36話【ハーベスト王国サイド】ミーリにもできること
「ミーリよ、そろそろ太陽が姿を出すようにしてくれないと困るのだが」
「おかしいわね……。聖なる力で毎日祈っているつもりでしたが……」
ハーベスト王国の王宮にて。
ミーリに対して今まで以上の報酬を約束したにもかかわらず、太陽が姿を見せてくれない。
このままでは国としても聖女がいるのにどうして雨ばかりなのだと民衆から文句が殺到してしまうだろう。
痺れを切らしたジャルパルは、ミーリを呼び出したのだ。
「聖女としての活動を疎かにしているのではあるまいな?」
「そんな……! 伯父様は私を疑うつもりですか?」
「だが、一度も晴れ間どころか雨が止むことすらないではないか。その影響で王宮で育てている野菜すら萎れてしまっているのだ」
ミーリは自分の力に自信を持っている。
だが、一人だけの力では国を支えることまではできないことくらいは理解していた。
「きっと、他の聖女たちがしっかり働いてくれていないからですわ!」
「ほう……」
「他の聖女たちにも文句を言ってください。どうして私だけが怒られなければならないのです?」
「ミーリが聖女としての最高責任者であるからだ。キミが部下を指導し、徹底してもらう必要がある」
「フラフレが聖女代表だったときは伯父様が私たちに命じていたではありませんか……」
「庶民が王族や貴族に命令されるのは嫌だろう? それに私が指示していたときは上手くいっていた。今後はミーリが聖女代表として徹底し王都を晴れさせるのだ」
このとき、ミーリは初めてジャルパルに対し不満をもった。
こんなことになるなら、フラフレがなにもせずに地下牢で過ごしてもらっていたほうがまだマシだと思ってしまうくらいに。
「先に言っておきますね。他の聖女たちに再び力を使い始めてもらったとしても、晴れるまでにはかなりの時間がかかってしまうと思いますよ」
貴族だけになった聖女たちなら自発的にしっかりと働いてくれる。そうジャルパルは確信していたからこそ、苛立ちもあった。
「ならば……、管理不足の責任としてミーリには罰を与えなければならない」
「そんな……。たった今聖女の最高責任者って知ったばかりなんですけど」
「つまり、フラフレなどよりもレベルの低い聖女だと自ら認めるのだな? 部下を管理し、指導と教育もできて真の聖女と言えるのだが」
ミーリはジャルパルに逆らえなかった。
さらにミーリにとって、フラフレと比べられるのはこの上ない屈辱でしかない。
悔しさのあまり、思ってもいないことを言ってしまうのだった。
「わかりましたよ。聖女の誇りにかけても徹底させますよ!」
「うむ、それでよい。今後の活躍と改善を期待している」
ジャルパルは笑みを浮かべながらミーリの肩にそっと手を置いた。
ジャルパルにとって、なにかあったときに責任をある程度なすりつけることができる駒が欲しかったのだ。
ミーリ自らが聖女代表をすると発言したおかげでそれも叶った。
ジャルパルが笑った理由は、目的を達成したからである。
♢
数日経っても天気は雨のまま。
ジャルパルは再びミーリを呼び出した。
「いったいいつになったら晴れ間を作ってくれるのだ?」
「ちゃんと聖女たちにも毎日祈ってって言いましたよ!」
「言うだけではなく、結果が大事なのだよ。このままでは、私の特製野菜すら食べられないではないか。王宮で育てている野菜は、ミーリだって何度も喜んで食べていただろう」
「そんなこと言われても……。こうなったのは私のせいじゃなくて、他の聖女たちですわよ。何度も私にあたらないでください!」
「あぁ、さすがにすまぬとは思っている。こう長く新鮮な野菜を食べられないストレスもあってな……」
「それには私も同感ですわ。今まで伯父様が趣味で育てていた野菜だけは異常に美味しかったのに、それが食べられなくなって最近調子が悪い気がしますもの」
「ミーリもそうか。実は、私も今までのように身体がハキハキと動いてくれないのだよ……」
今まで王宮の農園にはフラフレの聖なる力が宿っていた。そのため、育った野菜も栄養価が高く、さらには治癒的な効果があった。そしてジャルパルたちはそれを知らず、当たり前のように食べていた。
だが、それは過去の話である。
フラフレを追放し、さらに地下牢の工事によって聖なる力が残っていた土まで国外へと廃棄した今となっては、もはやただの農園なのだ。雨が降り続く現状で野菜がまともに育つはずがない。
「仕方があるまい……」
「なにか打開策でも?」
「あぁ。ミーリよ、しばらくの間は他の聖女や民間人にバレないように、王宮にだけ聖なる力を発動するようにできぬか?」
「王宮だけですか?」
「そうだ。国中に力を放つよりも一定の場所にだけ力を解放したほうが短時間で影響が出るうえに効果も大きいのだろう?」
「もちろんそうですけど」
ミーリはそれくらいなら自分一人でも十分すぎるほどの力を発揮することができると確信している。
だが、色々と問題は多いため聞き返した。
「王宮だけ晴れさせてどうするのです?」
「私は美味い野菜が食べたくて仕方がないのだ! あの野菜があったからこそ今まで国務も元気にやってこられたような気がする」
「言われてみれば私も、あの野菜で毎日調子が良かったとは思いますが……」
王宮の農園にはなにか不思議な力があるものだとジャルパルは睨んでいる。この野菜を独占したいがためにジャルパル自身で野菜を育て収穫していた。
だが、それがフラフレの力だとは微塵にも考えたことはなかったのだ。故に、ミーリが王宮にだけ加護を与えて太陽さえ出てくればなんとかなると思っていた。
「これって私利私欲で加護を与えてしまうから、職権乱用の違法行為になってしまうんじゃないんですか?」
「なにを言っている? これは私利私欲などではない」
「え? どうして……?」
「国の最高機関の人間は常に本調子で元気でなければならぬと思っている。つまり、野菜だけでもしっかりと育て、まずは私……いや、むしろミーリが元気になることで聖女活動も順調になる。その結果、国が再び活気づけば誰も文句は言うまい」
「なるほどー! それなら私としても美味しい野菜が食べれるし願ったり叶ったりですわ!」
ジャルパルは再び野菜が食べられると確信してホッとした。もちろん、ミーリにも食べさせるという口実の元、一番食べたいと思っていたのはジャルパル自身である。
だがジャルパルは気がついていなかった。
かつて、フラフレに対して私利私欲で地下牢に聖なる力を使っていたことに激怒していたことを。
そして今、ミーリに同じことを強要しているのである。
「そういうことだ。だが、民衆たち、いや貴族たちにもそんなことがバレてしまえば反感を食らう可能性が高い。保険ということで黙っておくのだ。良いな?」
「はい! でもさすが伯父様ですわね。しっかりと先のことまで考えて、なんだかんだで指示してくださるなんて」
「当然だ。さっそく王宮にだけ力を使うように頼む」
「はい」
ミーリは言われたとおりに王宮にだけ日差しが差し込むように祈った。
その結果、不思議なことではあるが王宮にだけは雨が降らず、王宮にだけ太陽の光が差し込むようになったのだ。
王宮には大きな城壁で囲まれているため、民衆側からは異変に気がつくことも難しい。
さっそく野菜の手入れを再開したわけだが、不思議と今までのように野菜がすくすくと育つことはなく、なかなか実らなかった。
さらに数週間のときが経ち、ようやく野菜が実ったのだが、その野菜には聖なる力の加護はなく、ただの野菜にすぎなかった。
なにも知らずにジャルパルとミーリは収穫した野菜を食べたのだが……。
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