【ハーベスト王国視点】ミーリはジャルパルをギャフンと言わせたい
ミーリはジャルパルに野菜を奪われてしまい悔しくて仕方がなかった。
大泣きのフリをしながら公爵邸へ帰宅した。
ジャルパルにされたことが胸糞悪かったため、泣き寝入りしてバルメルから抗議してもらおうと考えていた。
「えぇぇぇえええん……お父様ぁぁぁ……」
「どうしたのだミーリよ。まさかリバーサイド王国で悪い男に狙われて……?」
「もっと酷いんですよぉぉぉ……!」
「な……まさかお前のお腹に……」
「いや、そういうことじゃなくて」
バルメルはミーリの嘘泣きを見て、ただごとではないと確信していた。
すぐにリバーサイド王国に宣戦布告して、犯人を捕らえ処刑することまで考えていたくらいだった。
「奪われちゃったんですよ……」
「なんということだ……。結婚するまでは頬にキスすら断固としてさせないよう命じていたのに……。おのれ、すぐにでもリバーサイド王国へ向かい犯人を――」
「だから、リバーサイド王国は関係ないんです! 伯父様に奪われちゃったんですよ」
「兄上だとっ? 兄上が奪ったのかっ!」
「はい……。しかも強引に」
「……なるほど、先ほど私に言えなかった急用とはそういうことだったのか……」
バルメルは、実の娘があろうことかジャルパルに犯されてしまったと思い込んでいた。
「兄上の性癖ならありえることだ……。おのれ、いくら兄上でも許せんぞ!」
「お父様、いったんその下品な発想から離れてください」
「滅多に泣かないミーリがこれほどまでに泣くくらいだ。それ以外になにがある?」
「お土産の野菜を奪われてしまったんですよぉぉぉー……」
「ヤサイ?」
今まで頭から沸騰したように怒っていたバルメルは、すぐに冷静さを取り戻した。
「だって……、お父様にお土産で買ってきた野菜を伯父様は『全部没収じゃぁぁぁああああ』って奪っていったんです」
「つまりミーリは私へのお土産を失ったことだけでそこまで泣いていたのか?」
「悔しくて……」
ミーリはバルメルに抱きつきながら嘘泣きを続ける。バルメルはミーリの頭をそっと撫でた。
これほど父親想いの娘がどこにいるのだろうかと嬉しかったのだ。
だが、バルメルはミーリに騙されているだけである。
ミーリは理不尽に野菜を奪われたこと自体は悔しかったが、泣くほどではなかったのだ。それを知らないバルメルは、怒りの矛先がジャルパルになった。全てミーリの計画どおりである。
「兄上め、もう容赦はせぬ。こうなったら……」
「なにかギャフンと言わせてくださるのですか?」
「あぁ。その件は今考えているからしばし待つのだ。ところで、リバーサイド王国では評価は得られたのか?」
「それが……」
ミーリはリバーサイド王国の状況を詳しく報告した。
それを聞いたバルメルは、聖女としての活躍の場がやはりハーベスト王国でしかできないということを改めて知る。
その上で、バルメルは自分自身が国王の座につくことを考えはじめたのだった。





