リバーサイド王国VSジャルパル(後編)
やっぱり私になにかしてきたことを言わななければダメだったのかもしれない。
しかも、最終的にはジャルパル陛下のことを誉めてしまった。
どうしよう……。
ひとまずフォルスト様に謝らないと。
「フォルスト様……申し訳ありません。私、ジャルパル陛下のことって実はよく知らなくて……」
「い、いや、もう分かったから、これ以上はなにも言わないであげてくれ」
「はぁ……。フラフレ様が無知故の遠慮のない恐ろしいまでの暴露でしたね。鳥肌がたちました」
どういうわけかフォルスト様とアクアが私の発言を止めようとしてきた。
なにかリバーサイド王国側にまずいことを言ってしまったのかもしれない。
だが……。
「ジャルパル陛下よ、今の発言が本当だとしたら、職権乱用で大問題ですぞ!」
「御者たちも事実であればタダでは済まないぞ!」
「だが、あの者が本当にあのフラフレなのか? 追放時、あのような天使みたいな表情をしていなかったが。見た目もまるで違う」
再びジャルパル陛下の周りにいる護衛たちがどよめく。
ジャルパル陛下は下を向いたまま黙秘を貫いていた。
もしくはなにかを考えているのだろうか。
「フォルスト国王よ、やはり彼女はフラフレではないのだろう? これは事前に私をハメるための罠に違いない」
「そこまで疑うのなら、こちらとしても決定的な証拠をお見せするしかありませんな。先ほど捕らえた者たちをここへ連れてきたまえ」
「なっ?」
ジャルパル陛下は、ついに滝のような汗を流しながらガタガタと震えていた。
そしてすぐにロープで縛られた三人が玉座の間に現れ、護衛たちからもどよめきがおこる。
「ジャルパル陛下! なぜあの者たちが捕まっているのですか? ジャルパル陛下が今回のために雇った諜報員でしょう」
「すこし黙っていたまえ」
「ほう、この者たちは諜報員なのか。フラフレの部屋で散らばっていた金貨を盗もうとしていたため捕らえたのだが。貴国の諜報員は窃盗までするのか?」
「…………」
ついにジャルパル陛下は驚いた様子で固まってしまった。
やがて。
「確かに我が国の諜報員だ。あたりまえだがそのような命令はしていない。この国で廃棄処分してくれたまえ」
「ほう? では処刑となるわけだが……」
「当然のことだ」
捕らえられている男たちが慌てふためいた表情をしていた。
フォルスト様が捕らえられた三人に向きなおる。
「では死刑囚たちよ。最後に言い残すことはあるか?」
「これは罠だ! ちくしょー、お前らハメやがったな!」
「ほう、どう言う意味かね? 申してみよ」
フォルスト様がそう言うと、ジャルパル陛下が焦りだした。
「死刑囚の言葉に耳を傾けることもあるまい」
「聞いて困ることもないでしょう。それとも、ジャルパル殿にとっては困ることなのですか?」
ふたたびジャルパルは押し黙る。
「俺たちはそこの国王様に雇われただけだ。俺たちが邪魔になったから捕らえるための罠にはめたんだろ」
「今思えばおかしな話だ。部屋に大量の金貨が散らばっていたんだからな」
「両国で協力して俺たちを処刑するつもりか!」
フォルスト様は不思議そうな表情をしながら黙りこむと、やがて口を開く。
「興味深い話だ。つまりそなたらは、国がふたつ協力してでも捕らえなければならないほどの極悪人か。此度はどのような依頼内容だった?」
「罪人フラフレを誘拐してこいと命じられた」
「金貨二十枚と今までの俺たちの悪事をもみ消してくれるって条件で引き受けたんだ」
「それなのに、金貨を撒き散らして窃盗犯として捕らえるなんてキタねー奴らだ!」
あ、それに関しては誤解がある。
フォルスト様のことまで悪く言われたら黙っていられない。
「部屋の金貨は私が飾っていただけなんですけど……」
「なんだって? じゃああの金貨は偽物だったのか!」
アクアは呆れたように額に手をやった。
「残念ながら本物ですよ……。だからあれだけフラフレ様には金貨を飾らないでくださいと注意してきたではありませんか」
「だって綺麗なんだもん……」
「ちくしょー。呆れてものも言えねぇよ。処刑なりなんなり好きにしてくれ」
フォルスト様は再びジャルパル陛下に視線を戻す。
ジャルパル陛下はすでに放心状態だった。
「ジャルパル殿よ、なにか反論はありますかな?」
それを聞いてジャルパル陛下の護衛たちは一斉に騒ぎはじめる。
「ジャルパル陛下! 今のは本当の話ですか?」
「国王が極悪人を雇うなど前代未聞ですぞ!」
「今までの話が嘘だとしたら、フラフレは本物の聖女だったのですか?」
「最近の悪天候はジャルパル陛下が招いたことなのでは?」
「極悪人を雇う金があるなら、私たちの給料をあげてくださいよ」
ジャルパル陛下は両手をあげて護衛たちを黙らせた。
そして……。
「フラフレよ……、金貨を飾るでない……」
抜け落ちたような声で私に物申してきた。
もちろん聞き入れるつもりはない。
また飾るつもりだから。
「この極悪人たちも連れ帰らねば、貴国の都合がつかぬだろう。連れて帰るがよい」
「良いのですか?」
「そのかわり条件がひとつある。フラフレが本物の聖女であり今までもハーベスト王国で聖なる力で貢献していたことと、ジャルパル殿の悪事を公表するように。その条件をのむのなら後日野菜の取引に応じよう」
「承知しました。必ずや」
あれ、もう終わりなのかな。
このままじゃ結局野菜を持って帰ることができないのではないだろうか。
「ちょっと待ってください、フォルスト様」
「どうした?」
「今のハーベスト王国って食べ物に困っているんですよね? お腹が減って倒れる辛さはすごくよくわかるんです。少しだけでも食料を分けてはダメですか?」
「やれやれ……、フラフレの優しさには恐れ入るよ」
フォルスト様はにこりを微笑んでから護衛たちに視線を向けた。
「今回に限り、取引ではなく支援だ。今日王宮で収穫される野菜分は全て持っていきたまえ。帰りの食料には困ることがないだろう。もうじき今日の分が収穫される」
「あ、ありがとうございます。しかし本当によろしいのでしょうか?」
「かまわぬ。フラフレ立っての希望だからな」
「では、せめて我々に収穫作業を手伝わさせてください」
「あ、私もやりますー。でもこの格好じゃダメですよね。オメシカエしてきます」
私はさっき教えてもらった言葉をさっそく使ってみた。
だが、なぜかアクアは呆れていた。
「はぁ……公の場なのに。フラフレ様、言葉遣いが間違えていますよ。『お召し替え』とは、相手を敬う言葉ですから、自分自身には使わないのですよ」
「せっかく覚えたのに……」
使い慣れない言葉はやっぱり難しいなぁ。
フラフレ無自覚に頑張ってくれました。
ジャルパルのざまぁはまだまだ続きます。
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