないか。

ついに、本作どろんこ聖女が、明日本屋さんに並びますー!

作者本人がめちゃくちゃ楽しみにしています。

明日も更新します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
★書籍版公式ページはこちら!! 書籍、電子書籍と共に2月10日発売予定!

追放聖女のどろんこ農園生活 ~いつのまにか隣国を救ってしまいました~
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ