【ハーベスト王国サイド】バルメルの作戦
大変お待たせ致しました。
概ね展開や方針が決まったため、更新を再開します。
※以降の更新は週1ペースになります。
「ミーリに頼みたいことがある」
「なんでしょうか、お父様」
バルメルは自室にミーリを呼び出し、彼による計画が始まろうとしていたのだ。
「隣国にリバーサイド王国という国がある。その国は毎日のように雨が降り続き、我が国から食料を買っていかねばならないほど酷い有様だ。しばらくの間、護衛をつけてリバーサイド王国へ出張してもらいたい」
「そんな地獄のような国へ私が行かなければならないのですか……?」
「ミーリには聖なる力がある。その力を見せつけてくるのが今回の狙いだ」
バルメルは、確信していた。
王宮の農園で育てた野菜を食べているミーリならば、国を丸ごと一人で支えられるくらいの力を持っているだろうと。
今後のハーベスト王国はミーリ一人で十分だと思えば、他の聖女たちがバルメルにとっては邪魔になってくる。
「見せつけてどうするのですか? もしその国が私を欲しがったりしても他国で過ごすなんて嫌ですわ」
「他の聖女たちをリバーサイド王国へ売るのが目的だ。ミーリが不在中も残った聖女たちでこの国の天候を晴れさせていれば、やつらも納得するだろう。リバーサイド王国が求めているものは、雨の降らない国なのだ」
隣国に恩を売っておけば、ハーベスト王国にとっても莫大な利益が生まれる。
他の聖女がいなくなりミーリが国を支えるような大物にさえなれば、公爵家の名前も歴史的に残せるだろうとバルメルは思っているのだ。
「私がいなくてもこの国は大丈夫でしょうか? 他の二人では荷が重すぎるのでは?」
「兄上が育てている野菜があるから大丈夫だろう。聖女たちには食べさせると言っていたぞ」
「私にはただの野菜としか思えませんでしたけど……。むしろ毎日農家から仕入れている野菜のほうが美味しいと感じましたが」
「兄上いわく、王宮で育てた野菜は疲労回復、体力回復の効果があると聞いたが」
ミーリは野菜が大好物なため、今の王宮で採れた野菜には納得ができなかった。
だが、これ以上主張してしまうと今回の提案すらなくなってしまうかもしれない。
ミーリはバルメルの提案を利用して、自分が都合の良い展開になっていくのではないかと考えていた。
「野菜はともかく……。これは私にとってチャンスですし、リバーサイド王国へ行ってきましょう。その間、聖女たちにはしっかりと加護を与えるように命令しておきますので」
「期待している。リバーサイド王国では、必ず自らが聖女だということを主張してから加護を与えるのだ。ハーベスト王国には素晴らしい聖女がいるということを知らしめるために」
「確か、リバーサイド王国にはフラフレも行ってますわよね……? ハーベスト王国の聖女の印象が悪くないか心配です」
「それは問題ない。御者に確認したところ、あの女はもう生きてはいないのだよ」
「なぜですか?」
「王都の近くで乗り物酔いをしたらしく荒野に捨てたらしい。これぞ廃棄だ」
それを聞いたミーリはクスクスと笑い始めた。
「お父様ったらこんなときに冗談ばかり。そんなことになっていたら、聖女代表だった女だというのに聞いて呆れますわね」
ミーリはベルメルとは違う視点で考えていた。もしも自分が国から離れてしまえば二人の聖女が悲鳴を上げながら力を解放していく姿を想像していた。
(伯父様たちも、私の聖なる力が規格外だということをわかってもらえるチャンスね。それでもこの国を私一人では限界があるし、他の聖女たちにもリバーサイド王国には渡さない)
ミーリがいなければ国が崩壊するかもしれないという大変な状況を経験し、国の存続も危うくなることを理解してもらえるチャンスだと考えていた。
「この件は陛下には黙っておくように」
「なぜですか?」
「これは私の独断だからだ。だが結果を知れば陛下からも評価されるだろう」
「良いのですか……?」
「ミーリの聖なる力がそれだけすごいと確信しているから大丈夫だ。隣国に貢献すれば、向こうの国と我が国ではミーリこそ英雄聖女であると歴史に名を刻むだろう」
バルメルは自分自身が偉いと思うばかりに、頬を掻きながら照れていた。
このあと、大きな手柄を立てることでジャルパルから褒美をもらえ、ミーリが国中から感謝されるだろうと思いながら。
「わかりました。すぐにでも出発してリバーサイド王国に私の素晴らしさを見せつけて差し上げますわ」
「うむ、期待している」
バルメルは知らなかった。
ミーリと二人の聖女が力を合わせて本気で努力すれば、王都だけは僅かながら晴れ間を作ることができたことを。
それぞれの企みによって、ジャルパルの運命が大きく変わってしまうことなど二人は知らない。





