【ハーベスト王国視点】ジャルパル、リバーサイド王国へ向かう
ハーベスト王国にて。
ついにフラフレを連れ戻すための準備が整い、ジャルパルはリバーサイド王国へ向かう準備が整った。
「今まで陛下の元で長年御者を続けてきましたが……。こんなに最小人数で他国へ向かうなど危険かと思います……」
「余計な経費をかけて民からこれ以上の文句を言われるわけにもいかぬからな」
本来ならば多くの馬車や護衛、フラフレを奪還するための兵士などを用意するはずである。
だが、ジャルパルは余計な経費をかけるわけにはいかないと判断し、必要最小限の準備しかしていなかった。
しかも、今回の本当の目的がフラフレを連れ帰るということは、一部の者を除き知らない。
「向こうの馬車に乗る者たちは王宮直属の配下の者ではないようですが」
「心配無用。彼らは私が表向きに公表していない諜報員たちだ」
「そうでしたか」
「さあ出発だ。一時的に晴れ間が出るかと思ったが、再び雨だ。これでは聖女たちの荷も重い。明らかな異常気候である。だが、民はそのことを知らないから今回のような怒りを買わせてしまっている。時期に異常気候が落ち着けば再び聖女たちも力を反映されるだろうが、それまでの間だけリバーサイド王国で食料を仕入れなければな」
「陛下自らが行かずとも……」
「この非常事態に国の一番偉い人間が動かずどうするのだ? 肝心なときこそ私がやらねばならぬ」
「うぅ……、ジャルパル陛下は国の誇りです! きっと評価もすぐに元どおりになるでしょう」
「うむ。わかったら向かってくれ(ふっ……。簡単に騙されおったわ)」
ジャルパルは、ミーリ達だけでは天候を変化させることが厳しいと、ようやく気がついた。
フラフレの聖なる力が偉大だったことをようやく理解したのだ。
だが、一度はジャルパルの判断でフラフレを廃棄処分して国外追放した。
このままフラフレを連れ帰るだけでは国民の信頼を更に損ねてしまう。
そのため、ジャルパルは秘策を考えていた。
(フラフレ奪還に成功したら、諜報員ということにしてある彼らの馬車に放り込んでしまおう。そのまま王宮の地下牢へ運んでもらい、フラフレは地下牢に永久に閉じ込める。無理やりにでも聖なる力を発動し続けてもらわなければな。だがバルメルやミーリたちは当然として、誰一人このことを伝えない。フラフレの力を利用し、ミーリ達が国を救っているということにしておけば今後しばらくは安泰だろう)
「先日ミーリ様を連れていったときは、リバーサイド王国では雲ひとつない晴れが続いていました。今もまだ晴れてい
るのでしょうか……」
「く……あのガリガリ女め……」
「どうかされましたか?」
「いや、なんでもない。道中ぬかるみに気をつけて進みたまえ」
ジャルパルは悔しがっていた。
前国王が孤児院からフラフレを出し抜いたのは、聖女としての力があるからだけではなかったのだ。
将来的に利用価値がありそうならば、次期国王になるジャルパルの婚約者として迎え入れ、王妃聖女として活躍してもらう予定だった。
だが、王宮に連れてきてみれば無能で無脳。
前国王とジャルパルは、フラフレには聖女としての力はあっても貴族としての嗜みがこれっぽっちもできず将来性すら見込めないと判断した。
だが一度王宮に迎え入れてしまったため、問題ごとをフラフレの責任にさせたことで地下牢生活が始まったのだ。
「く……、あのとき父上が私を止めてくだされば……」
馬車の中で過去の後悔を声に出しながら、廃棄処分直前のフラフレの姿を思い出す。
「御者よ、ひとつ聞きたい。以前リバーサイド方面に廃棄処分品を運び、適当に捨ててこいと命じたことがあろう?」
「あぁ……、フラフレとかいう税金泥棒のゴミ聖女のことですね」
「そうだ」
ジャルパルは地下牢に閉じ込めていたフラフレの悪い話ばかりを国中に広めていた。
そのためフラフレの存在は聖女ではあると認識されつつも、邪魔な存在であり無駄に経費が投入されているものだと民衆は考えるようになった。
全てはジャルパルの発言で、フラフレが悪い方向に評価が操作されたのだ。
「変な話だが、フラフレを抱きたいと思ったか?」
「ははは……御冗談を。あれほど醜い女を運ぶこと自体が大変だと思ったくらいですからね……。まさか陛下はあのような女が好みだと?」
「さすがにあの女はありえぬ。ガリガリで無知、偶然触れてしまったときも全く興味すら出てこなかったわい!」
ジャルパルは、フラフレを婚約者にしなかった判断は間違っていなかったと思うようにしていた。
見た目の成長がジャルパル好みであれば、もう少し対応は変わっていたのかもしれない。
だが、リバーサイド王国で心身ともに成長したフラフレを見て、ジャルパルが激しく後悔するのはもう少しあとのことだった。





