フラフレはやっと孤児院だったころの話ができた
私は、しばらく心にしまっていたことを話し続けていた。
「――それで、馬車の中では気持ち悪くなっちゃったり外に放り出されたり……。でも目が覚めたらこの国で救われていて……」
私は初めて自分の辛かった過去を人に話した。
気持ちが高まってしまい、気がついたら目から涙も溢してしまった。
散々喋ってしまったが、これ以上は辛い。
「想定していた以上の話だ……」
「フラフレ様がこれほどまでの酷い扱いだったとは……」
「でも、この国で救われたので今はとっても楽しいし幸せです。フォルスト陛下やアクアには特に感謝しています」
私は涙を拭いてから微笑んだ。
さて、これから私は聞きたいことを聞こうと思ったのだが……。
「絶対に許せん! もはやなにがあろうとも救う義理もなにもない! ハーベスト王国とは国交断絶とする!」
フォルスト陛下がとんでもなく怒った顔になってしまった。
あわわわわ……。
だから私の処遇は喋りたくなかったのに……。
調子に乗ってベラベラと喋ってしまったのは私だけど。
「だが、フラフレ殿よ。約束は守る。私が誰かに命じて暗殺を仕向けたり復讐させるようなことはしない」
「それなら良いんですけど……」
「どちらにせよ、放っておいてもあの国はそう長くは保たないだろうがな……」
「はい?」
「フラフレ殿がここへ来る前のリバーサイド王国は、常に雨が降っていたことは知っているだろう。それでも知恵を振り絞り対策をしてきたからこそなんとかギリギリで生き延びることができた。だが、ハーベスト王国はそうではない。生き抜くための対策もわからないだろうし、これから地獄と化すだろう……」
「ハーベスト王国で雨が降り続いていると聞きましたが、聖女たちではどうすることもできないほど酷い状況なのですか?」
「これはあくまで私の推測だが……。フラフレ殿がいなくなったから環境が激変したのだと思う。向こうの聖女たちの力では手に負えぬほど元々の環境が悪いのだろう」
「それだけフラフレ様の聖なる力が規格外ということですね」
「えぇ……?」
「つまり、フラフレ殿の聖なる力が偉大であり重要だったことはいずれハーベスト王国の者たちも気がつくであろう……。そうなった場合、キミを連れ去るようなことをするのではないだろうかと嫌な予感がしているのだ……」
いくらなんでも、ジャルパル陛下がそんなことをするとは……うーん、ありえるかもしれない。
また地下牢に閉じ込められた生活を送るなんて絶対に嫌だ。
なによりも、リバーサイド王国で出逢ってきた人たちと強制的に別れることなんて考えたくない。
「今のフラフレ殿の話を聞いたからハッキリと断言できる。フラフレ殿を一度は捨てた国だ。今後はどこで生きていきたいか、自分自身で決める権利がある」
「私はリバーサイド王国でずっと過ごしたいです」
「そう言ってくれて嬉しい。フラフレ殿は絶対に守ろう」
「それで私に護衛をつけてくださっていたのですね……ありがとうございます」
「そういうことだ……。フラフレ殿の過去を深掘りさせてしまいすまなかった」
「むしろここまで大事にしてくれて嬉しいですよ」
「大事に決まっているだろう!」
フォルスト陛下は少し強めの口調でそう言ってきた。
「すまない。もしも今まで一緒に食事をしたり、こうやって話をしていた日々が失われてしまうと思うと、胸が張り裂けそうでな……。つい声を荒げてしまった」
「へ? そっちですか? 聖なる力でなくて……」
「国として考えたらむろん、フラフレ殿の力が重要と言うことは否定しない。だが、私個人としてはフラフレ殿がここへ来てからの日々はどれだけ楽しめたことか……」
フォルスト様の気持ちを聞けて、心にぐさっと刺さるものがあった。
ハーベスト王国では力だけを求めて地下牢に閉じ込められていたようなものだ。
私の存在意義は聖なる力だけだと思うような日々が続いていた。
だが、同じ国王でありながら、聖なる力以外のことでも私を必要としてくれた。
金貨のような綺麗な飾り物をくださるよりも、この気持ちのほうが何倍も嬉しい。
「何度も言ってしまって申し訳ないですけど、絶対にハーベスト王国に戻りたくないです……」
「大丈夫だ。フラフレ殿の自由を奪わせるような者たちの手には絶対に渡さない」
「ありがとうございます……」
私はつい、フォルスト陛下の腕にしがみついた。
国王に対して無礼だということも、最近学習した。
だが、それよりも嬉しさが優ってしまったため行動を制御できなかったのだ。
「フラフレ殿よ、先ほどの会話で気になったことがある。私からもうひとつだけ聞きたい」
「はい、なんでも答えますよ」
「孤児院にいたのか?」
「幼少期だけですが、そうですよ」
私が答えると、どういうわけかフォルスト陛下が戸惑ったような表情を浮かべていた。
もしかしたら、孤児院で廃棄処分されてしまった誰かがこの国で保護されているのかもしれない。
すぐに聞くことにしよう。
「私は当時の国王陛下に孤児院から連れ去られました。最初は孤児院よりも良い待遇だったのですが、徐々に酷くなっていって……。最終的には王宮の地下牢生活が始まったのです。私はまだマシだったのですが、孤児院で一緒だった人たちはみんな廃棄処分したと知ってしまって……」
「うむ……そうだったな」
「その中の一人は私のことをすごーく大事にしてくれていて、しかもフォルスト陛下のように勘が鋭いところがあるんです。もしかしたらどこかで生きているんじゃないかって」
フォルスト陛下は、急に微笑みだした。
私の頭の上にそっとフォルスト陛下の手が乗っかる。
この感覚がなぜか懐かしい気がした。
「あぁ、生きているよ……」
週一更新でも、お付き合いくださりましてありがとうございます!
今作の書籍作業も順調です。
なお、SNSでは発信していますが、すでに2月前半までの予約投稿まで完了しております。
週一更新ではありますが、安定した更新で進めていくので楽しみにしててくだされば幸いです。
なお、今回は先日投稿始めた作品のお知らせです。
『実家に捨てられた私は侯爵邸に拾われ、使用人としてのんびりとスローライフを満喫しています〜なお、実家はどんどん崩壊しているようです〜』
こちらは、ざまぁ要素がふんだんに入った作品です。
お時間あればこちらもぜひ、よろしくお願いいたします。





