43話【ハーベスト王国サイド】ジャルパルの思い込み
ハーベスト王宮にて。
ジャルパルの弟でありミーリの父親でもあるバルメルは、国の一大事を感じていた。
「兄上……、民衆から非難が殺到していますぞ!」
「なにをそこまで恐れている? 国王という立場である以上、民衆からの非難などあって当然のことだろう」
「国王が聖女を独り占めしているという噂が広まっているのですよ!」
「私の体調が悪いというのに面倒ごとが次々と……」
最近、ジャルパルの体調はすこぶる悪くなった。
それもそのはずで、フラフレの聖なる加護付きの野菜が食べられなくなったためである。
ジャルパルは美味しい野菜を再び食べるために、ミーリを利用した。
王宮だけでも晴れるようにさせたことで、野菜は育ち食べられるようにはなった。
だが、その野菜はどこにでも売られている普通の野菜と変わらない。
美味しい野菜を再び食べるという目的が達成できていないのに、民衆からの非難。
ジャルパルは頭を抱えた。
「民衆たちの具体的な要望は?」
「王都全体が晴れるように聖女を使ってほしいと。多額の税を聖女に対して使っているのだから国のために力を使わせてくれと。このままでは作物が育たず食料難になるという不満も耳にします」
「相変わらず勝手な奴らだ。聖女たちへの給金は今までの倍にしたことは認めよう。だが、物事には順序というものがある」
「私も今回の非難には同意ですよ。なぜ王宮だけ晴れるようにしているのでしょうか。ミーリはしっかりと働いているのでしょう?」
「それは……」
ジャルパルは言い淀んだ。
ミーリの聖なる力がこれほど弱々しいものだとは想定外だったのである。
だが、実際のところはミーリの力は聖女の中でも強い力を持っている。
弱々しいと感じてしまうのは、フラフレの聖なる力が規格外だったからだ。
そのことをジャルパルはまだ気がついていない。
「ミーリは聖女としてしっかりと活動している。だが、最近どうにも調子が悪いようでな。できる範囲でやらせたほうが良いだろう」
「しかし、王宮のためだけに聖なる力というのは……。国のために力を使ってくれる子になってもらいたいのです」
「わかっている。しっかりとそのための策も練っているのだ」
「と、言いますと?」
「王宮にある農園のことは知っているだろう?」
「はい。兄上の趣味でしょう?」
「そうだ。今まで黙っていたが、あの農園は特別だ。なぜかは知らぬが、ここの野菜は食べると元気になる力がある。まずはここの野菜をしっかりと収穫できるようにし、ミーリたち聖女にも食べさせ、本来の聖なる力を発動できるようにしてもらいたい。そのためにまずは王宮だけに力を発動させた」
本当はジャルパル自身が美味しい野菜を食べたいからだとは、口が裂けても言えない。
正当な理由をこじつけてジャルパルが得をするというのが鉄則なのだ。
だが、ジャルパルが食べたがっている野菜には、肝心の土に聖なる力が宿っていない。
王宮にある農園は特別な野菜だとジャルパルは思い込んでいたが、実際に食べてみてさすがに違和感があったのだ。
(私の野菜がどうもおかしい。美味しいことに変わりはないが、元気になりづらくなった気がする。長い間収穫をサボったせいなのか……?)
「兄上が誰にも協力を求めずに農作業をしていた理由がようやくわかりました」
「うむ、黙っててすまなかったな。まもなくミーリが本調子で聖なる加護を発動してくれることだろう」
「それにしても、フラフレとかいう女が出ていってから、国がおかしくなってしまいましたな」
「なにをバカなことを言っている。あの女は自分のためだけに聖なる力を使い、国に貢献していなかったゴミだ。いなくなったところでなにも変わらぬよ。偶然にすぎぬ」
実際のところ、フラフレは冷遇を受けながらも最後まで国のために聖なる力を使っていた。
それをジャルパルは、あろうことか自分のためにしか力を使っていないと勘違いし、身分が低いうえに役にも立たない女など廃棄してしまおうという決断を下した。
「もしもですよ? フラフレが自分自身のために力を使っていたのは極々わずかで、実はほとんどの力を国のために地下牢から発動していたとしたら……」
「それはありえぬ。地下牢で野菜をこっそりと育てることができ、我々への嫌がらせのために地下牢の土の品質を変えてしまったのだ。気候以外の聖なる力など聞いたことはないが、おそらく莫大な力が必要だったはず。それを常に使っていては国に貢献する余力などないはずだ」
「確かにそうですが……」
「宰相という立場であるお前とて、年功序列によってフラフレが聖女のリーダーとなっているのは邪魔、ミーリこそ聖女のリーダーに相応しい、などと頻繁に言っていたではないか」
「それはもちろんです。ミーリには公爵家として恥じのない素晴らしい聖女になってもらい、民衆からも絶大な支持を得たいと考えています」
「ならばフラフレのような廃棄品についてこれ以上考えることはあるまい。ミーリが活躍できる場を作っていけば良いし、私も協力する。そのために聖女の最高司令官として任命したではないか。私は彼女に期待している」
「た……確かにそうしていただけるなら私としても好都合ではありますが……」
バルメルはふと考えた。
ミーリの功績がまだまだ甘いものであり、このままでは聖女として称えられないのではないかと。そのうえミーリの仕事が増えて過労になってしまうのではないかと。そのことをジャルパルには隠すことにした。
「わかったら、民衆どもにしっかりと言い訳せよ。聖女ですら手に負えぬ異常気象とでも言い、打破するためには、まず王宮から基盤を整える必要がある。聖女の力を回復させれば、いずれハーベスト王国全体に明るい兆しがくると。それまで耐えよ、とな」
バルメルはミーリの手柄だけを考えていて、彼女に全てを賭けている。チャンスを掴むまでは理不尽であってもジャルパルの意向に従っていた。
「承知しました」
「いつもながら素直に従ってくれて助かる。これからも期待しているよ」
バルメルはジャルパルになにも言わなかったが、彼もまた密かに悪巧みをしているのだった。





