39話 フラフレはいつもどおりに戻る
いつもどおりで良いと許可をもらえたため、本当にいつもどおりだった。
王宮の農園と同じように、まずミラーシャさんの畑にダイブ。
まずは土の香りを確認する。
これはかなり良い土だと思う。
最初に王宮でダイブしたころの土よりもしっかりしているし、これならば野菜が育つくらいのクオリティはあるだろう。
それでも水分が多く、ところどころ土ではなく砂のような状態になってしまっている。
と、いうことはまず初めにやることはひとつだ。
『どうか、元気で昆虫さんたちも生活できるような土になりますように』
王宮の農園でやったことと同じことをしてみる。
王宮の農園では脳内だけで処理してしまったが、今回はしっかりと声に出して祈ってみた。
聖女としての力を失ってしまったはずだし、私の聖なる力のジャンルとは違う部類ではあるが、祈ればなんとなく元気になってくれそうな気がしているのだ。
さっそく土をモゾモゾ、手でガサゴソといじくったのだが、ここで不思議なことが起こった。
さっきまで触れていた土の質が明らかに変化してきているのである。
砂と化していた部分もなぜか栄養価の高そうな土へと変化し、元々土として機能していた部分はこれまたより良質なものへと変わったのだ。
「まさか……ね?」
一瞬、私に聖なる力が戻ったんじゃないかと疑ってしまった。
だが、身体は疲労感すらないためおそらくは違う。
きっと、なにかの偶然なのだと考えた。
しばらく土と戯れたあと、元々ミラーシャさんが植えていた野菜に加えて、農園全体に野菜の葉っぱや種を追加して植えた。
『どうか、この農園に美味しくて栄養のある野菜が育ちますように』
これまたいつもどおりに、野菜たちにお願いをした。
楽しすぎて今何時なんだろうか。
アクアたちのほうを振り返ると、ミラーシャさんが私に手を振ってくれた。
「今戻ります~」
満足したし、農園を出てアクアたちのいるテーブルへと戻った。
「お疲れ様でした」
「ありがとう。想像以上の力を見せてもらって満足だわ」
「力?」
そういえばさっきも私の力がどうのこうのと言っていたっけ。
「さっきアクアちゃんからも聞いたけれどね、フラフレちゃんも自覚はしていたほうが良いわよ。聖女だってことを」
「はい?」
どうしてミラーシャさんは私が聖女だっていうことを知っているのだろう。
そう思った瞬間、私はとあることに気がついた。
ほんの僅かだが、ミラーシャさんの身体から聖なる力を感じたのだ。
「聖女……?」
「もう力は衰えているし、昔の話よ」
「フラフレ様。今まで黙っていて申し訳ありませんでした」
「はい?」
なぜかアクアが謝ってきた。
話の意図が全く読めないため、詳しく聞き返した。
「フラフレ様が聖女であることは私も陛下も知っていました。しかし、知っていることは黙っておこうという話になり……」
「全く知らなかったよ」
「ですが、こちらのミラーシャ様のお話を伺い、むしろフラフレ様は聖女として認識しておいたほうが良いのではないかというお話をいただきまして」
「でもさ、私は前は聖女だったけれど、今はなんちゃって聖女だよ。力も放出できていないみたいだし……」
私は、てへっと笑いながら使えない聖女だということを明かした。
しかし、二人は意外にもクスクスと笑い始めたのだ。
「本当にフラフレちゃんは無自覚のようね。あなたは正真正銘、立派な聖女よ。それもとびきり凄まじい力を持っているわ」
「へ?」
ミラーシャさんの言っていた力って聖女の力のことだったんだ。
だが、私には全く自覚がない。
周りからは見えているのだろうか。