フラフレは発見した
「ですよね! フォルスト陛下もそう言っているのなら、きっとこの国のどこかで……」
「あぁ。リバーサイド王国にいる」
「本当ですか! できれば会いたいなって……」
「そうだな……」
「ありがとうござ……って、へ?」
フォルスト陛下は私のことをギュッと抱きしめてきた。
なんでいきなりこのようなことをしてくるのかわからない。
だが、ものすごく良い匂いがする。
昔どこかでかいだことのあるような匂いがする。
「今まで気がつかなくてすまなかった」
「ん? んんんんんんっ?」
「お兄ちゃん、ここにいるよ」
「へ?」
「孤児院にいたころは、名前がなくて番号で呼ばれていたよな。だが、私とフラフレだけは、お互い違う言いかたで呼び合っていたよな」
「え……えっ……ええぇぇぇぇぇええっ?」
前々から幼馴染とフォルスト陛下はどこか似ているなぁと思うようなところはあった。
失礼ながらハーベスト王国出身の者がリバーサイド王国の国王になることはないだろうと勝手に思い込んでいた。失礼になるから、『孤児院にいたお兄ちゃんですか?』などと聞かずにいたのだ。
「フラフレ殿よ、昔はキミのことを『妹』と呼んでいた」
「そうです! 間違いありません! 私も孤児院のときは名前がなかったからとそう呼んでくれていて……」
「これで間違いないな。会えてよかった……」
「えぇと……、おにい……じゃなくてフォルスト陛下……?」
「今までどおりフォルストで構わない」
「うぅぅうううう……会いたかったんですよぉぉぉおおおお!」
「ずっと会っていたけどな」
ギュッと抱きしめあった。改めて幼馴染のお兄ちゃんと再会できた喜びが溢れ出る。
横でアクアがボロボロに泣いていた。
むしろ私のほうが泣きたい。
まさか今まで探していた人が目の前に身近にいたなんて……。
こんなに嬉しいことがあっていいのだろうか。
「フラフレよ!」
「ひゃひっ?」
いきなり呼び捨てで呼ばれたから驚いてしまった。だがそれどころの話ではない。
「今後、フラフレからは陛下と付けずに呼んでほしい」
「ひょえ?」
これはかなりマズい気がする。
抵抗がありすぎるのだ。
今、フォルスト陛下から呼び捨てされただけで心臓がはちきれそうなくらいになっている。頭の上から湯気が出ているような感じもする。
「公の場で間違えて陛下をつけないで呼んだら大変ですから、もうしばらくはこのままで……」
「そうか。いつかフラフレに名前だけで呼んでもらえるよう努力する」
「ひゃいっ!」
あぁ、これは本気でやばい。
長年会いたかった幼馴染だとわかった瞬間にそう呼ばれてしまったらもう……。
「フラフレ様も陛下も顔が真っ赤ですよ。私はしばらく下がってますので、あとはご自由に」
「ま、待て! まだ話が終わったわけでは……」
「久々の再会といったところでしょう? 任務よりも感動の再会をお楽しみください。では」
アクアは満足そうな笑みをこぼしながらフォルスト陛下の自室から退室してしまった。
護衛も部屋の中にはいないし、私とフォルスト陛下の二人きり。
「ところで、どうやって生き残れたのですか? 当時の陛下の話では、王都の外に捨てられたとか……」
「全員リバーサイド王国へなんとか到着できたのだよ。少々トラブルもあったがな。何十日も歩き続けたが、あれは過酷だったよ……」
「フォルスト陛下……じゃなくて、フォフォフォフォォォォぉぉっ……」
ダメだぁ。フォルストと呼び捨てを心がけてみたが、緊張して言葉に詰まる。
「フラフレよ、無理せずとも良い」
「緊張しちゃって……。フォルスト陛下の直感で進んだのですか?」
「あぁ。なんとなくだが、食べ物や水がありそうな道を選びながら進んでいた。この国で助けてもらい、皆リバーサイド王国の住人になったよ」
「よかった。本当によかった……」
先ほどからずっとぎゅっと抱きしめられている状態が続いている。
そして、さらに力強く抱きしめられながら、フォルスト陛下がとんでもないことを言いだすのだった。
「フラフレよ、私と結婚を前提として交際をしてほしい……」