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7話 フラフレはご馳走をいただく

「こ……これを全部ですか!?」

「もちろんだ。遠慮せず食べてくれたまえ」


 どう見ても一週間分の食べ物だ。


 あたたかいスープなんて夢物語だった。

 丁寧に切られて盛りつけられた野菜サラダは、今まで生食いしかしてこなかった私にとって宝石を見ているかのような見た目。

 パンから湯気が出ていて、『今焼き上げました』という状態を物語っている。


 これだけでも何日分の食事だろう。

 しかも、スープとサラダとパンでは終わらない。


 これが噂で聞いた米か。

 ずいぶんと水分を含んでベチャベチャになっているが、米の上には一緒に食べるらしい美味しそうな物体も乗っかっている。


「この黄色いものも食べられるものですか?」

「それは玉子がゆだ。主治医がフラフレ殿は相当な栄養失調だと言っていた。だから、今回は身体に負荷をかけないようなものを選ばせて作ってもらったのだが……」

「そこまで気遣ってくださるなんて……。ありがとうございます!」

「礼を言われるほどのことでもあるまい。食べたまえ」

「いただきます」


 一口ずつ、ゆっくりと口にほおばる。

(美味しすぎる……。こんなにあたたかくて美味しいもの、食べたことない!)


 私は今までどおり手づかみで食べていたのだが、こちらを見ていたフォルスト陛下がコホンと咳払いをする。


「フラフレ殿……、そこにフォークとナイフ、それからスプーンがあるであろう」

「この刃物みたいなもので食べるのですか?」

「……? そうだが、今までどうやって食事を摂ってきたのだ?」

「えぇと、基本的にはガブリと噛みついて……。あ、泥まみれになっていたらもちろん一度汚れを手で払ってからですが……。ただ、この米は手づかみすると火傷しそうですよね。どうやって食べれば……」

「知らぬということか。こうやって食べるものなのだ」


 フォルスト陛下は、慣れた手つきでフォークやナイフを使いこなす。

 フォークの先っちょが口の中に入っていくのを見て、怪我をしないか心配だった。

 だが、当然のように食べているため、私もフォークを使ってみることにした。


「こうですか?」

「持ち方に少々難はあるが、手づかみより良い。ほら、手を拭きたまえ」


 フォルスト陛下はハンカチを私に手渡してくれた。


「こんなに綺麗なハンカチを使ってしまったら汚れてしまいますよ……」

「おかしなことを言うのだな。気にせず使うが良い」

「はい……」


 私の手の汚れの全てがハンカチで包まれていくような心地だった。


「ありがとうございます。しっかりと洗ってからお返しいたします」

「いや、そこまで気にせずとも良いのだ」

「こんな至れり尽くせり……。どうして私などに国王陛下ともあろうお方がここまで優しくしてくださるのか……」

「……人が困っていたら助けるのは当然のことだろう。無論、誰でも助けるというわけではないのだがな」


 ジャルパル陛下と比べてしまうのは申し訳ないと思うが、あのお方は国務で常に忙しいと主張していた。

 国王陛下って責任が重くて忙しい、ものすごく大変な仕事だと思っている。


 だが、フォルスト陛下はそのような素振りを全く見せず、まるで私に寄り添ってくれているかのような物腰の柔らかさは丁寧で威圧感がない。

 だからこそ、ここで食事をさせていただいてもあまり緊張しないでいられる。


 慣れない手つきで初めて見る食器を使い、全ての料理をいただいた。


「ごちそうさまでした」

「ものすごい食欲だったな」

「ありがとうございます。おかげさまで三日は生き延びられそうです」


 こんなにお腹が満たされたのは生まれて初めてだ。

 何とも言えない幸福感と満腹感で、身も心も満たされている。


 そんなとき、フォルスト陛下はとんでもないことを言った。


「なにを言っている……? 明日の朝食も用意するから食べるのだ」

「へ!?」

「考えてみれば言っていなかったな。フラフレ殿の体力が回復するまでは、王宮にてゆっくり休んでもらいたい」


 なんて優しい王様なのだろうか……。


「良いのですか!?」

「そのかわり、元気になってもらう」

「う……うっ……ありがとうございましゅ……」


 私は、嬉しさのあまり涙が止まらなかった。

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