フラフレは金貨を取られてガッカリする
「フラフレ様、フラフレ様!」
「ふぁい……おはよう……」
眠い。
昨日は農園で遊んでいるとき、謎のおじさんたちが私に近づいてきた。
すぐに私の周りにいた護衛たちが追い払ってくれたけど、なんだか怖かった。
そのことばかり考えていたから、昨晩はグッスリと眠れず、今も半分起きていた。
だから、アクアに対してすぐ反応できた。
外をちらりと見てみると、まだ太陽が昇り始めたばかりだ。
起こしてもらう時間が普段よりも早い。
「今日は意識がハッキリとしているようでホッとしました」
「なにかあったの?」
「はい。まさかのまさかというような事態になりました。ハーベスト王国の国王陛下が事前の連絡もなしに訪れてきたのですよ。こんなに朝早くから」
「あぁ……大変だ……」
眠気など気にしている場合ではない。
大急ぎでベッドから降りて身支度もせずにフォルスト様の元へ向かおうとした。
「陛下の予感もありますからね。フラフレ様はここから一歩も出てはいけませんよ」
「でも、緊急事態でしょ? フォルスト様を止めないと」
「……はい?」
「フォルスト様が怒りだして大喧嘩になっちゃったら大変だよ。暴走しないようにフォルスト様を止めなきゃ……」
私は焦っていたが、アクアは冷静に見える。まるでこうなることを予想していたかのように。
「フラフレ様絡みの件でいきなり訪れてきたとしたらどうするのです? もしも強硬手段で誘拐するようなことがあったら……」
「ううぅぅん……」
「なぜ悩まれているのですか?」
私は、昔ジャルパル陛下と会話していたときのある素振りを思い出した。
「もしも誘拐だとしたら、むしろフォルスト様のそばにいたほうが良いかもしれないなって」
「え?」
「ジャルパル陛下ってものすごく計画的な人だから、フォルスト様をわざと怒らせて罠にはめようとしているかもしれない」
「なおのことフラフレ様はここから出ないほうがいいでしょう。いや……、もしかするとここにいたらむしろ危険かもしれませんね……」
アクアが真剣な顔をしながら考え込んでいた。
やがて出した答えは……。
「フラフレ様、至急陛下のもとへ行きましょう!」
「いいの?」
「計画的な人であればなおのことです。陛下の足止めをしている間にフラフレ様をさらうという可能性も出てきましたからね。それに、陛下の目の前でさらうような真似はさすがにしないでしょうし」
「おおぉぉ、アクアって冴えてるね!」
「むしろ、フラフレ様の情報のおかげで判断できました。陛下からもフラフレ様を部屋に閉じ込めておくよう指示されていましたが、今回は無視します。フラフレ様の身の安全を最優先しますので!」
アクアは覚悟を決めたような顔をしていた。
フォルスト様の命令を背いてまで私を助けようとしてくれることが嬉しかった。
「ありがとうー」
「ひとまず急いでお召し替えください」
「おめしかえ?」
「あぁ……、私も焦っていますね。フラフレ様用の言葉を選べていませんでした。着替えてください」
「おめしかえ……着替えることか。覚えておくね。でも緊急なのに着替えてて良いの?」
「仮にも他国の国王が来ていますから。パジャマ姿で対談となったら陛下の顔に泥を塗るようなものですからね」
「そうなんだぁ。じゃあ急いで着替えるっ!」
大急ぎでフォルスト様の元へ向かう。
部屋を出て走り出した直後、私の部屋のほうから声が聞こえてきた。
「事前の調べでこの部屋に間違いないはず!」
「おい、いないぞ! どこかへ逃げたかもしれない!」
「こんなこと国王様に知られては俺たちの立場が……」
「せっかくの大金を逃してたまるか。絶対見つけてやる!」
これって、明らかに私を捕らえようとしてたってことだよね。
危なかった……。
あとでアクアにお礼を言っておかなきゃ。
「ちょっと待て。この部屋には金貨がたくさん落ちているぞ!」
「国王の報酬よりも多いじゃねーか! 誘拐なんかシカトしてこれ集めてトンズラするぞ!」
「「おう!」」
え。
私の大切な宝物が……。
そう思っていたら、アクアが私の手を強く引っ張ってきた。
金貨は無視しろってことなんだよねきっと……。
はぁ。せっかく綺麗に並べていたのに。
♢
「フラフレよ、危険な目にあわせてすまなかった。だが、安心してくれたまえ。フラフレの部屋に侵入した者は今ごろ捕らえられているはずだ」
「はい?」
「アクアには当初フラフレを部屋から出さないように指示した。だが、アクアが向かった少しあとで急に不安が募ってしまったのだ。大至急警備兵をフラフレの部屋に向かわせていたのだよ」
「で……でも、私の宝物が……」
金貨はもう私の手元に戻ってこないだろう。
「金貨のことか?」
「はい……。せっかく綺麗に飾っていたのに」
「何者かは知らぬが、フラフレを誘拐するつもりだった可能性が極めて高い。そのような者が目の前の金に誘惑されるようなことはない。きっと無事だろう」
「あ、陛下。そのことですが、フラフレ様の誘拐は中止して、金貨をかき集めてトンズラすると聞こえてきました」
「フラフレを誘拐しようとした奴らは無能だったか……」
フォルスト様は首を傾げている。
「ともかく、このことはまだ知らぬていでハーベスト王国の王と対談する」
「捕まえちゃったよって言わないんですか?」
「あぁ。そのほうが相手側がなにを目的かもわかるからな。フラフレもすまないが、護衛の中に紛れ込んでもらい、決して正体をバレないようにしてもらいたい。状況によっては対談に参加してもらうかもしれぬが」
「かくれんぼみたいですよね。しっかりと隠れますね!」
ここは気合いの入れどころだ。
フォルスト様たちのためにも、しっかりと隠れなきゃ。
「……フラフレ様が落ち着いていてホッとしましたよ。問題は陛下です。絶対に挑発に乗らないように」
「あぁ。フラフレが側にいてくれたら大丈夫だ」
「はひ?」
フォルスト様は私の手をぎゅーっと握った。
緊張感がない私は、こんなときでもドキドキしてしまう。
いや、むしろ護衛やアクア、フォルスト様がそばにいてくれるから常に安心していられるのかもしれない。
「では行くぞ」
玉座の間へ向かい、ジャルパル陛下たちとの対談がもうすぐ。





