【ハーベスト王国サイド】ミーリはジャルパルに激しく恨みをもつ
「いったいどういうことですの? 私は公爵令嬢ですよ。聖女ですよ! 検問所を通過できないなんてありえませんわ」
「申し訳ありませんが、ミーリ様を待たせるようにとの命令ですので、通すわけにはいかないのです」
ミーリが帰国した。王都の検問所で警備兵によって足止めされてしまった。
渋々ミーリは馬車の中で、残った野菜をモグモグ食べながら待つ。
「もう……、せっかく久しぶりに王都全域に祈りを捧げているのに」
しばらくミーリが待っていると、彼女にとって予想しなかった相手が出迎えにきたのだった。
「ミーリよ……。話を聞きたいのだが」
「お、伯父様っ?」
ミーリにとって最も会いたくない相手だった。
帰国してからどう言い訳をするか決める予定だったため、ジャルパルに対してなんと言えば良いのかわからないからである。
「バルメルから聞いたぞ。リバーサイド王国へ旅行に行っていたそうだな」
「え、えぇ。そうですわ。最近調子が悪かったので気晴らしに……」
「ふざけているのか? ミーリがいなかったおかげで私の国民からの評価はガタ落ちだぞ」
ジャルパルは悔しそうにしながらミーリを睨む。
一方、ミーリはどう言い返せば丸く治るのかがわからず、なにも言えずに沈黙状態だった。
「すぐにでも聖なる力を発動し雨を止めてもらわねば困る」
「すでに祈ってます。もう少しすれば雨も止むかと思いますが」
「そうでなければならぬ。残念ながら勝手に国を留守にした罰として今までの二倍の給金という件も取り消しとする」
「それはあんまりですわ……。それに、リバーサイド王国の情報だって色々とありますのに……」
「ほう、では申してみよ。情報の質によって今後の給金も考える」
ジャルパルにとって、リバーサイド王国の情報などどうでもよかった。
聞く耳だけ持って結論は給金をカットすることしか考えていない。
ミーリは給金を下げられたくないために必死だった。
「良い天気が続いていて、雨が降るような国ではなくなっていました」
「ふむふむ、なるほど……」
「それに信じられないくらい美味しい野菜が販売していましたの」
「ふむふむ、それで……?」
「多分ですけど、リバーサイド王国には強力な聖女がいるのかと思いました」
「…………」
ジャルパルは、右耳から入ってきた言葉を左耳から全て流すように聞いていた。
しかし、今のひと言だけは、流せなかった。
「ありえぬよ。今まで我が国に大金を出してまで食料を仕入れに何度も来ていたではないか。ここ最近はその気配もないが」
「よくはわかりませんが、農業がとても盛んになっているようで、食料難という感じはまるでありませんでしたよ」
「ミーリよ。それは情報提供ではなく、ただの個人の感想だ」
「そんな……。他国の情報は大事だと何度も伯父様が言っていたではありませんか。それに、他の聖女たちにも私の分までフォローしてと伝えてました。それにほら、私の力のおかげで雨が止んできたではありませか」
ミーリの聖なる力は、フラフレの力が宿った野菜をたくさん毎日食べていたおかげで最高潮の状態だった。
それはフラフレの聖なる力には及ばないものの、王都の雨を一時的に止めて曇り状態にもっていくまでは十分な力が蓄えられていたのだ。
つまり、ミーリの力で王都を雨から救うのは一時的なものにすぎない。
ジャルパルは外の様子を見ながら、なにか思い当たる節がありしばらく沈黙していた。
ミーリはすでに泣きそうな状態だった。
この状況でジャルパルはさらに追い討ちをかける。
「野菜が大好きなミーリのことだ。農業が盛んだということは野菜も大量に買ってきたのだろう?」
「は、はい……。車中でほとんど食べてしまったので残りはお父様たちへのお土産用しか残りませんでしたが」
「それは私が没収する」
「そんなぁ……」
「当然の結果だ。ミーリとバルメルのおかげで私の国王としての信頼が大幅に落ちている。普段は国民の評価など気にも止めぬが今回は別だ。しっかりと聖女としての役割を考えなかった結果こうなったのだから」
すぐにジャルパルはミーリの乗っていた馬車に潜り込み、残っていた一箱の野菜を全て奪う。
「酷すぎます……」
「ならばこれから毎日この天候を維持できるように心がけよ。もしもこの状態が一ヶ月継続できれば、聖女としての給金は現状維持としよう」
「わかりました……。やりますよ。やればいいのでしょう……」
ミーリはすでにジャルパルに対して嫌気がさしていた。
ジャルパルは冷静に物事を考えつつも焦っている。
そのため、今まではミーリたちとも仲良くやってこれていたが、その余裕すらなくなっていた。
ジャルパルの評判は国民だけでなく貴族界、さらには身内からもどん底に落ちていった。
ジャルパルは、野菜を土産に、大急ぎで王宮へと戻り自室へこもる。
「私の予感が間違えていなければこの野菜はきっと……」
念のために持っている銀製の指輪で野菜に触れてから口にした。
「ふむ、これ……この味だ。今度こそ間違いない! おのれ……」
野菜を食べて、みるみるうちに疲れが吹き飛び元気になっていく感覚をジャルパルは思い出した。
そして、ミーリの報告が全て本当のことであり、ジャルパル自体が重大な過ちを犯してしまったことを確信した。
「フラフレめ……、国から逃げたいがためにわざと国外追放に対して文句を言わなかったのか……。いや、あの間抜けでバカな女が計画的行動を起こせるはずはない」
フラフレを追放してからの悪天候続き、さらに王宮の野菜を食べても元気になれないことから薄々感づいていた。
ジャルパルは、リバーサイド王国にいる強力な聖女こそがフラフレだと結論に至ったのだ。
「なんとしてでもフラフレを連れ戻し、誰にもバレないように地下牢に完全監禁し、そのまま聖なる力を使い続けさせねばならぬ。こうなったら……、少々危険だがあいつらを雇うか……」
ジャルパルは国務として、リバーサイド王国へ向かう準備を進めていった。





