フラフレは過去を打ち明ける
「フラフレ殿に聞きたいことがある」
「なんでも聞いてください。そんなにかしこまった表情をしなくても良いと思いますが、なにを聞こうとしているのですか?」
普段のフォルスト陛下だったら、単刀直入に聞いてくることが多い。
今日はアクアも変な雰囲気だったし、どうしちゃったんだろうか。
「ハーベスト王国では雨が降り続いているそうだ」
「あれれ……?」
「ん? どうした?」
「いえ、あの国には聖女が三人いたはずなので……」
それ以上のことは言わないでおく。
私が国外追放されたときに悪口を言われていたことをフォルスト陛下に言ってしまったら絶対に怒りだすから。
「フラフレ殿が毎日聖なる力でハーベスト王国の天候を救っていたのだろう?」
「たぶんそうなんじゃないかなぁと……」
「たぶん?」
私には実感がない。
なぜならば地下牢で生活していて、外に出たことがほとんどなかったためである。
外の環境が全くわからないまま、毎日聖なる力を使っていたのだ。
ほとんど感覚だけで晴れにして、たまに雨も降るようにしていた。
「仮定としてフラフレ殿の聖なる力でハーベスト王国を救っていたとしよう。報酬はしっかりと出ていたのか?」
「それは……」
毎日一度だけ少量の餌を提供されていましたなどとは言えないな……。
フォルスト陛下がこんなことを聞いてくるなんて。
ハーベスト王国の天候まで知っていることを考えると、誰かが旅行かなにかであの国へ行ったのかもしれないな。
そこでなにかしら情報を仕入れてしまい、私の処遇がバレてしまったのかもしれない。
「えぇと、フォルスト陛下はどうしてそのようなことを聞いてくるのでしょうか?」
「ハーベスト王国の悪い噂しか聞かないのだよ。故に今後ハーベスト王国とは交流をもたない方針にしようと考えている。だが、もしもフラフレ殿があの国で高待遇を受けていたとしたら考え直す必要がある」
「本当ですかぁぁああっ?」
「なぜこのタイミングで喜んでいるのだ……?」
交流をもたないってことは、無視するってことだろう。
だとすれば、フォルスト陛下が怒っちゃってハーベスト王国と喧嘩しないで済むかもしれない。
私が最も心配していたことがなくなるならば、今までのことを話しても大丈夫だろう。
むしろ、今の私は孤児院にいたころの話をしたかった。
もしかしたらリバーサイド王国に幼馴染が逃げ込んでいて、どこかで住んでいる可能性もあるのではないかと思っているからだ。
「フォルスト陛下は、どんなことがあっても殴り込みにいくようなことはしないと誓ってくれますか?」
「はっはっは……、さすがにこちらから喧嘩を起こすような真似はしない。むろん、国が攻め込まれたら防衛はするが」
「そうですか。たとえばですけど、アクアがどこかの国にひどい目にあわせられたとしたら……?」
「即刻、国ごと処刑する!」
「喧嘩しないって言ったばかりなのにっ!」
「ほう、フラフレ殿もアクアのようにツッこむようになってきたな。だが、国規模で酷いことをするのであればやむを得まい」
「うーん……どうしよう」
フォルスト陛下は人望をものすごく大事にしている。
多分だけど、私のこともそのうちの一人にカウントしてくれていると思う。
だから、私の状況を全部話したら危険なのだ。
今の私はとても幸せな毎日を送れている。
余計な争いはしないでほしい。
「フラフレ殿よ、言いたいことはわかった。たとえどんな話をされても絶対にハーベスト王国の者たちを直接処刑するようなことはしないと誓おう」
「間接的にでもダメですよ? たとえば部下に頼んで処刑させるとか……」
「あぁ。そもそも部下にそのような汚い仕事をさせたくない」
部下にも優しいフォルスト陛下でよかった。
どうやら、私の考えすぎだったのかもしれない。
「アクアも証人になってくれたよね?」
「はい、しっかりと聞きました。仮に陛下が暴走するようなことがあれば、堂々と阻止することができます」
「良かったー。これでずっと聞きたかったことも聞けるよ」
孤児院の件を話す前に、まずはフォルスト陛下に聞かれていたことを正直に話すことにした。
「えぇと、報酬は一日一食のパンや残り物をいただいていました」
「「は?」」
「たまーに、使い古しの服を貰えたりしていましたよ」
「「はっ?」」
「だからこの国の報酬はすごいなぁってずっと思ってました。特に、金貨のような綺麗な飾り物をいただけるのは本当に嬉しくて……」
「ちょっと待て! フラフレ殿はハーベスト王国のどこで住んでいたのだ?」
「え……、幼少期は住む場所があったのですが、廃墟となってからは地下牢です」
「「はぁぁぁぁぁあああっ?」」
さっきからアクアとフォルスト陛下の息がピッタリだ。
私に対して今までにないほど驚いたような反応をしている。
「地下牢で聖なる力を解放し続けろとジャルパル陛下から命じられていたので。どちらにしても、当時行く場所もなかった私は従うしか方法がなかったのです」
ついにフォルスト陛下とアクアは反応すらしなくなって黙ったままになり、私の過去の話を聞く姿勢になっていた。
「でも、孤児院出身の身分がない私ではなく、貴族出身の聖女だけで国を護るようにしたいと言われて私は廃棄処分されたってわけです」
そう言った瞬間、フォルスト陛下がやたらと驚いたように反応した。
だが、構わず私は話を続けようとしてしまった。
話し始めたら止まらないのだ。
ずっと言いたくても言えずにため込んできた過去の話が、まるでマグマが噴火するように口から全て吐き出されていた。





