4話 フラフレは嫌がらせを受けた
馬車の揺れ、今の私にはかなりキツい。
酔って吐いてしまいそうだ。
だが、貴重な栄養源を出すわけにはいかないため、必死で我慢した。
我慢しているところへ追い討ちをかけるように、馬車の外から民衆の声が届く。
「あれよあれ! あの女が一人だけ王宮で良い思いをしてきたって噂の孤児院出身の聖女だそうよ!」
「うわ、ほとんど骨みたいなあんな女がか!? よくもまぁ聖女だなんて主張してこられたもんだ」
「あんな気色悪い女に俺たちの稼いだ金が使われていたと思うとイラつくんだが!」
「とっととハーベスト王国から出て行け! 二度と戻ってくんじゃねー!」
私は初めて、今までやってきたことが無駄だったということに気がつかされた。
私って、ただの税金泥棒だったんだ……。
悔しくて、悔しくて……、涙が止まらない。
馬車酔いもさらに酷くなってきたときは、すでに王都の外側へ出たところだ。
馬車を汚せば御者になにをされるかわかったものじゃない。下手をすればこの広い荒野で降ろされるかもしれない。
だが、心身ともにもう限界だった。
「何だ元聖女よ、顔色が悪いが酔ったのか?」
御者が私のほうを向きながら声をかけてくれた。
「はい……。吐きそうです」
「そうか。ならば楽にしてやるよ。そーれっ!」
「ひいっ!」
馬車は左右に激しく蛇行しながら進んでいく。
無駄に揺れ、私の吐き気は一層激しくなった。
「やめて……、どうしてそんなことを……」
「お前は国の税金泥棒だろう。犯罪者にはそれなりの償いが必要なのさ。おっと、もしも中で吐いたら命はないと思えよ?」
そのあとも左右に揺れ、急加速急減速をくり返された。
本当に、もう限界だった。
馬車が停まった瞬間、私は必死の思いで飛び降りた。
「おっと、こんななにもない場所にご用かい? じゃ、俺たちはこれで失礼するよ。せいぜい元気に生きることだな!」
御者は満足そうにしながら私を置いて王都方面へと進んでいった。
立ち上がれないほどの馬車酔いをしてしまい、私はその場で嘔吐をくり返す。
ひととおり全て出てしまったところで、もはや私の身体には栄養がほとんどない。
仮に酔いが醒めても、もう歩くことすら困難だろう。
「さようなら、私の人生。せめて……、もう一度だけ孤児院にいた、お兄ちゃんのように慕ってた人に逢いたかった……」
私はその場で目を瞑った。
なにか馬車のような音がしてきたような気がするが、私にはもう目を開ける力も残っていない。
そのまま、意識を完全に失った。